47話 カーチェイス
「早くなんとかして!」
さっきから追いかけてくるが、一向に撃ってこない。まだ殺す気はないって事か。でも、この散弾を後ろの車に向けて撃てばあいつ等の気も変わるだろう。
助手席の窓から身を乗り出して後ろに迫ってきている車の右フロントタイヤに向けて撃つ。引き金を引いた後に後ろの車の右ヘッドライトが消えたのと同時に急にコントロールを失って電柱に激突した。
「その調子でお願い!」
次の散弾を撃とうとしたときに、後ろの車から何かが複数光った。次の瞬間に車の後部のガラスが粉々に砕け散った。ついに撃ってきた。
「撃ってきた!」
「知ってるよ!さっさと追い付かれないようにスピード出せ!」
「言われなくてもやってる!」
車の中に身を戻して、伏せていると銃弾がすぐ上を通過しているのがわかる。
「早く反撃して!」
「バカ言うな!こんな状況で頭を上げれる訳ないだろ!」
「貸して!」
後ろから声が聞こえた。イザベラだ。骨折は大丈夫なのか?
「早く!」
素直に散弾銃を渡すと、イザベラは割れた窓から散弾銃を撃った。そのあと、後ろを走っていた車がフラフラ揺れた後、路肩に停車した。よく見ると、フロントガラスが真っ赤に染まっていた。あの距離から運転手を打ち抜いたのか。容赦ねぇな。
「あと2台!早く弾!」
イザベラに残りの散弾を渡す。あと3発で足りそうだ。イザベラが弾を込めなおして再び撃とうとした時に、いきなり散弾銃を落として倒れた。
「ああああああ!」
急にどうしたんだ?左腕を抑えているようだが……よく見ると、左腕から血が大量に出ている。
「おい!どうした!?」
「撃たれた……っ!」
後ろを見ると、追ってきている車がかなりの距離まで迫ってきている。何とかしてバリケードまでに何とかしないと。ふと、隣を見ると、サイドブレーキが見えた。
「ハンドルをしっかり持ってろよ!」
サイドブレーキを思いっきり引くと、後輪がロックして急減速する。急減速に対処できなかったのか、追いかけてきていた車が追突してきた。その後ろの車も、俺たちの乗っている車に追突した車に追突した。
「ちょっと!何してんの!?」
「いいから行け!」
中村さんが再び車を動かすが、後ろの追いかけてきていた車は動く気配がない。どうやら追突した衝撃でエンジンがいかれたようだ。これで、追いかけてくることはないだろう。そのまま進むと、民家が立ち並ぶ中に突然、家具や自動車で作ったバリケードが現れた。これは車でぶつけても壊れそうにない。
「どうするの?早くしないと、あの人たち追い付いてくるよ」
「バリケード隣の民家からバリケードの向こう側に行こう。問題は、イザベラが歩けるかどうかだ」
イザベラを見ると、首を横に振っている。まだ骨はくっついていないようだ。左腕の出血はもう止まっているようだった。
「俺がイザベラを担ぐから、荷物を持ってくれ」
まぁ、荷物と言っても散弾銃と拳銃だけなんだけどな。散弾銃は中村さんに持たせて戦ってもらおう。車から散弾銃を取り出して中村さんに渡した。
「……散弾銃は使ったことないよ」
「しっかりと握りながら打てば大丈夫」
後部座席のイザベラが中村さんにアドバイスをしている。とりあえず、イザベラを背負うと、バリケード横の民家の玄関に向かう。玄関には板が打ち付けられていて入れそうにない。他の1階の窓も同じように板で塞がれている。どこかに入れそうな場所はないか探してみよう。
「もしかして、家の中にはゾンビが残っているんじゃない?」
中村さんが近くの窓を銃で叩いた。しばらくすると、中から窓を激しく叩く音が聞こえてきた。これは、家の中を進むのは自殺行為かもしれない。
「どうするの!?」
周りを見渡していると、2階の窓には板が打ち付けられていないことに気が付いた。もしかして、2階にはゾンビがいないのか?だから、窓に板を打ち付けていないのか?いや、今はこの可能性に賭けるしかない。今からバリケードを越えようにも、あんな不安定なところをイザベラを背負って上るのは無理だ。
「2階に上るぞ。2階ならゾンビがいないかもしれない」
「何言ってるの!?このさっきの見なかったの!?」
「おい!あいつ等の乗っていた車だ!」
「この近くにいるぞ!」
「……迷ってる暇はなさそう……」
「どうなっても知らないから!死んでも恨まないでよ!」
さらに奥に進んでい行くと、家の隣に物置が置いてあった。この物置に上れば2階に入れそうだ。中村さんが散弾銃を物置の上に放り投げた。
「おい!何してんだ!」
「私が上に上って引き上げるの!」
中村さんは少し離れたところから走ってジャンプすると簡単に昇った。あれ?中村さんってこんな身軽な人だったか?
「早く!あいつ等が来るよ!」
「あ……あぁ。イザベラ、行けるか?」
「先に昇って、何とか立ち上がるから二人で引き揚げて」
イザベラのいう通りに中村さんの手を借りながら物置の上に上がる。そのあとに振り返ると、イザベラが生まれたての小鹿のように立ち上がろうとしていた。
「手を伸ばせ!」
二人でイザベラの両手をつかんで何とか引き上げることができた。
「休んでる暇はないよ」
イザベラを背負っていると、中村さんが散弾銃の銃床で窓を割って鍵を開けていた。
「音がしたぞ!」
「この家の裏だ!」
ゆっくりとする暇はなさそうだ。周囲を確認しながら家の中に足を踏み入れた。




