51話 探索
家の中を探索したが、家財道具はそのまま残されていた。電気は来てなかったが、ガスは使えた。ガスはさっき外を調べていた時にでかいプロパンガスのボンベがい置てあったから使えるんだろう。水道の方は……駄目みたいだ。
「ランタンあったよ」
これで夜は大丈夫そうだ。雨戸は閉めたままの方がよさそうだ。あとはトイレか……。ミネラルウォーターを使うのはもったいないよな。井戸でもないかな?
「トイレの水どうしようか?」
「鍵が開いてないか探したとき、井戸あったよ」
「え?マジ?気が付かなかった」
「面倒だけど、そこから一回一回運ぶしかないでしょ」
「ねぇ、二人ともちゃんとトイレ確認した?」
中村は何言ってるんだ?
「あのトイレ汲み取り式だよ。……いわゆるボットン便所」
「ボットン便所?」
「イザベラは知らないか。トイレの下に排泄物を溜めるんだ」
「え……?汚い」
「ハエとかは大丈夫だったのか?」
「それは大丈夫。きれいに汲み取った後だったよ」
これでトイレ問題は解決だ。布団の方は俺が2階を探索したときに見つけることが出来た。だが、かなり埃っぽかった。食料の移動は明日の明るくなってからでいいだろ。
「車から必要な分だけ降ろそう。ほかの物資は、明日、明るくなってからだ」
「だね」
イザベラと、車に必要なものを取りに行く。すでに周りは真っ暗だ。
「何いるかな?」
「とりあえず晩飯だけでいいだろ」
適当にカップ麺とレトルト食品を持って戻る。すでに中村がテーブルを準備してくれていた。お湯でも沸かすか。キッチンの下を調べると、調理器具が一通りそろっている。もう、この家に永住でいいのかもしれない。ヤカンに水を入れてお湯を沸かす。換気扇を回そうと紐を引っ張ったが換気扇は回らない。そうか、電気が来てないんだから回らないよな。台所の窓を少し、開けておくか。
「それにしても、暑くない?」
「我慢して。2階は全部開けてあるから」
確かに暑い。っていうか、カレンダーで言えばもう7月だ。いくら山の中とはいえ暑いものは暑い。何か考えたほうが良いかもしれない。熱中症で倒れるのはさすがに馬鹿らしい。水分補給はきちんとしないとな。
「お湯、沸いたみたい」
イザベラが台所に行ってヤカンを持って来た。それを机の上に置いたカップ麺にそそぐ。
「これからどうするの?」
「どうするも何も、付近にゾンビはいないみたいだし、ここにしばらく住んでいればいいんじゃない?」
「そうだよな。食料もふんだんにあるし。明日、ちょっと周囲を探索してくる」
「私も行くよ」
イザベラが着いて来てくれるのか。ちょっと周囲を散策するだけだし、一人でも大丈夫だろうけど。
「中村は荷物降ろしておいてくれ。危なくなったら家に隠れてろ」
「あい」
カップ麺のふたを開けると、おいしそうな匂いが部屋に充満する。
「いただきます」
カップ麺はおいしく、最後までいただいた。開いた容器を台所に持って行って流しに置く。部屋に戻ってイザベラや中村が食べるのを待つ。
「毎回、思うんだけど大隅って食べるの早いよね」
「そうか?これでもゆっくり食べてるつもりなんだけどなぁ」
そんな会話をしている間に二人はカップ麺を食べ終わった。
「さて、寝ますか」
「布団は人数分あった?」
「ちゃんと人数分あった。ただ、埃っぽい」
「明日、荷物を運び終えたら干しとく」
三人で二階に上って布団の置いてある部屋に行って、布団を並べる。もちろん、俺は端っこだ。真ん中にはイザベラ、反対側には中村だ。イザベラの枕元には散弾銃が置いてある。確か、残りは1発だ。
「ちょっとトイレ行ってくる」
イザベラがランタンを持ってトイレに行った。ランタンがなくなると、真っ暗だな。月明かりも、周囲の背の高い木のせいで入ってこないし。外からは虫の鳴き声と、草木が揺れる音が聞こえる。あと、中村のいびきがうるさい。俺も、寝るか。目を閉じていると、イザベラが部屋に戻ってきて布団に入る音が聞こえる。……見張りをする人を決めてなかった。
「イザベラ、起きてるか?」
「ん?どうしたの?」
「見張りの事忘れてないか?」
「そうだった。忘れてる。私が先にやるよ。3時間後に起こすから」
「中村はどうする?」
「そのまま寝かせておきましょう」
イザベラが散弾銃を持って部屋から出て行った。3時間眠らせてもらうか。
「……きて。起きて。交代の時間」
もうそんな時間か。熟睡しているとあっという間だ。イザベラから散弾銃を受け取ると、廊下で待機する。外からは虫の鳴き声が聞こえる。窓から外を見るが、真っ暗で何も見えない。空を見るが、月も見えない。分厚い雲が空を覆っている。一雨きそうだ。この家のどこかに合羽でもないかな?結局、合羽を手に入れることは出来なかった。雨が降った時どうしよう。
そんなことを考えていると、空がうっすらと明るくなってきた。ゾンビは現れなかったな。もう少し、明るくなったら全員起こすか。
「起きろ。朝だぞ」
「もうそんな時間……」
「いいから起きろ。早くしないと雨降るぞ」
「マジ!?」
「マジ」
イザベラと二人で家の周辺を探索する。家の周囲には朽ち果てた納屋と、井戸があるぐらいだった。
「納屋の中見る?」
「もちろん」
納屋の扉を開けて中に入ると、1階は車庫として使われていたようだ。軽トラックが止めてあった。
「これ使えるかな?」
「無理だろ。かなり放置されていたっぽいし」
フロントガラスは汚れて真っ白になって、タイヤは土に帰り始めている。一体何年放置すればこうなるんだ?ほかにはエンジンオイルやフロアジャッキが置いてあるが役に立たないだろう。ほかの部屋も探索したが、一つはガラクタしか入ってなかった。もう一つは農機具が置いてある部屋だった。バールとかもあったが、錆がひどすぎて使えそうにない。
「外、雨降ってるよ」
「本当だ」
壁に空いた穴から外に雨が降っているのが見える。しかもかなりの土砂降りだ。しばらくすると、納屋のあちこちから雨漏りし始めた。
「一度、戻ろう」
「うん」
土砂降りの中家に戻った。




