31話 作戦内容
目が覚めると、すでに時計の針は11時をさしていた。完全に寝過ごした。今から行けば間に合うだろう。外に出ると、玄関横に90ccのスクーターが置いてあった。これを使えばいいのか?
シート下からヘルメットを取り出して被る。……フルフェイスタイプだから他人の臭いが染み付いてるな。何かイヤだな。さっさと終わらして部屋に戻ろう。
駅に向かって走っていると、対向車線に自衛隊の車両が通り過ぎるのが多い気がする。もしかして、今から行く作戦の説明に関係あることなのか?だとしたらかなり大きな作戦だろう。作戦が大きいとしたら、本当にあの男が話していたように功績を残せば昇進もありえるのか?そこも含めて説明してくれないかな?
駅の前に着くと、すでに人が多くいた。バイクを駅の端の方に停めて人だかりの中に居ると、拡声器を持った自衛隊員が現れた。
『皆さん!それぞれの場所で説明を受けてください!』
それぞれの場所?そんなの聞いてないぞ。
『大型車を運転する人はこの場に残ってください。武装する人はすぐ近くのリゾート施設に行ってください。残りのバイクを運転できる方は上のホームに行ってください』
言われたとおりに上の駅のホームに歩いていくと、同じように歩いていく人の姿が数人見える。俺と同じようにバイクの運転が出来るんだろうな。ホームに行くと、すでに自衛隊員が数人待っていた。
「良く集まってくれた。今回の作戦は今までのに比べて大きい。作戦の内容としては浜松市の東区にある輸入商品を扱う超大型ショッピングセンターだ。そこには未だに日持ちする食料が多く残っている可能性が多い。そこで、大型トラック3台を使って商品を運び出す。幸い、その店はパレットごと商品が置いてある、フォークリフトで商品を運び出す」
話を聞く限り大きな作品だ。しかも、浜松市の東区といったらそんなに小さい町じゃないはずだ。そんなところに大掛かりな装備で言って大丈夫なのか?
「そこで、君達の役割が重要となってくる。作戦決行の2日前に周辺のゾンビの数、道路状況を偵察してきて欲しい。それによって進むルートを決定する。バイクはこのバイクだ」
自衛隊員の後ろに数台のバイクが止まっている。どれもメーカーはバラバラだが、オフロードバイクが並んでいる。その中に1台だけ自衛隊の色になっているオフロードバイクがある。自衛隊員も付いてくるのか?
「作戦まで2日間ある。それまでこのオフロードバイクを自由に使って貰って結構だ」
このバイクに慣れろってことか。まぁ、オフロードバイクは免許を取って始めて乗ったバイクだからな。散々、林道に行って遊んだなぁ。それぞれ皆バイクに乗ってアクセルを捻ってレスポンスを確かめたり、足つきを確かめている。自衛隊の人たちは、わざわざここまで運んだのか?
……結局、残っていたバイクを選んだ。ライトグリーンのカラーに塗られている古い2ストのバイクだ。跨ってみると、両足のつま先がギリギリ付く程度の足つきだ。このタイプは確かセルは付いてなくて、キックスタートしかエンジンをかける方法がない。しかも、燃料メーターも付いていない。一応、使い方は知っていたが実際に使うのは初めてだ。
「そのバイクを選んだのはお前か」
「へ?何です?」
自衛隊員の人が話しかけてきた。なんだ?このバイクに何かあるのか?
