45話 跳弾
まさか、ロッカーに隠れているのがバレたのか?
「あれ?今、気配がしたんだけど……気のせいかな?」
イザベラもロッカーを凝視している。こっちは大丈夫だから普通にふるまっていてくれ。じゃないと、俺がここにいることがバレてしまう。
「さて、今日もやるぞ。まぁ、最近反応が薄くて退屈しているんだがな」
「あんたの思い通りにはならない!」
拳銃を持った研究員が拳銃を机に置いて、さび付いたプライヤーを手に取った。そのままプライヤーを縛り付けられている右手の爪を挟んだ。まさか……!?
「うぐっ……」
イザベラの顔が苦痛で歪んだ。プライヤーの先端にはイザベラのものであろう爪が挟んである。こんな事を毎回されているのか?飛び出すなら研究員が拳銃を持っていない今か?だとしても、イザベラが縛り付けられている鎖についている南京錠のカギを持っていない。いや、拳銃で撃って破壊すればいいだけか。
「おぉ!もう新しい爪が生えてきた。次は指でも切り落としてみるか」
「やめて!さすがにそれはダメ!」
「どうした?自分の再生能力に自信がないのか?」
「当り前じゃない!新しい指が生えてくるわけない!」
「……じゃあ、試してみるか」
研究員が机の上のノコギリを手に取ってイザベラの人差し指にあてた。
「お願い!やめて!助けて!一!」
イザベラが俺の名前を呼んだ瞬間にロッカーから飛び出した。研究員は驚いた顔でこっちを見ているが、研究員の手は机の上の拳銃に伸びていた。だが、こっちのほうが早い。
ドンドン
狭い体育館倉庫の中に銃声が2発響いた。どちらも、俺が撃った時の音だ。撃った散弾は研究員の胴体と顔に命中した。研究員は顔押さえてもだえ苦しんでいる。
「一!」
「大丈夫だったか?」
「爪をはがされて無事なわけないじゃない!」
「それもそうだな。さっさと逃げるぞ」
「え?鎖とってよ」
机の上に置かれたままの拳銃を手に取ると、イザベラの後ろに回って南京錠に銃口を当てる。
パァン バギン
「いっあああああ!」
突然イザベラが叫びだした。どうしたんだ?
「あんた、跳弾って言葉知ってる!?」
イザベラの背中が赤く染まってきた。もしかして、南京錠を破壊したときに銃弾が跳ね返ってイザベラに当たったのか?
「ご、ごめん。大丈夫か?」
イザベラは必死に歯を食いしばり、痛みに耐えている。これは完全にやらかした。この状態で歩けるのか?いや、無理だろ。イザベラの治癒が終わるまで待っているか?
「お願い。机の上にピンセットがあるよね。それで背中の中にある弾を抜いてくれない?じゃないと怪我が治らないの」
「マジで言ってるのか?」
「早く!」
イザベラは口に巻かれていたタオルを自分で咥えた。これは俺がやらかしたことなんだ、俺がやらないで他に誰がやるんだ!覚悟を決めろ!
ピンセットを手に取ると、イザベラの背中を見る。銃弾の跡から血が流れだしている。ピンセットを置くまで入れていくと、途中でイザベラがうなりだした。
「ごめん!」
「いいから!続けて!」
ピンセットをさらに奥まで入れると、何か硬いものに当たった。これが弾か。ピンセットをちょっと広げて弾をつかもうとすると、柔らかいものを押し広げる感覚が伝わってきた。それと同時にイザベラの体が少し跳ねた。もう少しだから我慢してくれ。弾をつかんで引き抜くと、イザベラの体が再び跳ねた。引き抜いた弾を見ると、先端が潰れていた。完全に南京錠に当たってから跳ねたな。
しばらくの間、イザベラはタオルを咥えたまま息を荒げていた。
「おい、大丈夫か?」
「……なんとか……ね」
これで何とかイザベラを自由にすることができた。問題はここからどうやって逃げ出すかだ。幸い、さっきまで苦しんでいた研究員はそのまま気絶してくれている。
パァン
イザベラが研究員の頭にめがけて拳銃を撃った。
「おい!何してるんだよ!」
「うるさい!こんなやつ死んでもいい奴なの!こんな酷いことして何が研究!?」
確かに、あれは研究じゃなくて拷問だ。しかも、自分のストレス発散のためにやっていたんだ。……だからって殺す必要はあったのか?
「おい!どうした!?さっきから騒がしいぞ!」
まずい、外の奴らがこっちの騒ぎに気が付いたようだ。周りを見渡すが、窓が設置してあるけれども、鉄格子がはまっていて出れそうにない。だとすると、入ってきた扉しかないか。
「どうするの?全員殺して進む?」
イザベラが拳銃のマガジンを取り出して弾を一発一発机の上にマガジンから取り出している。全部で11発入っていた。
研究員を倒すのにはこっちの武器で十分だろうが、問題は外にいる自衛隊だ。向こうは散弾銃や、小銃で武装している。そんな相手に拳銃と、ゴム弾を装てんした散弾銃では無理だろ。
「やめてくれ。外には小銃や、散弾銃を持った自衛隊が待ち構えているんだぞ。そんなの突破できるわけないだろ」
「まぁ。そうだよね。……ここにどうやって入ってきたの?」
「屋根の一部が剥がれていたからそこから入った」
「そこから逃げればいいじゃん」
「結構な高さあるぞ。脚立でもない限り無理……いや、肩車でもすれば行けるか?」
「それで決まり!さっさと行くよ!」
イザベラが拳銃を構えながら扉の前に立った。
「扉開けて!」
イザベラの言う通りに扉を開けると、研究員たちがいた。
「頼む!撃たないでくれ!」」
「どうやって逃げ出した!?」
「大杉さんが!」
それぞれ十人十色の反応をしてくれた。
「さっさと道を開けて!撃つよ!」
「誰か警備を……」
パン
イザベラが警備を呼ぼうとした研究員の右足を打ち抜いた。




