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36話 銃撃戦

「伏せて!」


 厨房のキッチン台に隠れると、厨房の窓が粉々に砕け散った。横を見ると、岩尾さんが小銃を抱えて震えている。そりゃ、銃撃戦は初だからな。……俺も拳銃を持つ手が震えていた。


「ど、どうするんですか?」


 岩尾さんがこっちを見て聞いてきたが、どうすればいいか分かるわけないだろ。とりあえず、少し頭を出して様子を見てみるか。

キッチン台から頭を出すと、割れた窓の向こうには小銃を持った男が立っていた。その隣にも、同じように小銃を持った男が立っていた。2人は何か話しているようだが、まったく聞き取れない。何語だ?日本語じゃないし、英語でもない。この感じ、もしかすると韓国とかそこらへんのハングルか?


「あの人たち、日本人じゃないですよ」

「わかってる」


 もしかして、浜名湖の避難所で聞いた韓国軍か?見た感じ、岩尾さんの持っている小銃とも形が違うし、浜名湖の自衛隊員が持っていた他の小銃とも形が違う。

 何か話しているのに夢中なのか、こっちを振り向きもしない。こっちの存在に気が付いてないのか?


「岩尾さん、後ろの扉から逃げましょう。あんなのを相手にしても勝てるわけありません。雄介さん達には悪いですが、途中で加奈ちゃんを拾って逃げましょう」

「そ、そうですね。逃げましょう」


 もう一度、撃ってきた2人の男を見ると、完全に背を向けている。何であいつ等はこっちを撃ってきたんだ?

岩尾さんの方を見て頷くと、一気に廊下への扉を開けて廊下に出た後に扉を閉めた。扉を閉めた直後にアルミ製の扉に数箇所、穴が開いた。撃ってきた!扉の向こうから良く分からない言葉で男2人が叫んでいるのが聞こえる。追いかけてくるな。


「走れ!」


 全速力で屋上駐車場へと続く階段へと走る。来る途中、廊下端に積み上げてあったダンボールを崩してきた。それに、部屋に潜んでいる可能性も考慮して一つ一つ廊下に面している部屋を調べるだろう。その時間の間に車で逃げる。

 階段を昇っていると、階段の途中で加奈ちゃんが座り込んでいた。


「あれ?どうしたんですか?」

「付いて来い!逃げるぞ!」

「え?お兄ちゃんは!?」

「いいから付いて来い!銃を持った男2人が追いかけてきているんだぞ!」


 加奈ちゃんは、いまいち状況を理解できてないみたいだが、とりあえず付いてきている。そのまま昇ると、屋上駐車場に出た。相変わらずバケツをひっくり返したような雨が降っている。車にたどり着くまでに支給された雨合羽に雨が染み込んできた。付いて来た加奈ちゃんは、全身びしょ濡れになっている。助手席に乗り込むと、岩尾さんが運転席に乗り込んで鍵を刺して捻った。エンジンはすんなりとかかってくれた。後部座席には加奈ちゃんが座っている。


ピシッ


 後ろを見ると、後ろの窓に蜘蛛の巣状のヒビが入っている。その先に見えるのは小銃をこっちに向けている男が2人見える。下の階で撃ってきた奴らだ。


「加奈ちゃんは伏せて!岩尾さん!早く車を出して!」

「は、はい!ところでお兄ちゃんは?」

「まだ下に居る」

「なんで助けに行かないんですか!?」


 車が急発進して出入り口に一直線に進んでいく。後ろからは銃声が幾つも聞こえてくる。その銃声にあわせて車の窓にヒビが入って何か硬い物が当たる音が幾つも聞こえる。


「こんな状況じゃ無理だ!」

「ひいいいい!」


 運転席で叫びながらもしっかりと岩尾さんが運転してくれている。……後ろでは加奈ちゃんが頭を抱えながら伏せている。後ろを振り返ってみると、男2人の姿は見えなくなっていた。進む先に薄っすらと出入り口のスロープが見えた。


「ねぇ!お兄ちゃんを助けてよ!」

「うるせぇよ!お前はあいつ等の装備を見なかったのか!?」

「こっちにだって有るじゃない!」


 ダメだ。何言っても雄介さんを助けると言ってこっちの話を聞かないだろう。もうここに置いて行ってもいいかな?


「ヤバイですよ!」


キキッ


 いきなり岩尾さんが急ブレーキを踏んだ。雨で路面が滑りやすいのか車からギギギッとABSの音がしている。そしてスロープの出入り口には乗用車が2台並んで道を塞いでいる。このままだと止まれない!


ゴシャッ


 岩尾さんがハンドルを切って、壁に車体を押し付けて減速し始めた。これなら出入り口に止まっている車にぶつからずに済むかもしれない。

 結局、車はぶつからずに済んだ。だが、目の前の車を早くどかさないと後ろからあの男2人が追い付いてくる。


「大隅さん右の車を動かしてください。私は左の車を動かします」

「わ……わかった。加奈ちゃんは車の中で待ってろ!」


 車を降りて、出入り口を塞いでいる2台の車のうちの一つに乗り込む。カギは刺さったままになっている。車を動かそうとしたときに、運転席の窓が粉々に砕け散った。まさか、あの2人の男が追い付いてきたのか!?

 スロープの上を見ると、男2人が小銃をこっちに向けて立っている。その銃口からカメラのフラッシュのように光が出た。


ドガッ


 後ろの岩男さんが運転しているはずの車が追突してきた。バックミラーを見ると、運転席側のフロントガラスが真っ赤に染まっている。……撃たれたのか?とりあえず、車から降りてさっきまで乗っていたミニバンを盾にする。……中から悲鳴が聞こえてくる。そりゃ、無数の銃弾がこのミニバンに当たっているんだからな。岩男さんが乗っているはずの車を見ると、岩男さんが頭を血だらけにしてぐったりしている。……もうダメだ。完全に死んでいる。


ピピッ


 ミニバンのスライドドアが開いた。出てくるな。今出ればハチの巣にされるのがわからないのか!?


「馬鹿!出てくるな!死ぬぞ!」

「助けて!」


 ボンネット越しに様子を見ていると、加奈ちゃんがこっちに向かって走ってきている。その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。


ドサッ


 加奈ちゃんが力を失うように倒れた。側面から加奈ちゃんを見ると、右足を撃たれたのか太ももから血が流れ出ている。気が付くと銃撃は止んでいた。小銃を持った男2人はこっちに向かってゆっくりと歩いてきている。よく見ると、小銃を下に向けて完全に油断している。逃げるなら今のうちだが、加奈ちゃんを助けて逃げようとすれば仲良く撃たれるだろう。


「いたいいいい!」


 加奈ちゃんの声が聞こえる。


パン


「いっ!……ああああああ!」


 また様子を見ると、今度は左手だ。……あいつ等、痛ぶって遊んでやがる。


「お願い……助けて」


 ……もう逃げるにしても限界だ。決断しないと……!


パン


 すぐ近くにあった運転席側のルームミラーが吹っ飛んだ。それと同時に俺は走り出した。







 気が付くと、スロープの出入り口をふさいでいた車を盾にしていた。……そっと加奈ちゃんの方を見ると、うつ伏せに倒れて頭からは大量の血が流れ出ていた。

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