35話 襲撃
雄介さんに近寄る。こいつは一体何を考えているんだ?見ず知らずの人にそこまで食料を渡す必要ないだろ。
「本気で言ってるのか?」
「本気ですよ。どうせこんなに食料があっても食べ切れませんから……」
雄介さんがこっそり耳元話しかけてきた。
(この人たち、猟友会の人たちです。下手に逆らって銃撃戦になったときに勝てる見込みはありませんからね)
ちゃんと分かっていたんだ。……そりゃ浜名湖の避難所から逃げたぐらいだ。俺が子供だからって甘く見ていたのかもしれない。
「おい!正面に停めてある車を中に入れるぞ。この広さの通路なら車で入ってこれる」
「今持ってくる!」
2人のうちの1人が入り口の方へと向かっていった。
「本当にありがとう。君のおかげで数十人の人が助かるんだ」
入り口の方からエンジン音が聞こえてきた。一緒に誘導をしている声も聞こえてくる。
「お礼といっては何だが、良かったら一緒に避難所に来ないか?長野のリゾート地に私達が居る避難所があるんだ.付いてくる気は無いか?」
いきなりスカウトか。だが、雄介にとっても悪い話ではないだろう。ここの食料目当てでやってくる奴も多いだろう。その中には力づくで奪いに来る奴らもいる。そうなった時に加奈ちゃんを1人で守るのはつらいだろ。
「……実は俺1人ではなく、もう1人妹が居るんです」
「あぁ、構わない」
「そこで、俺の車を使いませんか?皆さんが乗ってきた車よりでかいですよ」
「……それならその車にも物資を積んで長野まで行こう。そっちの車に1人護衛として中村を乗せる」
中村って入り口で見張りをしている奴のことか。
「ところでお前が加奈ちゃんって人じゃないよな」
「違います。どう見ても男です」
「それじゃあ、お前は何者だ?」
この人にもここに来た目的を話した。
「そうか。大変だな。だが、俺達が物資を持って行けばここは誰もいなくなる。そうすればお前達の避難所が全て持っていける。これでWIN-WINだ」
これで雄介さんと加奈ちゃんは何とかなった。後は戻ってここまで来た時の道の状況と、ここの状態を報告するだけだ。岩尾さんを探しに行こう。
「岩尾さんと加奈ちゃんを探してくる」
「あ、お願いします」
確か、2人はテントがあった生鮮食品売り場にある厨房に続く扉へと入って行ったな。
扉奥の厨房に入って探してみるが、見当たらない、さらに奥に行ったのか?厨房にある扉から出ると、今度は長い廊下だ。廊下の端にはダンボールが積まれている。その奥には扉が見える。あそこに入ってみよう。扉には女子更衣室と書いてある。……入っても大丈夫だよな。一応ノックしておこう。
「もしもし。大隅です。安全確保できたので大丈夫ですよ」
……反応なし。誰も居ないのか?ゆっくり扉を開けると、奥のほうでソードオフショットガンを抱えて加奈ちゃんが蹲っていた。
「どうした?もう大丈夫だぞ」
声をかけても反応が無い。少し揺らしてみるか。
肩に触ると、ビクッと体が飛び上がった。そんなにビックリすることないだろ。
「え……何かあったんですか?」
「いや……進入してきた人達にお前の兄ちゃんが食料を分けてあげたら、その人たちの避難所に2人が招待されたんだよ」
加奈ちゃんが難しそうな顔をしている。いきなり説明しても分かるわけないよな。……岩尾さんの姿が見えない。どこいったんだろうか?
「もしかして相方でも探してる?」
「あぁ、どこに行ったか知らないか?」
「屋上で見張りをするって言って出て行ったよ」
「ありがとう。お前も皆のところに行けよ」
加奈ちゃんが無言で頷いた。加奈ちゃんと一緒に部屋を出ると、加奈ちゃんが来た道とは逆の方向に指を指している。
「あっちの方向に従業員用の屋上駐車場に続く階段があるよ」
「ありがとう。気を付けていけよ」
加奈ちゃんの指差した先に向かうと、確かに上に続く階段がある。階段を上ると屋上駐車場に出た。今、外に出て気が付いたが、雨が降っていたんだ。しかも、結構土砂降りだ。そんな中、岩尾さんが1台のミニバンのリアゲートを空けて座っている。
岩尾さんが座っているミニバンまで走っていくだけでも雨合羽に染み込んできそうだ。
「下は大丈夫なんですか?」
「大丈夫。むしろ、あの2人の行き場所も作ってくれた」
「そうなんですか。それは良かったです。……避難所に帰る時この車で帰りませんか?」
「え?鍵は?」
「偶然、近くにいたゾンビを殺したら持っていたんです」
車の横を覗き込んでみると、女性の死体が頭から血を流して倒れている。流れ出た血が雨で広がって車の下に流れている。小銃を使ったのかな?
「初めて銃を撃ったんですけど、5発撃ってようやく倒すことが出来ました」
「俺もそんな感じでしたよ」
「ここで何をしていたんですか?」
「周りの様子でも……と思ったんですが、雨が降ってきて先が見づらくなっちゃいました」
周りを見ると、駐車場の端の方に停められている車も霞んで見える。
「何か聞こえませんか?」
「え?急にどうしました?」
良く耳を澄ますと、確かに何かが破裂するような音が聞こえる。これって……銃声!?
「もしかして銃声じゃないですか!?」
「下に戻ろう!」
まさかとは思うが、この付近にワイヤートラップを仕掛けた奴らがここにやって来たのか?……今は考えている場合じゃない。下に戻らないと。
拳銃を取り出して階段を降りると、階段の踊り場に加奈ちゃんがソードオフショットガンを持ったまま立っている。ここまで逃げてきたのか?雄介さんはどこに行った?
「何があった?」
「いきなり人が入ってきたと思ったらおじさんを1人撃ったの。お兄ちゃんがここまで連れてきてくれて、ここに居ろって」
何と無く今ので察した。入ってきたのは敵だ。話し合いをする気も無い奴らだ。すでに1人やられたみたいだが、今の状況はどうなっているんだ?
「岩尾さん、ヤバイと思ったらすぐに逃げましょう」
「わ、わかった」
俺と、岩尾さんは銃撃戦は初体験だ。これは良くやっていた戦争系のFPSのゲームと違って一発でも喰らえば動けなくなる。それに、雄介さんには申し訳ないが、最悪見捨てることになるかもしれない。
廊下の扉を開けて、厨房に入って厨房の窓から店の中を見ると、時々店内にカメラのフラッシュを焚いたように光っている。これは銃を撃ったときの光だろうな。
次の瞬間、厨房の窓に蜘蛛の巣状のヒビが入った。




