46話 逃走
「おい!何してるんだよ!」
「いいから!行くよ!」
研究員達のうち、数人は足を打たれた研究員の応急処置をしている。
「わ、分かった。こっちは大人しくする。だからこれ以上撃たないでくれ」
「最初からそうしてればよかったのにね」
なんか、この研究員達に対しては妙にイザベラの態度が厳しいような気がする。まぁ、これで逃げることができる。研究員達の脇を通り過ぎると、階段に向かう。階段の下では俺が気絶させた長髪の研究員がまだ、倒れていた。……いや、呼吸をしていない。これは死んでしまったか。そんなつもりはなかったんだ。すまん。階段を上っていると、下の方で扉が開いた音がした。
「あっちです!あっちに逃げました!」
あの研究員達が外の警備している自衛隊員を体育館内に入れたようだ。早く逃げないと、捕まってしまう。壊れた屋根のところまできた。最初にイザベラを上に登らして、引き揚げてもらうか。
イザベラを肩車をして先に上に上らせた。
「早く登って!」
イザベラが屋根の上から手を伸ばしてきた。
屋根に上ったと同時に下から声が聞こえてきた。
「おい!屋根に上ったぞ!」
「外に梯子があったはずだ!そこから登れ!」
ヤバイ。外の梯子に回られたら、逃げ道がなくなる。急いで屋根から降りないと。梯子のあったほうに向かって走っていくと、グラウンドの方が騒がしい。様子を見ると、駐車中の車が数台燃えている。一体、何があったんだ?
「おい!あれはどういう事だ!」
「わかりません!目撃者の話だと、駐車中の車から急に火が出たということです」
「クソっ!俺と、お前はこのまま屋根に上って逃げ出したやつを捕まえる。残りは校庭の火を何とかしてこい!」
自衛隊員達が慌てている。
グラウンドから一台の車がこっちに向かってきている。あの車はここまで俺が乗ってきた車だ。ってことは、運転しているのは中村さんか。もしかして、あの騒ぎも中村さんがやったのか?
「あの車に中村さんが乗っているはずだ。早く梯子を下りよう」
「そうだね。下にいる自衛隊員はどうするの?」
「イザベラの拳銃でも使って追い払ってくれ。別に負傷はさせなくていい」
もし、負傷させて捕獲対象から、殺害対象になったらたまったもんじゃないからな。
イザベラが拳銃を自衛隊員のそばに向かって撃った。
「撃ってきたぞ!」
自衛隊員の2人は近くにあったブロック塀の横に隠れた。
「そのまま続けてくれ!」
「無理!そんなに弾数ないよ!」
一定の間隔でイザベラが拳銃をブロック塀に向かって撃ってくれているが、すぐに弾切れになった。その瞬間に自衛隊員の2人がこっちに向かって撃ってきた。
「あいつらは弾切れだ!俺が顔を出せないように制圧する!その間に登れ!」
自衛隊員が梯子に上ろうとしたときに、1台の乗用車が突っ込んできた。そのまま突っ込んできた乗用車は自衛隊員を跳ね飛ばした。ボンネットはひしゃげて、フロントガラスには大きなヒビが入った。
「早く乗って!」
運転席の窓から中村さんが顔を出して叫んだ。その瞬間に、イザベラが俺をお姫様抱っこして体育館の屋根から乗用車の屋根に向けて飛び降りた。
「うわあああああ!」
ボゴン
乗用車の屋根の上に乗った時に乗用車の屋根が大きく凹んだ。
「いったあああああ!」
イザベラの右足が脛のあたりから変な方向に曲がっている。いくら乗用車の屋根がクッションになったとはいえ、10メートル程の高さから飛び降りたんだ骨折するのが普通だ。とにかく、車に乗り込もう。
イザベラを抱えて、車に乗り込もうとするがドアが開かない。飛び降りた衝撃で車全体が歪んでドアが開かなくなったのか。
「これで乗れるでしょ!」
運転席に座っていた中村さんが窓を開けてくれた。開いた窓からイザベラを無理やり押し込んで後部座席に乗せた。俺は助手席の窓から乗り込んだ。乗り込んで前を見ると、小銃の銃口をこっちに向けた自衛隊員が2人立っていた。
「伏せて!」
中村さんの声と同時に頭を伏せると、フロントガラスに大量の蜘蛛の巣上のヒビができた。中村さんは車のギアをバックに入れると、アクセル全開で下がり始めた。すると、車が何かにぶつかって止まった。ゆっくりと顔をあげて周りを見ると、グラウンドに止まっている車にぶつかって止まったのか。よく見ると、ぶつかった車は真っ黒に焦げている。その横にも真っ黒に焦げた車が並んでいる。グラウンドの火事は鎮火したみたいだ。
「どうした?」
「大丈夫ですか?」
「車、ボコボコじゃないか」
周りに自衛隊員が集まってきた。……こいつらは、俺たちが逃げてきたことに気が付いてないのか?
「おい、後部座席の女って……」
「こいつ等逃げ出したやつらだ!捕まえろ!」
一斉に自衛隊員達に銃口がこっちに向いた。
「早く出せ!」
車は正面に立っていた自衛隊員を跳ね飛ばして学校の敷地から出た。後ろからは数台の車が追いかけてきているのが見える。
「これからどうするの!?」
「橋はダメだ!北の方に進んでくれ!」
「北ってどっち!?」
「今の方向でいい!」
橋に行ったところで橋が崩されていたらどうすることもできない。現に、一か所は崩されているのは前に確認している。北の方にはバリケードが組んであるらしい。ここの人たちには悪いが、バリケードを崩してそこから逃げよう。車で体当たりすれば壊すことぐらいできるだろう。
「泳いで逃げないの?」
「バカ。後ろのイザベラは骨折してるんだぞ、どうやって泳ぐんだ?」
「それもそうだよね。てっきり、治ってるかと思ったの」
流石に、無理だろ。後部座席を見ると、イザベラが変な方向に曲がった足を痛みに耐えながら元に戻していた。なんていうか……根性あるな。
「ねぇ、ダュシュボードに何か縛れるような物、ない?」
イザベラが震えた声で話しかけてきた。言われた通り目の前のダッシュボードを開けると、車検証、任意保険の契約書、ガムテープが出てきた。
「ガムテープでもいいか?」
「ありがと」
イザベラは助手席の下から車載工具のジャッキをあげるときに使う棒を骨が折れている足に当てると、ガムテープでぐるぐる巻きにした。それで足を固定するのか。
「何とかして後ろの車追い払ってよ!」
「そんなこと言われてもゴム弾しか持ってねぇよ!」
「私の上着の左ポケットに散弾が入ってる!」
「何でそんなもの持ってるんだよ!」
「アンタが体育館に潜入している間に近くの車から盗んだ。その車は黒焦げにしたけどね」
運転している中村さんの上着のポケットから散弾を取り出す。全部で5発か。散弾銃に入っているゴム弾を取り出すと、散弾を込めた。




