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34話 訪問者

 雄介さんがリボルバーを降ろしてくれた。それを見て岩尾さんが混乱している。


「え?大隅さん、この人と知り合いなんですか?」

「岩尾さん。この人は大丈夫です」


 岩尾さんが小銃の銃口を床に向けた。何でこんなところに雄介さんが?それに、妹の加奈ちゃんはどこに居るんだろうか?


「とりあえず座ってください」


 テントの脇においてあるパイプ椅子を並べてくれた。


「コーヒーでも大丈夫ですか?」

「大丈夫だけど、正面の警備はいいのか?」

「大丈夫ですよ。入り口周辺の足元には意図を這わせて誰かが通ったときに音が鳴るようにしてあるんです。だから、二人が来たときに気が付いたんです」


 もしかして、知らないうちに手作りの警報装置に引っかかっていたのか。それにしても自動ドアぐらい閉めておけよ。


「入り口の自動ドアは閉めなくていいのか?」

「閉めたいんですけど、途中で何かが引っかかっていて動かないんですよ」


 そうだったのか。無理に動かして、あれよりも開いたらゾンビがさらに進入してくる可能性があるからな。それならあのままで放っておくか。


「加奈ー。で出来ても大丈夫だぞ」


 店の奥から加奈ちゃんが銃身を切り詰めた水平二連式散弾銃を持って出てきた。ああいうのってソードオフショットガンって言うんだっけ?


「久しぶりです」

「その手に持っているのは?」

「ここに来る途中で猟友会の人がゾンビになっていて、その人の肩に担がれていたんです。それを貰って来たんです」

「あの……それって、元々そんな短かったんですか?」


 岩尾さんが加奈ちゃんの持っている散弾銃を指差す。確かに。切り口は斜めになっていて手作り間満載だ。加奈ちゃんは雄介さんの後ろに隠れた。最初に出会ったときもこんな感じだった。


「それは、そのショットガンを使うのには重そうだったんでこのショッピングセンターにあった鋸で切り落としました」


確かに、訓練もしていない女の子が散弾銃を取り回すのは大変だろう。それを、半分ほどまで短くすれば、射程距離は短くなるが、室内では扱いやすくなる。下手に拓けたところに行かなければ大丈夫だろう。


「ちなみに僕の持っている拳銃は死んだ警察官が持っていましたよ。当たる気がしませんけど」


 感動の再会が出来たのはいいけど、何とかしてこの2人をこの場から逃がさないと、一度奴隷になった身だ。この場所に浜名湖の人達が来て、保護した後に奴隷にしてしまうだろうな。


「ちなみにどうやってここまできたんだ?」

「車で来ましたよ。入り口付近に大きい車が止まってませんでしたか?」

「……そこまで気にしてない」

「……軽自動車じゃ不安だったんで近所にデカイ車に乗った人が居るのを知っていたんでちょっと借りました」


借りた……?


「この店の中のゾンビは?」

「加奈と協力して追い出しました。音を鳴らして誘導したり、俺が囮になったりしました」


勇気あるな。来る途中のピアノ線も雄介さんの仕業か?


「来る途中にあったピアノ線トラップも仕掛けたのか?」

「そんなの仕掛けてませんよ。店の外にまでトラップを仕掛ける余裕なんてありませんよ。……何かあったんですか?」


 岩尾さんの方を見ると、目が合った。その後、無言で頷いた。


「実はな。道路にピアノ線が張られていて、2人ほど首が吹っ飛んだ」

「……マジですか?……確かに車で走っていたときに変な感触はしたような気がします。あ、仕掛け直してきますね」


 雄介さんが暗闇の中にランタンを持って消えていった。残された加奈ちゃんはソードオフショットガンを抱きかかえるように持っている。今にもこっちに向けてきそうで怖い。

 しばらく無言のまま突っ立っていると、加奈ちゃんがテント横の商品棚に立てかけてあるパイプ椅子を並べてくれた。座れって頃でいいのか?


