55話 相談
え?何が起こったんだ?そして、右手が痛い。
「大丈夫!?」
「何が起こったんだ?視界が一回転していたんだが」
「その通り一回転してたのよ!」
起き上がって車のボンネットを見ると大きく凹んでいた。ボンネットの向こう側には固まっているイザベラがいる。これで何となくわかった。イザベラの力は人並み外れたものになっている。もう少しほかのもので試せないものか……。周りを見渡してみると中身が入ったままの缶コーヒーが転がっていた。それをイザベラに渡す。
「なにこれ?」
「握ってみろ」
イザベラが思いっきり握ると缶がつぶれて中身が噴き出てきた。
「え?嘘」
イザベラ本人が驚いてどうする。やっぱり、イザベラの力はおかしいことになっている。まるでそこら辺にいるゾンビのようだ。
「なんで!?ついこないだまでは普通だったのに」
「そんなことよりも中に入ろうよ!集まってきたよ」
中村に言われて周りを見ると、ゾンビが先ほどよりも増えている。ドラッグストアの中に入ったほうがよさそうだ。ドラッグストアの自動ドアは閉まっていたが、カギはかかっていなかった。中に入ると、商品が荒らされた形跡もない。珍しいな。店の中をくまなく探索したがゾンビはいなかった。奥のほうに人が住んでいた形跡はあったがかなり前に出て行ったのだろう、食器や寝袋には埃が積もっていた。
「それで、さっきのは何なの!?」
「何なのッて言われても、見たとおりだ。イザベラはゴリラのような怪力を手に入れたんだ」
「……もうちょっと他のたとえなかったの?」
「それは置いておいて、何か心当たりはないのか?」
「ない」
3人で考えていると、中村が手を挙げた。
「もしかしてだけど、高速道路のサービスエリアで噛まれたのが原因じゃない?あれだけ噛まれれば普通はゾンビになるはずじゃん」
そうだった。その時の傷がきれいに治っているから忘れてた。
「でも、ゾンビのウィルスが原因なら今頃2人を襲っていてもいいころだよね」
「……そうだよね。でも、イザベラさんの存在自体がイレギュラーなところあるからね」
「それを言わないでよ……」
「とりあえず、今日はここで1泊しよう。暗くなってきた」
ここには幸い、前の人が残してくれた寝袋やランタンがある。しかも、戸締りもしっかりとされていてゾンビも入ってこれそうにない。食料もそれなりにある。あとは、イザベラのイメチェンだ。
「ちょっと、黒染め持ってくる」
「行ってらっしゃい」
毛染めのコーナーに行くと、いろいろな種類が売っていた。黒以外もあるんだな。赤、白……まぁ、無難に黒でいいか。一番高い奴ならしっかりと染まるだろ。染めたことなんてないからよくわからないけど。一番値段が高い毛染めを持っていくと、中村に渡す。
「私、使ってことなんてないよ」
「……説明書を読みながらやるか」
中村がイザベラの髪を染め始めた。このまま眺めていてもしょうがないし、見回りしてくるか。
「ちょっと見回りしてくる。散弾銃借りてく」
「いってらっしゃい」
最初に正面入り口を見に行く。駐車場にはゾンビがうろついてはいるがこっちには気が付いてないようだった。このまま放置しておくか。今度は裏を見に行く。スタッフルームのほうは血痕が残っていたがゾンビはいない。窓のほうには鉄格子がついていて簡単には入ってこれそうにない。最後に商品搬入口だ。商品搬入口はすでに机や棚が積み重なっていて簡単には入れないようになっている。それなら正面入り口もやっておけよ。見回りを終えて戻ると、イザベラがヘアーキャップをつけている。
「あとはしばらく放置すればいいみたい」
「きれいに染まってるかな?」
「どうだろ?染めているときはきれいに染まっている気がしたけど……あ、おかえり。どうだった?」
「裏口はバリケードがあって簡単には入れないようになっている。注意するとしたら正面だけだ」
「ご飯でも食べる?ちょうどお湯沸いたよ」
テント前にはいろいろな種類のカップ麺が並んでいる。今回はシーフード味でも食べるか。それぞれカップ麺にお湯を注いで出来上がるのを待つ。
「それにしてもイザベラさんの今の状態ってゾンビのいい所取りみたいな感じだね」
「どういうことだ?」
「だから、ゾンビって力は強いし、痛みは感じないのが強みじゃん。でも、知能と体力がないのが最大の欠点でもある。今のイザベラさんって、ゾンビの強みに回復能力、知能もあるし兵隊としては最強なんじゃないかなーって」
「まさか、このゾンビウィルスが軍事目的のものだって言いたいのか?」
「あくまで仮説だよ」
イザベラを見るとずっとカップ麺を見つめている。……本人の前で話す内容じゃないな。
「カップ麺食べるぞ」
「そうだね」
無言で食べ進める。
「食べ終わったらイザベラさんのヘアーキャップとってみるか」
「そうだね。ちょうどいいころ合いだと思う」
カップ麺を食べ終えてから中村がイザベラのヘアーキャップをとる。髪の毛はきれいに黒色に染まっている。……いや、毛先だけ染まりきってないな。それに、今までちゃんと見たことなかったが目の色って青色なんだな。これも変えたほうが良さそうだ。黒髪に青色の瞳ってのも目立つもんだ。
「カラーコンタクトも手に入れたほうがよさそうだな」
「そうだね。青の瞳って目立つね」
「そんなに?」
「そんなに」
カラーコンタクトは入手することができればでいいだろ。
「今日はもう寝ようか」
「うん。見張りは私がするよ」
イザベラが散弾銃を持って立ち上がった。
「見る場所は正面入り口だけでいいぞ。さっき話したと思うけど、裏口はバリケードでふさがっていたからな」
「わかってる」
イザベラはそのまま正面入口へと歩いて行った。なんか、元気なさそうだったな。……そりゃ、あんな話をすればそうなるか。
「追いかけたほうがいいんじゃない?」
「……そうだな」
イザベラの向かった正面入口へ向かうと、自動ドアの前で体育座りをしているイザベラがいた。
「さっきは悪かった」
「……」
イザベラの向いている方向には駐車場をうろついているゾンビが数体いる。服はボロボロで中には足が骨折しているゾンビもいた。いいよなゾンビは気楽で。
「私って人間なのかな?」
「急にどうしたんだよ」
イザベラの横に座る。
「ねぇ。質問に答えて」
「いや、まだ人間だろ」
「……まだ……か」
「考えたくないが、俺はイザベラがゾンビ化しているような気がしてるんだ」
「私も、それは薄々感じてた。実は話してなかったけど、回復が少し遅くなった気がするんだ」
「マジ?」
「体育館から飛び降りたとき足の骨を折ったよね」
「あぁ」
「あの時の折れ方なら数時間で治っていたはずだったのに一晩かかったんだよ」
「……悪いけど、その感覚は俺にはわからない」
イザベラの怪我がどれ位ならどの時間で治るかなんて俺にはわかるわけないだろ。
「私独自の考えだけど、この回復機能に何か制限があるのかもしれないと思うの。一番近くで見ていた一ならなにか気が付かない?」
「……無茶言うなよ。ただ、一つ言えるとしたら回復力が落ちてるならこれからは無茶なことはしないことだな」
「……わかった。私でもやりすぎたと思ってる」
そのまま二人で外を眺めていた。
「そろそろ寝れば?」
「……そうだな。寝てくる」
テントへと戻って中村の横で寝袋に入って目を閉じた。




