41話 狂った奴
「すでに島の中には2チームほど対応に当たってもらっているが、隠れる場所が多くすでに負傷者も多く出ている。攻撃してくる奴には容赦なくゴム弾を叩きこめ。骨折はするだろうが死にはしない。捕まえた奴はここに止めてあるトラックの荷台に乗せてくれ。以上!」
以上って言われても……あまりにも情報が少なすぎる。それに対人戦なんて経験が少ないんだが大丈夫なのか?
「どうする?」
「まぁ、相手は鈍器ぐらいしか持ってないだろうから二人一組で行動すればカバーすることができる」
「そうだな。……大隅。組もうぜ」
声をかけてきたのは井上さんだ。井上さんの武器は拳銃だ。しかも警察が持っているようなリボルバータイプだ。
「わかった。こっちはこっちでやる。俺ら2人はサブマシンガンとアサルトライフルだったから屋外で戦わせてもらう。そっちは室内戦のほうが向いてるだろ」
まぁ、それでいいか。中村さんの安否も気になるし、まずはそこを目指して行くか。流石に自衛隊や俺たちみたいな奴には攻撃してくるだろうが、奴隷同士でやりあうことはないだろう。そこまで暴れている連中が馬鹿とは思えない。
「そういえば、この島の中にお前がよく行っている女の子がいるところがあったよな。そこ行くか?」
「え?何で知ってるんですか?」
「やっぱり。俺も、昔そういう事あったから」
……なんか恥ずかしいけど気にすることはない。今いる場所からならそんなに時間はかからないはずだ。
島の中を歩くと、数人の男たちに押さえつけられている人がいた。
「おい!離しやがれ!」
「大人くしろ!誰のおかげで衣食住が確保されてると思ってるんだ!」
「うるせぇ!だからって、こんな扱いしていいと思ってるのか!?」
こうしてみていると、どっちもどっちだな。
「……行くぞ」
周囲を警戒して進むと、突然民家からパイプを持った男が飛び出してきた。
「うわぁぁぁぁぁあ!」
男が持っていた鉄パイプを振り下ろした。
「うぉっ!」
何とか散弾銃で振り下ろされた鉄パイプを受け止めた。
「この野郎!」
「井上さん!早く!」
井上さんが襲ってきた男の体に2発ほど撃ち込んだ。男はその場で倒れてもがき苦しんでいる。ゴム弾と言っても相当痛いんだろうな。
危なかった。受け止めれてなかったら、完全に頭をやられていた。こいつ等、完全に殺しにかかってきている。何でここまで必死になってるんだ?
「おい!お前たちで押さえといてくれ!」
「わかった。こいつを引き渡したらすぐに合流する。先に行っててくれ」
もがき苦しんでいる男性を無理やり引っ張ってトラックの方へ消えていった。
「大隅、二人だけになったけど行くか」
「はい」
目的地に向かう途中、散弾銃の殴られた跡を見ると微妙に傷がついていただけだった。結構頑丈に作られているんだな。でも、こんなことを何度もしていれば流石に壊れるだろう。
そんなことをしている間に目的の場所にたどり着いた。見た感じは前来た時とは……いや、血痕が至る所についている。ロビーの端の方には血の付いた包丁も捨てられている。これは、ガチでやばい奴だ。
「気を引き締めろよ」
「はい」
周囲を警戒しながら登ると、階段の踊り場で女性が倒れているのが見えた。
「大丈夫ですか!?」
近寄って様子を見ると、首から大量に出血している。
「頸動脈を刃物で一発か」
……一体何なんだ?この混乱の中にガチの殺人鬼でも混じっているのか?そんな奴相手にゴム弾なんて効果ないだろ。
「ゴム弾で何とかなりますかね?」
「……さぁ?当たればかなり痛いから大丈夫だろ」
死体の周囲を見渡すと、血痕が階段の上へと続いてる。この上の階には確か中村さんの部屋があったはずだ。散弾銃を握りなおして階段を上る。部屋が並んでいるうちの一つの扉が開いていた。あの部屋は中村さんの部屋だ。
部屋に向かって走ろうとすると、井上さんが肩をつかんで止めてきた。
「静かにいくぞ」
足音を立てないようにゆっくりと部屋に近づく。部屋の中からはゴソゴソ音が聞こえる。頼むから中村、逃げていてくれよ。
「いいか、一斉に突入するぞ……行け!」
部屋に入ると、ベットに血まみれになった中村さんがベットで倒れている。その奥には返り血で服が真っ赤に染まった男がサバイバルナイフを持って立っている。
「おい。大隅……」
井上さんが何かを言いかける前に引き金を二回引いていた。返り血に染まった男はそのまま、よろけながら窓から落ちていった。
窓に駆け寄って外を見ると、すでに男の姿はなかった。……あの高さから逃げてよく無事だったな。そんなことよりも中村さんだ。……すでに井上さんが様子を見てくれていた。
「あの男は?」
「逃げていきました」
「まぁ、肋骨の4、5本は折れてるだろうしすぐに捕まるだろ」
「中村さんは大丈夫そうなんですか?」
「中村……?あぁ、この女の事か。傷は案外浅いようだ。大隅は女を最初のところまで運んでやれ。俺はこの建物に誰かいないか探してくる」
「え?でも、一人だと危険なんじゃ」
「これでも元警備会社の社員だったからな。一応、強盗を捕まえてことだってあるんだ。腕には自信はある」
別に知りたくもなかったことだ。中村さんを背負って階段を降りる。それにしても、重い。完全に力が抜けきっている奴ってこんなにも重たいのか。踊り場にある死体脇を通り過ぎる。この死体は誰が片付けるんだろうか?建物から出ると、さっきとは打って変わって物音ひとつしない。ここら辺は鎮圧完了したのだろうか?そして、あの男はどこに行ったんだろうか?大人しく捕まってくれてないかなぁ。
「う……ここは?いたっ」
後ろの中村さんが目覚めた。
「起きたか。傷は大丈夫か?」
「大丈夫に見える?」
「そんな軽口を叩けるのなら大丈夫だろ。さっさと自衛隊の人に治療してもらえ」
「自分で歩けるから下してよ」
「そうだな。重かったしちょうどよかった」
後ろから頭を叩かれた。中村さんを降ろして2人で最初の地点へ向かう。すでに最初の地点に置いてあったトラックの荷台には捕らえられた奴隷たちが押し込められていた。そして、最初にいた自衛隊の人もいる。
「ん?その人は?」
「暴徒に襲われて怪我をしているんです。治療してあげてもらえませんか?」
「わかった。すでに数人怪我人がそこのミニバンに乗っている。そこに乗せれば診療所に連れて行ってやる」
今回の暴れた連中はどうなるんだろうか?ゴム弾とはいえ、骨折ぐらいしたやつもいるだろう。
「トラックに乗った奴らはどうするんですか?」
「あ?あいつらは最低限の治療だけして厳しい監視のもと強制労働だ」
さすがに殺処分とかではなかった。まぁ、ここで労働力を減らしてもしょうがないからな。中村さんがミニバンの後部座席に乗り込むと、ミニバンはどこかに走っていった。




