37話 身近な人の死
「あ……」
さっきまで助けを求めていた加奈ちゃんは、ただの肉塊になった。……俺はあの時、加奈ちゃんを囮にすれば少しは時間を稼ぐことができて、小銃を持った男2人から逃げれると思ったんだ。
スロープを塞いでいる車から様子を見ると、加奈ちゃんの死体付近であいつ等が何かを喋っている。そして、うつ伏せになっている死体を蹴飛ばして仰向けにした。加奈ちゃんの顔は小銃で撃たれたせいか、まともに見れる状態じゃなかった。……あの時、俺が飛び出して持っている拳銃で応戦すれば加奈ちゃんを助けれたかもしれない。
「助けて!」
今、加奈ちゃんの声が聞こえた気がする。……もう一度、加奈ちゃんの方を見ると……まだ、あいつ等は死体で遊んでいる。あの声は……気のせいだ。
ドォン
突然横から大きな音がした。隣を見ると、血だらけになっている雄介さんが散弾銃を持って立っている。
「何してんだよ!」
銃口の先を見ると、加奈ちゃんの死体の隣で腹を真っ赤に染めた男が腹を押さえて苦しんでいる。もう一人いたはずの男の姿が見えなくなっている。ミニバンの後ろにでも隠れたのだろう。
ドン
雄介さんがもう一発散弾を撃った。ミニバンのフロントガラスがヒビで真っ白になった。雄介さんが車の陰に隠れて散弾銃に弾を込めている。だが、よく見ると手が震えてなかなか弾が入らないでいる。
タタタタ
隠れいている車に大量の銃弾が当たる音がしている。横を見ると、運転席のドアに穴がいくつも空いている。……もし、エンジンルームを盾にしていなければハチの巣になっていた。横を見ると、雄介さんが散弾銃を抱えて、相手の弾切れを待っているようだ。
銃撃が止んだ。その瞬間に雄介さんが身を乗り出してミニバンに向けて散弾を撃った。今度は右ヘッドライト周辺を破壊した。俺も何か考えないと……。さっきよりも雨は弱くなっている。……なんか、微かにガソリンの匂いがする。ふと下を見ると、流れてくる雨に交じって虹色に光る液体が流れている。これって、あのミニバンから流れ出ているガソリンか?
「雄介さん!ライター持ってないか!?」
「え?こんな時に何ですか!?」
「いいから持ってるのか!?」
「持ってます!」
ライターをこっちに向かって投げてきた。とっさにライター拾うと虹色に変化している所に火をつけたまま近づけた。
ボウッ
気化したガソリンに一瞬火が点いた後に、流れているガソリンに火が点いた。そのまま、火はミニバンへと一直線に進んでいった。火がミニバンの下にたどり着くと、ミニバン周辺が火に包まれた。その火に巻き込まれたのか男が火に包まれながら転がり出てきた。しばらく転がった後、ピクリとも動かなくなった。こっちに肉の焦げるような匂いが漂ってくる。
「死んだんですか?」
「……多分」
周りを見渡すと、雨が小降りになっているおかげで周囲の状況がよくわかる。駐車場には来た時にはなかった車が数台止まっている。あれが、今回襲ってきた奴らの乗ってきた車か?
「……一度、店の中に戻りましょう」
「あぁ」
店の入り口に向かって2人で歩いていくと、入り口付近に死体が二つ血だらけの状態で横たわっている。1人は猟友会の帽子をかぶっているのを見ると、最初に来た3人の男のうちの1人だろう。もう1人のほうは首から銀色の板が2枚ぶら下がっている。これって認識票ってやつか?刻まれた文字をよく見ると、ハングル文字で書かれている。こいつらは韓国軍で決定だ。先日聞いた話だと石川県にいるはずだったのにもうここまでやってきたのか?
雄介さんが生鮮食品売り場のテントの前に置いてある椅子に座り、近くに置いてある缶コーヒーを飲み始めた。
「……これからどうするんだ?」
「どうするって……」
雄介さんが握る缶コーヒーが潰れた。……ヤバイ。今、話すことじゃなかった。
「何でそんなに冷静なんですか!? 目の前で人が死んだんですよ!この手で殺したんですよ!」
……俺も直接人を殺したのは初めてだ。
「……もう良いです。俺は加奈をちゃんと供養して行きます。行くなら先に行っててください」
「行く当てはあるのか?」
「はい。詳しい場所までは聞いてませんが長野のリゾート地に行こうと思ってます」
「そうか。気を付けて行けよ」
「そちらこそ。早くイザベラさんが見つかるといいですね」
出口に向かう途中で、散弾銃を1丁拾った。小銃よりもこっちのほうが当てやすいだろう。外に出ると、すでに雨は止んでいた。俺と岩尾さんが乗ってきたオフロードバイクはそのまま置いてあった。俺が乗ってきたバイクに跨ってエンジンをかけると、うまくエンジンが吹けない。車体を軽くゆすってみると、燃料タンク付近からちゃぷちゃぷ軽い音がする。もうガソリンがないみたいだ。
バイクの荷台に縛り付けてあるガソリン缶の中身を燃料タンクへと移していく。周りを見渡すと、100メートル程のところにゾンビの集団が迫ってきているのが見えた。雨が土砂降りの時は銃声が雨音でかき消されていたんだろうな。雨が止みはじめて銃声が周りにも響いたからゾンビが寄り始めたんだ。
「……。」
あの集団がここまでたどり着くのにそれなりの時間はかかるだろうが、雄介さんを放っておくわけにもいかない。一応知らせに行くか。
スロープを見ると、すでに加奈ちゃんの死体はなくなっていた。その代わりに店内に血痕が続いている。多分、雄介さんが店の中に加奈ちゃんを運んだんだろう。岩尾さんは運転席側の窓を血だらけにしてハンドルにもたれかかったまま動かない。……そういえば家族がいるって言ってたな。家族はどうなるんだろうか?……そんなことを気にしている場合じゃない。今は雄介さんにゾンビが来ていることを知らせてすぐに逃げるんだ。
奥の生鮮食品売り場のテントに向かう途中、血がずっと続いている。……加奈ちゃんをどこまで運んでいるんだろうか?
生鮮食品売り場にたどり着いた。テントの中で加奈ちゃんの死体が寝ているように置いてある。本人はどこだ?
周りを見渡すと、遠くで人の影が見えた。あれが、雄介さんだろう。近づいてみると……天井から釣り下がっている証明にロープが掛けてあり、そこで雄介さんが首を吊っていた。




