43話 侵入
校舎内に入ると、廊下には自衛隊員や怪我をした人たちが歩いている。こっちに気が付いた人がジロジロ見てくる。奴隷を連れて歩いているんだから当たり前か。屋上へと昇る階段はどこにあるんだろう?
「ねぇ。あれ階段じゃない?」
中村さんが指をさす先には階段があった。階段を上っていくと、屋上へと出れそうな扉があった。扉には鍵がかかっていなかった。屋上に出て周りを見渡すと、浜名湖周辺は明かり一つ見えない。それに比べて、この学校周辺の民家は所々明かりがついている家がある。
「こうして見ると、この避難所って快適だよね」
「奴隷の方もちゃんと飯は食べれるのか?」
「うん。レトルトとかだけど最低限は食べさせてもらってるよ。前の工場の避難所よりはいい生活ができてる」
「そうだな。今まで行った中で一番安全で人並みの暮らしができてるし、イザベラが戻ってくればずっとここにいてもいいんだけど」
「私も、奴隷っていう位置づけは嫌だけど、ここの生活は気に入ってるよ」
それなりの数の避難所を回ってきた。その中では一番安全で、衣食住もしっかりしているし、役割分担もきちんとできている。ただ、奴隷と、自衛隊はギスギスした関係にある。それのせいで今回の暴動は発生した。しかも、証拠はないがイザベラを捕らえて研究材料にしているかもしれない。そう考えると、この避難所も真っ黒だな。
そんなことを考えながらグラウンドを眺めていると、ある事に気が付いた。
「なぁ、体育館にあそこまで警備いる?」
「え?本当だ」
校舎から少し離れたところに体育館が併設されているタイプだ。体育館の入り口には小銃を持った自衛隊員が2人も立っている。さらに体育館の周りを自衛隊員が巡回している。しかも、散弾銃を持っている隊員もいるほどだ。あまりにも怪しすぎる。
「なんだろうね?偉い人でも集まっているのかな?」
「いや、集まるときは駅周辺のはず……」
「中の様子も見えないね。よく見ると、黒い布とかで目隠しされてる」
もしかして、体育館で実験でもしているんじゃないか?この学校は病院として使っていて、機材も薬品とかもそろっているからな。これは調べる価値があるかもしれない。
「中村さんには話してなかったな。実はイザベラはこの避難所のどこかで実験材料として扱われているらしいんだ」
「え?そんな情報どこから手に入れたの?」
「パーティに行った時のトイレで聞いた」
中村さんがでかいため息をついた。
「で?どうするの?」
「何がだ?」
「作戦。もしかして、正面から堂々と「イザベラに会いたいです」なんて言うつもり?」
「そんなわけないだろ」
作戦か。協力者でもいれば正面からぶつかり合っても……いや、熟練度が違うな。ましてやこっちが銃火器を使えば向こうも同じように銃を使ってくるだろう。そもそも、協力者なんて見つからない。俺たちみたいなやつはここでの生活に満足している。そんな奴らが自衛隊に歯向かうわけがない。奴隷の人たちはここの生活に不満はあって、少し煽れば自衛隊に歯向かうだろうが武器がない。歯向かったとしても、すぐに鎮圧されてしまうだろう。それを考えると、やっぱり俺と、中村さんでやるしかなさそうだ。
「どうするの?今やる?今のうちにやらないと明日には退院して、あの島からまともに出られないよ」
そうだった。そのことを忘れていた。連れ出そうとしても橋には検問が敷かれていて、自由に出ることができなかったんだ。そうなると今日しかないな。一応、車の中にはゴム弾が装てんされた散弾銃がある。予備の弾は5発か。そして、中村さんの武器はなし。……無理だろ。
しばらく巡回している自衛隊員を眺めていると、暗くて見えにくいが、壁に梯子が付いているのが見えた。あの梯子に上ることができれば侵入する糸口が見つかるかもしれない。
「体育館の壁に梯子があるのが見えた。そこから侵入するぞ」
「でも、巡回している人はどうするの?」
そうだった。梯子を急いで登れば音が出る。だからといって音を出さないようにゆっくり登れば簡単に見つかってしまう。
「中村さん。囮役、お願いします」
「は?本気で言ってるの?大体、イザベラさんが居るっていう感じで話が進んでいるけど、本当にいるかどうかもわからないんだよ!」
「だからそれを確かめるんだ」
「あー、勝手にして。それで、作戦は立てたの?」
「一応。俺は散弾銃を背負って体育館横の梯子を上って中に侵入する。その間、中村さんは巡回してくる奴を足止めしてくれ」
「簡単に言ってくれるね」
「まぁまぁ、そのワガママボディでは難しいかもしれないけど」
中村さんに脛を蹴られた。
「続けて」
「はい……俺が体育館に侵入したら車の運転席で隠れていてくれ。俺がイザベラを連れて出てきたら迎えに来て、そのまま車に乗って脱出だ」
「脱出するところはどこなの?案内してもらわないとわからないよ?」
「そんなの知らん」
「はぁ!?捕まったらどうなるかわからないんだよ!?」
さすがにそこまで、この短時間で考えれるわけないだろ。料金所は無理だろうけど、北の方に進めばバリケードの薄いところでもあるはずだ。……はず。そんなことは後でいいだろ。
「いいから行くぞ」
「……どうなっても知らないから」
階段を下りてグラウンドに出ると、さっきよりも車が増えているような気がする。校舎の中に入ってくる人も増えている。自分の車から散弾銃を降ろすと、肩に担いで体育館に向かう。周りを見渡すと、意外と武器を持ったままの人も多いんだな。これなら武器を持ったままでも大丈夫だ。
体育館そばまで来た。あとは巡回に来た自衛隊員を中村さんが足止めしてくれればいいだけだ。
「よし。行ってこい」
「……はいはい」
中村さんが巡回している自衛隊員のところへと行った。俺も、梯子へと向かう。遠くからでは見えなかったが、梯子は胸の位置から始まっている。多分、子供が登れないようにしてあるのだろう。壁に足をつけながら登る。大きい音を出せば見つかって終わりだ。遠くから中村さんと自衛隊員の話し声が聞こえてくる。内容までは聞き取れない。
「あ!ねぇ!待って!」
梯子を途中まで登ったところで中村さんの声が聞こえてきた。
「うるさいぞ!俺は仕事中なんだ!お前にかまってる暇なんてないんだ!」
「そんなこと言わずにね。ね」
こっちに歩いてくる足音が聞こえる。引き留めるのに失敗しやがったな!なるべく音をたてないように梯子を上った。上ったのと同時に自衛隊員が角を曲がってきた。危なかった。屋根の上から下の様子を見ると、中村さんがホッとした感じで突っ立っている。上を見て、俺が屋根に上ったのを確認した後、車の方に歩いて行った。




