56話 火災跡
「起きて」
中村にたたき起こされた。横を見るとイザベラが中村が入っていた寝袋に入って寝ている。
「はい。銃」
中村から散弾銃を渡された。
「何か変わったことはあったか?」
「特にない。駐車場にはゾンビが数体いるけど、こっちには気が付いてないみたい」
「わかった。ゆっくり寝てくれ」
「いわれなくても、そうする」
散弾銃を持って正面入口へ行く。イザベラと話していた時と駐車場にいるゾンビは変わってない。散弾銃を抱えたまま座って外を眺めているが……暇だ。
これから自衛隊の基地に行って自衛隊員がいれば撤退。いなければ武器の補充。……だが、そこからどうするかだ。いい加減こんな風に逃げ回るのも限界がある。どこか安全な場所に定住する必要がある。ただ、自衛隊が仕切っていたり、いるようなところは無理だろう。イザベラの事が伝わってるかもしれないし。
気が付くとゾンビが自動ドアの目の前に立ってこっちを見ている。……もしかして気づかれたか?散弾銃を握りしめているがゾンビは一向に動かない。あれ?すごい目は合ってるのに気が付いてないのか?目は見えてないみたいだ。その後ろには俺たちの乗ってきた車をベタベタ触っているゾンビがいる。あーあ。血でべとべとになった。
そのまま外を眺めていると、うっすらと明るくなってきた。もうそろそろ、この店にある食料品を車に積んで出発しないと。できれば今日のうちには自衛隊の基地にはたどり着いておきたいところだ。みんなを起こしに行くか。
「おい。起きろ」
「え?もうそんな時間?」
「明るくなり始めている。準備して出発するぞ」
「私が駐車場にいるゾンビを倒すから荷物は頼んだよ」
イザベラが駐車場にいるゾンビを倒して、俺と中村が車に食料品を積み込む。イザベラの負担がでかいかもしれないが、武器は一つしかないし、ゾンビを一撃で倒せる力を持っているのはイザベラしかいない。
「ふん!」
イザベラが乗ってきた車の付近にいたゾンビに散弾銃をフルスイングすると、首が変な方向に曲がった。やっぱりすごい力だ。その間に車に乗せれるだけの物資を積み込む。積み込みが終わるころにはイザベラは5体のゾンビの首の骨をへし折っていた。
「行くよ」
「今回は中村が運転するんだな」
「たまには運転しとかないとね」
「道順わかってるのか?」
「何となく」
助手席に座ってカーラジオを操作するがやはり、どこの局も入らない。
「どこも入らないでしょ」
「あぁ」
カーラジオを消して外を眺める。これがただのドライブならどれだけ楽しいか。
「やっぱり山ならゾンビも少ないね」
「前の家に戻る?」
「馬鹿言うな。熊との共同生活でもしてみるか?」
「命がいくつあっても足りないって」
「イザベラ、お前がその言葉言うなよ」
いい加減、イザベラに頼り切る俺と、中村も少しは考え直さないと、イザベラがいなくなったとき生き残れる気がしない。イザベラに何回助けられたか。
交差点の青い案内表示板に直進、豊川市と書いてあった。
「豊川市って、でかいの?」
「でかいよ。確か、18万人くらい住んでるはずだよ」
「よく知ってるな」
「前に、仕事関係で調べたことがあるの」
「ってことは、数万のゾンビがいるってことか?しかも、その真ん中に目的地の自衛隊の基地があるのか……」
道の端に豊川市の看板が出てきた。
「豊川市に近づくに連れてゾンビの数が増えてきた」
「もう、車は限界かな?」
「いや、歩くほうが危険だろ。一発でも掴まれればアウトなんだぞ」
「車でも囲まれれば終わりでしょ」
「今回はもしかしたら自衛隊から逃げることも考えてるから……ね」
車を直進させていると、事故車両で道がふさがっている。いや、微妙に通れそうなスペースはある。
「通るつもりか?」
「いや、無理でしょ。横の脇道に行くよ」
車を住宅街の脇道に入った。ここら辺は火事が酷かったみたいだ。そこらじゅうの家が黒焦げの柱だけになっている。道の恥には真っ黒に焼けた消防車が数台止まっていて、その周りには消防服を着て半分焼けただれたゾンビがいる。そうか。消火活動をゾンビに邪魔されたからここまで火事が広がったんだ。
「ひどいね」
「あぁ。もしかすると、自衛隊基地もダメかもな」
「行くだけ行ってみましょう」
さらに車を進めると、次第に焼けている家が少なくなってきた。そして、ゾンビの数も多くなってきた。これ以上は細い路地を進むのは厳しいかもしれない。広い道のほうがゾンビの密度が低い。
「広い道に行けよ」
「そうだね。さすがにこれ以上増えたら、身動きできなくなりそう」
広い道に出ると、すぐにバリケードが目に入った。だが、これはゾンビ用じゃない。テレビとかで見たことがある。車用のバリケードだ。
「なんでこんなところにバリケードが?」
「自衛隊の基地ってこの先だよね。どうする?車乗り捨てる?」
「そうだな……」
「まって、端のほうのバリケードずれていて通れそうだよ」
イザベラが指をさしたところのバリケードがずれて乗用車なら1台は通れそうだ。周りを見ると、ゾンビがこっちを見てゆっくりと寄ってきている。
「早く行かないと」
ゆっくりと、ゾンビを押しのけながら進む。たまに、ドアに体当たりしてくるやつがいるが、何とか大丈夫そうだ。確か、自衛隊の基地はもうすぐだ。
「あ、またバリケード」
今度は人の背丈ほどあるフェンスタイプのバリケードが両端に止められている機動隊のバスから伸びている。バリケードの向こう側にもゾンビはいるが圧倒的に少ない。
「乗り捨てる?」
「いや、物資を回収して戻ってくるぞ」
「え?装甲車とかに乗り換えればいいじゃん」
「燃費が悪すぎる。そして、こういう普通の車のほうが壊れた時にパーツを入手しやすいんだよ」
助手席の足元から発煙筒を取り出す。
「昼でも効果あるの?」
「やってみる価値はあるだろ」
発煙筒に火をつけて外に放り投げる。地面に転がった後、発煙筒に向かってゾンビが歩いていく。効果はちゃんとあるようだ。ゾンビが車から離れたのを確認してから車から降りる。ゾンビが発煙筒に引き付けられているうちにフェンスを上る。フェンスの向こう側のゾンビはこっちにはまだ気が付いてないようだ。
「ゾンビ少ないね」
「一応、バリケードでふさいであったからな。ただ、どこかのバリケードが壊れて侵入してきたんだろ」
「この様子だと基地は壊滅してそうだね」
「一応、武器が残ってないかだけ見に行こう」
「ただ、このまま進むのはキツイと思うよ」
確かに車に乗っていれば進めそうだが、生身だとキツイ。しかも武器がないからな。
「どこかで車を手に入れよう。またそこら辺の家から持ってくればいいだろ」
「そうだねっ!」
イザベラが近寄ってきたゾンビに散弾銃をフルスイングしていた。




