33話 トラップ
国道1号線は思ったよりも放置されている車が少ない。さらにゾンビの数もかなり少ない。これなら大型トラックが通るのも、問題ないだろう。郷田さんも、地図に何かをメモしている。
「この感じなら問題なく目的地にたどり着きそうですね」
隣に並んでいる岩尾さんが話しかけてきた。
「ショッピングセンター周辺は市街地ですよ。流石にゾンビも多いでしょう。もしかすると、生存者が襲ってくる可能性もあるんですよ」
「そ……そうですね」
あ、また走り出した。しばらく走ると、郷田さんがトランシーバーを取り出して何かを話している。チラッと見えた郷田さんの表情はかなり険しい感じだ。何があったんだろう?結局、そのことを教えてもらうことなく国道1号線を走る。
「何があったんでしょうね?」
「さぁ?とりあえず、付いていきましょう」
一体、どの辺りまで来たんだろうか?緩やかなカーブを過ぎると、高架道路が終わった。流石にゾンビの数も増えてきたが、周りが田畑のおかげで住宅街や、市街地に比べてゾンビは少ない。前を走る郷田さんが左ウィンカーを出して脇にバイクを停めた。俺達もその周りにバイクを停めた。周囲を見ると、ゾンビは遠くにしか見当たらない。あの距離ならここまでたどり着くのにだいぶかかるだろう。
「先程、東名高速組から連絡があった。トラックが横転して道を塞いでいたらしく、引き返したところゾンビの集団に襲われたらしい。3人ほどやられて、残りは2人だそうだ。話し合った結果、東名高速組は浜名湖に引き返すことになった。俺達はこのまま続行だ」
郷田さんが再び走り出す。そうか。東名高速はダメだったか。これで、俺達が偵察できずに引き返せば次の作戦の成功度も低くなるのか?
「岩尾さん、大丈夫ですか」
「ちょっと疲れてきましたよ。休憩したいですね」
「がんばってください」
次第に回りに家が増えてきた。一緒にゾンビも増えてきた。流石にこの多さだと、バイクで走るのがきつくなってきた。このまま進む気なのか?郷田さんは徐々にスピードを上げている。前を走る郷田さんを見ていると、良い姿勢でバイクに乗っているな。
シュパッ
目の前を走る郷田さんの首が無くなった。その後ろを走っていた男性の首も同じようになくなっている。思わず、ブレーキをかけた。タイヤがロックして、周りにタイヤのスキール音が響き渡る。何とか止まることは出来た。首元に細い線が当たっている感触が伝わってくる。
「危なかった……」
ちょっと下がって細い線を見ると、ピアノ線が道の両端に停められているトラックに縛り付けてある。2人はこれにやられたのか。
「ゾンビ対策の罠ですかね?」
違うだろう。ゾンビ用の罠だとしてもピアノ線の数が少なすぎる。しかも、歩道の方にはピアノ線は無い。これは明らかに対人用だ。
「違う。こんなのがゾンビ用なわけ無いだろ」
周りを見ると、裏路地や民家からゾンビが出てきている。早くここを立ち去らないと囲まれてしまう。
「早く行きましょう!」
「ちょっと待ってくれ!」
首の無くなった郷田さんの死体から地図を取り出す。地図には今まで通った道に事細かくメモが書いてある。他に使えそうなものは……小銃は岩尾さんに渡そう。俺は拳銃にしとこう。
「私、使い方知りませんよ」
「目標に向かって引き金を引くだけですよ。……俺も数回使っただけですから」
使うとしたら緊急時だけだな。周りのゾンビを全部倒そうとすると、弾が足りない。マガジンの交換も出来ないから、ある弾を使い切ったら小銃と拳銃はただのお荷物になるだけだ。
「早く行きましょう!もう限界です!」
流石に限界だ。戻ろうにも、来た道にはゾンビが多い。あんな中にバイクで突っ込むのは無謀にも程がある。ここは目的地のショッピングセンターに行くべきだろう。
バイクに跨ってピアノ線を避けて先に進む。この先にもピアノ線が張られている可能性もある。速度を落として進もう。それでピアノ線をかわせるとは思わないが……。
「どうするつもりですか?」
「とりあえずショッピングセンターに行きます」
「行ってどうするんですか?」
「……篭城します。岩尾さんが前に話してくれたことが本当なら、まだ中は荒らされてないはずです」
「その根拠はどこに有るんです?」
「勘です」
話を来た限り、周辺と中にはそれなりの数のゾンビが潜んでいるはずだ。それでも、ここに居るよりはマシだと思いたい。
結局、ショッピングセンターまでたどり着くことが出来た。ピアノ線は無かった。誰かが面白半分で仕掛けたのか?
「どうするんですか?」
「中の状況を確認します。危ないようなら撤退しましょう」
ショッピングセンターの駐車場には、ちらほら車が残っている。そのほかには商品がいっぱい詰まったカートが所々においてある。中にある商品はどれもボロボロになっている。あれは使えそうに無い。ゾンビも駐車場を見る限り少ない。店の中もこのゾンビの多さなら自衛隊の装備があれば何とでもなるだろう。
「店の中に入りましょう」
「慌てないでください。まずは様子見です」
バイクを停めてエンジンを切る。
近くの商品がいっぱいのカートから缶詰を取り出すと、半開きの自動ドアの隙間から店内に缶詰を投げる。
カーン
しばらく待ってみるが、店内に動きは無さそうだ。とは言っても、店内は真っ暗で入り口付近5メートルほどしか見えない。これは懐中電灯が必要だ。
「何か中を照らせそうな物ないですか?」
「これ使えませんかね?」
岩尾さんが小銃を見せてきた。小銃の銃口の下にライトが付いていた。これを使えばいいだろう。先頭は岩尾さんに任せるとしよう。
店内は並べてある商品が床に落ちていたり、血溜りがあるがゾンビや生存者の姿は見えない。
「目の前に見えるのって懐中電灯じゃないですか?」
岩尾さんが照らす先にはLED式の懐中電灯が商品として並べられていた。どうやら、電池が元から入っているようだ。中から取り出せばすぐに使える。
懐中電灯を取り出して電源をつけると、岩尾さんが持っている小銃についているライトよりも明るかった。岩尾さんにもこの懐中電灯を渡そう。
「こっちの方が明るいですよ」
2人で奥のほうへと進んでいくが、何かが腐った臭いが奥に進むに連れて強くなっている。もしかすると、奥の生鮮食品が腐っているだけかもしれない。あるいは、死体が置くに放置されているとか?周りの商品が入っている棚を見るが、かなりの数が残っている。この様子だと、誰も商品を持ち出しては無いようだ。
「ゾンビもいないみたいですし、もう戻りましょう!」
「……生鮮食品も見てみましょう」
まぁ、肉や魚が1ヶ月も無事なわけないけど。
生鮮食品コーナーにたどり着くと、そこにはつい最近まで誰かが生活していたような痕跡があった。テントに寝袋。ガスコンロに調理道具。しかも、ガスコンロ上の鍋からは湯気が出ている。……この場所はマズイ!
「岩尾さん!逃げ……!」
言い終わる瞬間にテントの中から人が出てきた。腰から拳銃を抜こうとすると、テントから出てきた人物が額に何かを当ててきた。良く見ると、それは警察が使うようなリボルバーだ。横目で岩尾さんの方を見ると、小銃をテントから出てきた人物に向けているが、銃口が揺れている。あのままだと俺も一緒に蜂の巣にされそうだ。
「大隅さん!?」
岩尾さんがテントから出てきた人にライトを当てると、その人物は浜名湖に来る前に助けてもらった雄介だ。




