40話 暴動鎮圧
「早くできるといいですね」
「まともな研究施設がないのにできるわけないだろ」
「ですよねー」
トイレに入ってきた人が出て行った。さっきの話は絶対にイザベラのことだ。最悪だ。だが、実際のところイザベラの超回復を他人に使えるならば治療薬か、ワクチンが作れるのだろうか?そこら辺は専門外だ。
そろそろ、戻らないと。トイレを出て、水を流すと別の自衛隊員が入ってきた。軽く会釈するとトイレを出て会場に戻る。会場では正面で顎ひげを伸ばしている自衛隊員が何か話している。浜田さんを探し出してその付近で話を聞く。
『成功により、食料や消耗品はずいぶん手に入った。だが、安心するのはまだ早い。各地の避難所が突然変異したゾンビや、隣国の軍隊によって襲われていることが多い!今後は我々は敵対勢力や突然変異したゾンビの排除だ!』
顎ひげを伸ばした自衛隊員がマイクを壇上に置くと、所々で拍手が起こった。一応拍手はしとくか。
「長かったな。大きい方?」
「そうですよ。さっき演説していた人は誰ですか?」
「この避難所を束ねている釜井さんだ。これからここで生きていくなら覚えておいたほうがいいぞ」
一応覚えておくとするが、関わりあうことはないだろう。……いや、この避難所を束ねているのであれば研究材料にされているであろうイザベラの事を知っているかもしれない。ちょっと近寄って聞き出せるように頑張ってみるか。
「ちょっと挨拶でもしてきます」
「ん?あぁ、行ってらっしゃい。俺はここら辺で食ってるから」
浜田さんの取り皿の上には大量のステーキが乗っている。どの酒を持っていけばいいんだろうか。無難にビールでいいか。
ビール便を持って釜井さんのところに近寄る。付近にはほかの自衛隊員が釜井さんと楽しそうに話している。こんなところに割り込むのって結構勇気いるんだよ。
しばらく会話が切りのいいところで終わるのを待っていると、釜井さんがこっちに気が付いてくれた。
「あれ?君は……民間人だね。何か用ですか?」
「あの……」
やばい。なんて言って話題を作ればいいんだ?
「君は確かこの作戦で偵察を唯一遂行してくれた人ですよ。おかげで部隊をそろえて韓国軍に素早く対処することができたんですよ」
「そうか。話は聞いていたが君だったのか。さぁ。どんどん飲んでくれ。ここにある食料は君のおかげでそろったといってもいいだろう」
釜井さんがテーブルに置いてあるコップにビールを注いで渡してきた。
「いただきます」
コップの中のビールを一気に飲み干した。
「お、いい飲みっぷりだね」
さらにビールを注がれた。それをすぐに一気に飲み干した。流石に連続はきつい。
「もう一杯はやめとくよ。きつそうだからね」
バレてた。これで多少印象に残っただろ。あとは後日だ。いきなり迫って核心に迫っても、やすやすと教えてくれないだろう。
「今度、別の作戦があればお願いするかもしれない。その時は頼むぞ」
「はい。任せてください」
話が終わり、周りを見るとほかの自衛隊員が釜井さんと話したそうにしている。
「失礼します」
釜井さんの元から離れて浜田さんのところに戻る。
「どうだった?」
「一応、顔と名前は覚えてもらいました」
「これでお前の待遇がよくなるといいな」
待遇で思い出した。岩尾さんに家族がいるらしいがどうなるんだろうか?このままだと奴隷にでもなるのか?
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「どうした?わかる範囲で答えるぞ」
「作戦中に死んでしまった人がいるんですが、その人には家族がいるらしいんですが、どうなるんですか?」
「しばらくは大丈夫だと思うが、そのうち……」
こればっかりはどうしようもない。自分一人や、イザベラ、中村さんのことで手いっぱいなのに助けることなんて無理だ。
「もうそろそろでお開きになるけど、どうする?送っていくか?」
「いえ、バイクで来たので遠慮しときます」
「気を付けて帰れよ。一応、飲酒運転だからな」
「そうでしたね。気を付けて運転しますね」
会場を出てバイクに乗り込む。エンジンをかけてしばらく暖気運転をしていると、ホテルの入り口付近にいる自衛隊員が無線で何かを話している。バイクのエンジン音でよく聞こえないが、慌てている様子だ。そのまま見ていると、ホテルの中に戻っていった。どうでも良いか。
バイクを走らせて、島と島にかかる橋を走っていると、奴隷の人たちが住んでいるはずの島から銃声が聞こえた。バイクを路肩に寄せて様子を見る。遠くに見える島からは火の手も上がっている。一体、何があったんだ?とりあえず、元の家に戻ったほうがよさそうだ。
家に戻る途中に数台の消防車とすれ違った。その中には自衛隊員や普通の人が色々な防具をつけて乗っているのが見えた。もしかして、ゾンビが入ってきたのか?……いや、それだと消防車を持っていく必要はないはずだ。ただの火事……いや、それだと身に着けていた防具の意味が分からない。とりあえず、家に戻れば何かがわかるかもしれない。
家の戻ると、電気がついていた。そして、中からは人が走り回っている。家の中に入ると、井上さんが出迎えてくれた。
「ようやく帰ってきたか……って、顔が赤いぞ!?」
「へ?まぁ、酒を飲みましたからね」
「あー……とにかく着替えて奴隷たちがいる島に行くぞ!」
「何があったんです?」
「奴隷の反乱だ。その島にいた監視役の自衛隊の人が襲われて武器が奪われた。その鎮圧に行くぞ」
「装備はどうするんですか?」
「一応、暴徒鎮圧用のゴム弾でこっちは対処する予定だ。向こうの大半は角材や鉄パイプで武装しているからな。いま、人間同士で殺しあう必要はないとのことだ」
「そうだ、お前に渡してくれって言われて散弾銃を預かってるんだ」
そう言って、渡してきたのは偵察に行ったときに拾った上下二連式散弾銃だった。一緒に散弾も渡された。だが、今まで見たのは赤色の弾だったが、今回は白色だ。
「早く車に乗り込め。すぐにでも出発するぞ」
家を出て車に乗り込む。運転席には井上さんが座った。車は火の出ている島の方を目指して走っている。
「何で今更反乱なんて起こしたんだろうな?」
「家に、来た奴が話してたんだけど、作業をサボっていた奴を自衛隊の奴が銃床で殴ったいたらしいが、周りの奴らがそれを見てその自衛隊員を集団でボコりはじめたらしい」
「誰かが先導しているとかはないんだな」
「だな。そうだとすれば武装している連中を叩けば収まりそうだな」
目的の島にたどり着いた。この島は中村さんがいるはずの島だ。車から降りると、島の中では銃声が聞こえてくる。そして、道の脇に止められているトラックの荷台には縛られた奴隷たちが載せられている。
「君たちが援軍か?」
声が聞こえてきたを見ると、偵察の報告をした時の中にいた自衛隊の人だった。