「そのバイクは極端に燃費が悪いんだ。荷台にこれを積んでいくといい」
そう言って、渡されたのが5リットルの赤いガソリン缶だ。
「それだけあれば往復しても、十分足りるはずだ」
「それでは2日後、7時にこの駅に集合だ!解散!」
それぞれバイクで階段を降りていった。数人、見ている限りこけそうな雰囲気があったが、全員無事に階段を降り切ったようだ。俺も、行かないと。
階段を下りてみると、案外すんなりと降りることが出来た。このまま家に戻ってもしょうがないし、ドライブがてら中村さんのところにでも行くか。
「また来たの?」
「暇だし」
「んで、前とは違う乗り物で来たみたいだけど」
「よく気が付いたな」
「だって他のと違って音がでかかったからね。急に車を変えて、もしかして、近々作戦でもあるの?」
「あぁ。街中にある大型ショッピングセンターに物資を回収に行くらしい。その前の偵察に選ばれたんだ」
「へー。そのバイクで一緒に逃げない?」
唐突だな。
「……断る。ここまで一緒にいたのに、あいつを見捨てるなんて」
「その言葉を聴けてよかった。もし、そこで承諾していたら顔面を殴ってたとこだよ」
おぉ……怖い。
「とりあえず無事に帰ってくることを目標だね」
「そうだな。本当は作戦の前に逃げ出す算段だったがイザベラの居場所がまったくつかめてないからな。今回の作戦で何か成果を上げて待遇を良くして貰うしかないだろ」
「そのときは私もよろしくね」
そのあと、家に帰ると井上が玄関にいた。
「遅いぞ!準備は出来てるんだぞ!」
連れられてリビングに行くと、家の住人の人と、机の上には様々な酒と料理が置いてあった。
「お前のために揃えたんだ!今日は騒ぐぞ!」
その後、日が昇るまで宴会は続いた。気が付くと、皆その場で寝ていた。井上さんにいたっては一升瓶を抱え込んで眠っている。……とりあえずトイレだ。
トイレをしていると、外から話し声が聞こえた。
「話し聞いたか?」
「何をだ?」
「石川県の能登島避難所が韓国軍に襲われたらしいぞ」
「マジかよ。他は大丈夫なのか?」
「実際九州にも上陸しようとしたが、それは嵐で失敗したらしい」
ドンドン
「いつまで入ってるんだ?」
おっと、話を聞くのに夢中になっていた。トイレから出ると、井上が顔面真っ青にして立っていた。無言で入っていくと、トイレの中からゲロを吐く音が聞こえてきた。一番飲んでたからな。その場の勢いで日本酒を一升瓶ごと飲んでだっけ?良くアルコール中毒にならなかったな。
リビングに戻ると、他の人達が片づけをしていた。
「片付けは俺達がしとくからバイクでも乗って練習しとけよ。交通事故で死んだなんて間抜けすぎるからな」
「お言葉に甘えていってきます」
バイクに跨ると、キックでエンジンをかける。昨日と同じようにエンジンがかかった。軽く町を流しているが、この音だとゾンビが集まってくるだろ。マフラーは見た感じ純正のままだ。純正でこれだとどうしようもないな。なるべく回転数を上げないようにしながら運転するしかないだろう。今日は回転数を上げないようにして運転する練習だな。
さらに走ると、路肩でハザードを焚いて止まっている赤いオフロードバイクが止まっていた。その横では男性が背を伸ばしている。その横にバイクを停める。
「どうも」
顔を見る限り中年のいい歳のおっさんだ。バイクに乗っている感じの顔ではないな。
「あ、貴方は駅のホームにいた」
「大隅一です」
「岩尾 浩実です。お互いに明日、がんばりましょう」
勢いで挨拶してしまったが話が続かない。こういうときは何を話をすればいいんだ?
「大隅さんはいつごろ来られたんですか?」
「3日前ですね」
「そうなんですか。私は家族3人でここに来たんですよ」
お、向こうから話を振ってくれた。
「家族は、妻と娘さんですか?」
「そうだ。妻と、娘でこの避難所に着たんだ。二人を養うためには定期的に作戦に参加するしかないんだ」
俺は、1人でこの避難所に来たせいで気が付かなかったが、家族で来れば特殊な技能がない家族を特殊技能をもって居る人が他を養わないといけないのか。もし、家族揃って特に特殊な技能が無ければ全員奴隷になってしまうのか?
「そうなんですか。無事に終わるといいですね」
「いや、そうは行かないだろう」
「どうしてそんな事分かるんですか?」
「……実は、話してないんだが、明日行くショッピングセンター周辺に住んでいたんだ」




