61話 故障
「音は止まったぞ!」
「音は止まってもゾンビは止まってないよ!」
入り口には数十体のゾンビが集まってきている。こんなの倒してたらキリがない。何か周りに使えそうなものは……。工具に消火器、作業途中の車……。
「このっ!」
中村が消火器をゾンビに向けて噴射したが、効いてない。こうなれば作業途中の車でゾンビをなぎ倒すか。問題はどの車が閊えるかどうかだ。リフトに上げてある車はつかえない。あとは残るはタイヤ交換中のセダンとダッシュボードが外されているミニバンの二択か……。選ぶならミニバンか。
「おい!こっちのミニバンに乗れ!これで突破するぞ!」
「ちょっと!そんな状態で動くの!?」
「動く!……多分」
さっそく、運転席に座ってエンジンをかけてみると一発でかかった。ただ、メーターパネルは配線が外されているのか液晶は真っ暗なままだ。だがアクセルを踏めばエンジンが唸る。動けばいいんだ。この車の持ち主には悪いが、この車は使い捨て決定だ。イザベラが散弾をゾンビに食らわせた後に車の後部座席に乗り込んだ。
「早く行って!」
車をバックさせて出入口のほうに頭を向ける。目の前には数十体のゾンビがこっちに向かってきている。さらに、店との出入り口のドアも壊されそうだ。ブレーキとアクセルを同時に踏んでエンジンの回転数を上げる。
「しっかり掴まれ!」
その言葉を言った後に、後部座席のイザベラと中村がアシストグリップをしっかりと握ったのをルームミラーで確認した。ブレーキから足を話すとタイヤがスキール音を鳴らしながら急発進して目の前のゾンビを跳ね飛ばす。ゾンビを跳ね飛ばすたびに車の速度が下がっていく。ゾンビの群れを突破したころには小走り程度の速度まで落ちたいた。さらに、ボンネットから白い煙も出てきている。ラジエーターが壊れたな。
「この車はダメだ!降りて走れ!」
それぞれ車から降りて駐車場に止めてある乗ってきた車に走る。駐車場にはゾンビが比較的少ないが、さっき跳ね飛ばしたゾンビが起き上がってこっちに向かってきている。イザベラが散弾を込めなおしている。
「早く乗って!行くよ!」
中村が運転席に乗ってエンジンをかけていた。後部座席に乗り込むと車が発進した。幸い駐車場の出入り口にはゾンビが少なくてよかった。こんなところで車が壊れれば逃げ切れる気がしない。たかがカーナビ一つ手に入れるだけでここまで苦労するとは思わなかった。だがおかげでカーナビを手に入れることができた。
「中村、カーナビどこやった?」
「後部座席にない?」
「あ、あったあった」
カーナビの箱を開けると、中に本体が入っていたが、画面が割れていた。
「おい。画面われてるぞ」
「もう一個あるでしょ」
もう一つのほうの箱は外装がボロボロになっているが中身を見てみると大丈夫そうだ。一応壊れてる方のカーナビは後ろに置いておくか。箱からカーナビを取り出してシガーソケットに刺すと電源が付いた。初期設定をしていくと、地図が出てきた。あとは目的地を設定してダッシュボードに固定すればいいだけだ。
「これ、ダッシュボードにくっつけといてくれ」
「わかったよ」
助手席のイザベラがダッシュボードのエアコン吹き出し口上に両面テープで張り付けた。これで道に迷うことはないだろ。ただ、この先通れない道もあるだろう。そんな時でもカーナビが再検索してくれるからもう迷うことはないな。ナビだと下道で6時間ほどか。だけども。実際はもっとかかるだろうな。すんなりと進めるとも思ってないからな。
「6時間かぁ。2日くらい見といた方がいいのか?」
「どうだろ。どこかで食料も手に入れにとかないと」
「どうせコンビニかスーパーくらいあるでしょ。一、拳銃貸して。弾込めとくよ」
「お、ありがと」
イザベラに拳銃と弾を渡す。イザベラは慣れた手つきでマガジンを取り出すと、弾を込め始めた。
「いい加減に射撃の腕上がらないの?」
「そんなこと言われたって……」
「もしかして小銃のほうが向いてるんじゃない?」
「そうなのか?今度撃ってみる機会があったら撃たせてくれよ」
「いつでも撃てるでしょ」
外を見ると、流れる景色が緑が多くなって来た。……なんかエンジン音おかしくないか?
「なんかエンジン音おかしくないか?」
「うん。アクセル踏んでも加速が鈍いっていうか……」
後ろからメーターをのぞき込んでみると、エンジンチェックランプがついている。これは壊れたな。せっかくカーナビも取り付けたけど、乗り換えるか。
「ゾンビの少なそうなところで停めてくれ。乗り換えるぞ」
「乗り換えるって言ったってまず車が無いよ」
周りを見渡すが民家がない。あったとしても、軽トラや、耕運機ばかりが止まっている。普通の車は止まってないところを見ると逃げるのに乗っていったんだろう。その結果が目の前で事故を起こして止まっている車だ。
「ヤバい。加速しなくなった」
車のスピードメーターは20キロをさしている。さすがにこれは早急に何かしないと、ゾンビの集団の真ん中でエンジンが止まればゾンビの仲間入り確定だ。片側一車線の道を走っていると、対向車線からトラックが迫っているのが見えた。トラックが速度を緩めて止まった。こっちも速度を緩めてトラックの真横で止まる。トラックじゃない。トレーラーだ。荷台にはスポーツカーが数台乗せてある。
「おい」
トラックの運転手が窓を開けて話しかけてきた。中村が窓を開けた。
「この先でスポーツカー見かけなかったか?」
「いや、見てないよ」
「そうか。わかった。ありがとよ」
なんでスポーツカーばかり集めてるんだろうか?トラックが発進しそうになった時にもう1人助手席のほうから男が顔を出してきた。
「おい。なんかその車故障してないか?」
「そう。加速しなくなったの」
「だったら後ろに乗せろよ。俺たちのところで直してやるよ」
「おい。勝手に決めていいのかよ?」
「たまにはこういう車を直すのもいいだろ。ゾンビが少ないうちに乗せろよ」
トレーラーの運転席と助手席からつなぎを着た男が2人降りてきてトレーラーの荷台のハッチを開けた。