「ここに何しに来たの?」

「それは……」


 目的を言いかけたところで雄介さんが戻ってきた。


「何を話していたんですか?」

「俺と、岩尾さんがこっちに来た目的を話そうとした」

「え?普通に逃げてきただけじゃないんですか?」

「残念ながら違う」


 ここで俺は、このショッピングセンターに来た目的を全て話した。


「そんな理由だったんですか。連れの2人は見つけることが出来たんですか?」

「連れの2人?」


 あぁ、岩尾さんには知られたくなかったんだけどなぁ。ここまで来たら話といたほうが良さそうだ。

岩尾さんには、イザベラ、中村さんのことを全て話した。


「そうだったんですね。余計、今回の作戦を終わらして無事に帰りましょう。私にも妻と子供が2人居るんですから」


あー、こういうのって死亡フラグって言うんだっけ?


カランカラン


 何か、木がぶつかり合うような軽い音がした。


「皆さん!誰かこの建物内に入ってきました。大隅さんは俺についてきてください。岩尾さん……は、加奈と一緒に裏に隠れていてください」


 加奈ちゃんがランタンを持って厨房へと入っていった。それに続くように小銃を持った岩尾さんも厨房へと入っていった。


「おい。どうする気だ?」

「まず、商品棚に上ってどんな奴が入ってきたか確認します」


入り口付近の商品棚に梯子がかけられている。梯子を上ると、商品がすっぽりと無い空間がある。そこに乗ると、入り口付近が良く見える。もしかして俺と岩尾さんが入ってきたときもここから見ていたのか?見ていたのだとしたら気が付かなかった。

 入り口付近には中年男性が3人ほど散弾銃やライフルを持って入り口付近でゾンビが来ないか警戒している。


「どうするんだ?」

「……俺が話してきます」

「もし、暴徒だったらどうするんだ?あいつ等が持っている武器で襲われるだけだぞ」

「その腰に持っている物は飾りですか?」

「……射撃の腕に関しては素人だぞ。もしかしたら、雄介さんにも当てる可能性もある」

「それで、追い返すことが出来れば十分です」


 雄介さんが梯子を降りて中年男性たちのところへと向かっていった。俺は、拳銃を3人のうちの1人に銃口を向けておく。


「君はここに住んでいるのか?」


 先頭の中年男性は散弾銃を肩にかけているが、後ろの2人は銃口が下に向いているが引き金に指がかかっている。


「そうです。何か用ですか?」

「すまないが、食料を少し分けてくれないか。ほんの少しでも良い」

「……わかりました」

「ありがとう。中村。お前は入り口でゾンビが入ってこないか見張っていてくれ」


 3人のうち1人が入り口に残って、残りの2人が雄介さんについていった。残った人が中村だな。猟友会の帽子をかぶっている。元々狩猟をしていたんだろうな。他の2人も狩猟仲間だろう。それを考えると、銃に扱いも慣れているだろう。まさか、雄介さんはそれを見抜いて争いを避けるために大人しくしたがっているのか?


 商品棚を降りてこっそり後を付いて行く。雄介さんは真っ直ぐ食料品売り場へと誘導していく。


「おい。他に誰か居るのか?」


 雄介さんに付いて行っているうちの1人が立ち止まって振り返った。


「……大隅さん出てきても大丈夫ですよ」


 ゆっくりと両手を挙げながら物陰から出る。すると、2人のうち1人が俺の方へとライフルの銃口を向けてきた。


「仲間か?」

「はい。仲間です」


 ライフルを持った男が溜息をついて、銃口を下ろしてくれた。


「まぁ。このご時勢。警戒するのもしょうがないことだ」

「到着しましたよ」


 周りを見渡すと、上の方は暗くて見えないが缶詰や、調味料、米が大量に残っている。これだけ残っているのも珍しい。ほとんどのスーパーやショッピングセンターは生存者に荒らされて食料品は残ってないことばっかりだった。


「どれぐらいならもって行っていいんだ?」

「逆に質問しますが、何人分の食料が欲しいんですか?」

「……出来れば外に停めてあるワゴン車に乗せれる分」


 おいおい。それは貰いすぎだろ。


「いいですよ。どうせ僕達だけじゃ食べ切れませんから」


マジかよ。

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