5話 人助け
「早く車出して!」
スーパーの入り口付近を見ると、かなり大き目の犬が数体こっちを見てる。一応車の中にいれば襲われることは無いだろう。それにしても、様々な犬種がいる。柴犬に、チワワ、トイプードル。ペットだったのが、野生化したんだろう。まぁ、この状況じゃ自分の命を守るので精一杯だっただろう。
「なにしてるの?車出して」
「収穫はどうだった?」
「一応食べれそうな缶詰と、カップ麺数個だけ持ってきた」
「飲料水は?」
「飲料水コーナーに野犬がいたの。だから、もって来れなかった」
野犬か。下手をすると、ゾンビよりも厄介かもしれない。今後は野生動物も注意しないと。
「富士市にもうそろそろ入る」
「ちょっとゾンビが多いね。銃砲店諦める?」
「銃が手に入ったんだ。何とかして弾を手に入れたい。銃があるだけでかなりの安心感があるだろ?」
「安心感で生き残れたら苦労は無いよ」
……何も言い返せない。確かに使い慣れない物を無理に使おうとしても状況を悪化させるだけだ。捨てた方がいいのかな?
「弾をゲットしたら私が使うね」
「何で?」
「拳銃すら握ったことが無い人に撃たせても当たるわけないじゃん」
「……はい。仰るとおりです」
目の前の交差点が大型トラックで塞がれていて通行できそうに無い。大型トラックに数体のゾンビが群がっている。人でもいるのか?
「見て!運転席に誰かいる!」
大型トラックの運転席を見ると、中年の男性がこっちを見て手を振っている。SOSのサインだろうな。
「助ける?」
しょうがない。助けよう。まずはクラクションを鳴らして、ゾンビをひきつけて、その隙に運転手の人には逃げてもらおう。
パァー
クラクションを鳴らし続けると、大型トラックに群がっているゾンビがこっちに近づいてきている。裏路地からもゾンビが出てきた。このまま慣らし続ければ、周りを囲まれて動けなくなる。もうゾンビの数は減っただろ、逃げろ。
「逃げたみたいだよ」
トラックの運転席を見ると、中年の男がいなくなっている。無事に逃げれていると良いんだけど……。
「私達も行こうよ」
俺達も逃げ出さないとマズイ。さて、結局目の前は大型トラックで塞がれいていることには変わりない。裏道に行くか。
「ねぇ、あの手を振っているのってさっきの人じゃない?」
「本当だ。どうしたんだろう?行ってみよう」
なるべくエンジン回転数を上げないようにゾンビを押しのけて男性のところまで行くと、男が車に乗り込んできた。
「さっきは助かったよ。急にトラックが動かなくなったんだ」
「んで、乗り込んできてどうしたの?」
「助けてくれたお礼に町へ招待しようと思ってね」
「どこなんだ?あまり遠いなら無理だ」
「この先の工場が密集しているところだ。20キロくらいか?」
前みたいに捕まらないだろうな。もうあんなことはごめんだ。中年男の言う通りに進んでいくと、田んぼが広がる中に工場が密集している場所がある。あそこか。
「入るときは川沿いを進んでくれ。そこ以外はバリケードがあって入れない」
言われたとおり川沿いを進むと、バリケードで誘導されていく。その先には、トラックや、車で作られたバリケードがあった。その手前で車を停めると、散弾銃や、拳銃を持った男が数人出てきた。騙された?
「こいつ等は俺を助けてくれたんだ。入れてやってくれねぇかな?」
「……物資はどうした?」
「途中で故障して……そのまま放置した」
「はぁ……明日にでも回収しに行くぞ。……そこのお前ら、この先の部屋で身体検査を受けてもらう。話はそれからだ」
工場の駐車場に案内されて、銃を向けられながら工場の中へと入っていく。工場の中でイザベラと別れて部屋に入ると、数人の男性が立っていた。
「全裸になって貰おうか」
「え!?」
「誤解するな。これは噛まれてないか検査するだけだ」
「ですよね」
結局、全裸になって隅々まで調べられた。まぁ、普通はこんな感じだろうな。
部屋から出ると、イザベラと合流した。イザベラも調べられたんだろうか?
「イザベラも調べられたのか?」
「もちろん。見てくれた人は女性だよ」
しばらく歩くと会議室らしいところに案内された。部屋に入ると、数人の男女が椅子に座っていた。
「お疲れだろう。椅子に座って、お茶でも飲むといい」
テーブルに出されたペットボトルを少し飲む。
「まずは、自己紹介だ。私がこの場所を仕切っている田所 数だ」
何か、自己紹介が始まった。いきなり覚えれるわけ無いだろ。俺は、人の名前を覚えるのが苦手なんだ。
「君達は?」
「私は、イザベラ ミラーです。こっちが大隅 一」
「どうも」
「君達はどこから遥々ここまで着たんだね?」
「東京です」
「東京……!」
みんな驚いている。それもそうだ。一ヶ月前の東京は今の状況よりも酷かった。この世の地獄といっても良い位だ。
「それは……大変だっただろう。ゆっくりと休むといい。何ならここに永住してもらっても良い位だ。それだけ、ここには食糧の備蓄と、強固なバリケードがある。安心してもらって大丈夫だ」
「……考えさせていただきます」
一応、この場所についての説明はしてもらった。食事は朝昼晩の三回、18歳以上の人にはそれぞれ作業が割り振られる感じだった。今の、俺とイザベラの立ち居地は客らしい。だから、特に作業はしなくていいらしい。
「どうする?」
「永住か……魅力的だけども、絶対的な安心なんて無いからな」
「だよね。ちょっと、胡散臭く聞こえたよ」
寝る場所も確保してもらって、フカフカな布団まで用意してくれている。多分、今までで、一番良い暮らしをしているかもしれない。なんか、気が引けるな。
「今日はもう寝ようよ」
「だな、明日、色々見学してから決めるのも悪くないだろ」
布団に入って目を閉じるとすんなりと眠ることが出来た。