29話 奴隷
銃声が響いたがどこも痛くない。
ドサッ
後ろを見ると、腕のちぎれた死体が転がっていた。ゾンビが真後ろにいたのか。気が付かなかった。後ろを見ると、結構近くまでゾンビが来ている。気が付かないうちに引き寄せてきていたんだ。
「早く来てください!門を閉めますよ!」
自衛隊員がこっちに向かって手を振っている。橋って自衛隊員の元に行く。
「こちらに。料金所を閉めますよ」
自衛隊員に連れられて料金所を通り過ぎると、裏には2トントラックが隠されていた。運転席にはついさっき死体を橋から投げ捨てた人が乗っていた。自衛隊員が合図をすると、トラックがバックして料金所を塞いだ。良く見ると、車体のしたまで鉄板で覆われていて、ゾンビが這いつくばってきても、入れないようになっている。よくも、これだけのバリケードを作ることが出来たな。……まぁ、奴隷に作らせたんだろうがな。
自衛隊員に案内されて道路脇に停められているバスの中に案内された。
「荷物を確認させてください。武器を持っていればこちらで預かります」
自衛隊員に大き目のスパナを渡して、バックの中身を出していく。白い粉を出すと、自衛隊員の表情が険しい顔に変わった。
「これは?」
「あー、ここに来る途中でゾンビが持っていたんです。中身も分かりませんし、分かる人が居ないか探していたんですよ」
とっさに付いた嘘だが通用するか?もしかして、こういうのは持ち込み厳禁だったのか?自衛隊員は白い粉を自分のバックに閉まった。
「使わなくて良かったですね。これは覚せい剤ですよ。これはこちらで預かっておきますね」
その後、噛まれていないかじっくり調べられた。終わった頃にはすでに日は傾いて暗くなり始めていた。
「大丈夫ですね。それじゃあ、島の方まで車を出してもらうので、バスの前に止まっている軽自動車に乗ってください」
結局、大き目のスパナと、白い粉は没収された。自衛隊員の言う通りにバスの前に止まっている軽自動車に乗り込むと、運転席には2トントラックを運転していた男性が乗っていた。後部座席に乗り込むと、ゆっくりと車を走らせ始めた。
「あんた、悪いことは言わない。明日にでも、逃げな」
「もしかして、ここでは奴隷として扱われて居る方ですか?」
「なんだ。知ってるのか。だったら何で来た。ここにいても、自衛隊や他の奴らにいいように使われるだけだぞ」
「俺の仲間が連れて来られているんです。何とかして助けたいんだ」
「……仲間は諦めな」
話をしているうちに第2の検問所っぽい所まで来た。
「ここで降りな。……元気でやれよ」
車を降りると、今度は近くの民家まで案内された。民家に入ると、リビングらしいところに連れて行かれた。部屋の中は机と、椅子だけが置いてあるシンプルな部屋だ。机には所々血痕が残っている。……ここで下手に行動すれば命はないだろう。椅子に座って待っていると、メイド服姿の女性がお茶を持ってやって来た。首に首輪が付いていた。
「どうぞ」
「あ、どうも」
照明が少し暗くて分かりにくかったが、顔に痣があった。酷い事をされているんだろうか?
「お待たせしてすいませんね」
メイド服の女性と入れ違うように太った男性が入ってきた。太った男性はバインダーを持っていた。
「ちょっと軽く質問をしたいんですよ。あと、この施設では少し変わった制度を設けてましてね」
「はぁ……」
「車の運転は出来ますか?」
「はい。自動二輪まで持ってます」
「そうですか。射撃の経験は?」
「有りません」
そんな感じでいくつかの質問をされた。紙に何かを書いているが、ここで必要ないとされたら奴隷にでもされるのか?
「そうですか。では、この施設のちょっと特別な制度を説明しますね」
そういうと、再びメイド服の女性が部屋に入ってきた。
「この施設では運転も、料理も出来ないような人はこうやって働いてもらってるんですよ」
太った男は立ち上がると、メイド服の女性の髪の毛を掴んで顔を机に押し付けた。
「こんな世の中です。人を1人養うのにも沢山の人名がかかわってきます。そんな中、何も出来ないような人を養うほど自衛隊は暇では有りません。あ、大丈夫ですよ。大隅さんは、バイクに乗れる数少ない人材ですから。偵察に出てもらうにはぴったりです」
太った男はメイド服の女性をそのまま投げ捨てるように離した。
「この女のように首に首輪をつけている人は、どう扱ってもらっても結構です。あ、殺すのはやめてくださいね。処理するのは面倒ですからね。あとは、この施設で暮らしていれば分かると思うので」
太った男はそう言うと、奥の部屋に消えていった。部屋の隅ではメイド服の女性が倒れたままになっている。近くによって声をかけてみるが、反応がない。でも、息はして居るようだ。打ち所が悪かったのか気絶しているだけの様だ。
「何してる?行くぞ」
後ろを振り返ると、自衛隊員が立っていた。後ろを付いていくように歩く。
「お前は運がいいな。あそこでバイクが運転できると、分かってなかったら奴隷になっていたぞ」
「……偵察があるって言ってましたね。どうして、奴隷にさせないんですか?」
「そんな事させたら逃げるだろ。だから、偵察や、食糧確保、ゾンビ撃退には自衛隊や、警察、選ばれた人しかやらないんだ。その代わり奴隷達は、畑を作ったり、死体を片付けたりの雑用をやってもらってるんだ」
しばらく歩くと、開いた土地で農作業をしている人達が見える。その奥には銃を持って立っている警察が見える。農作業をしていた男性が倒れると、警察官が近寄って、蹴りを入れた。男性はよろよろ立ち上がると、再び農作業を始めた。まるで、第二次世界大戦まで時代が戻ったみたいだ。
「だがな、これを酷いと思ってもらっちゃ、困る。最初は避難してきた人は、何もしなくても自衛隊が助けてくれると思ってたんだ。バリケードを作るのを手伝って欲しいと頼んでも知らん振りだ。仕舞いには文句を言う人まで出てきたもんだ」
確かに、話を聞く限りでは大変な思いをしてきたようだが、そんなの知ったことではない。一歩間違えればあんな風に働かされるなんてまっぴらごめんだ。
「ここだ。今日からこの家がお前の家だ。すでに何人か住んでるが気にするな。部屋は住んでいる人に聞いてくれ」
そう言うと、自衛隊員は何処かに言ってしまった。仕方なく、家に入ると住人らしき人と鉢合わせた。
「今日から入る人だね。丁度良かった。こっちだよ」
30代くらいの男性だろうか?服の上からでも分かるくらいの筋肉だ。その人についていくと、2階の何もない部屋に案内された。
「電気つけな」
言われたとおりに部屋の照明のスイッチを押すと、電気がついた。
「ちょっと行った先に太陽光発電所があってな。この避難所では電気が使い放題なんだ」
すでに外は真っ暗になっていた。しかし、外を見ると、街灯にも電気がついていた。
「布団は押入れの中だから。自由に使ってもらっていいよ。今日は遅いからもう寝てな。明日、他の入居者が案内してくれるよ」
「貴方は?」
「え?俺は明日から食料調達に行かなきゃ行けないんだ」
「そうなんですか」
「まあ、お休み」
「あ、はい」
押入れから布団を出して敷く。外を見ると、パトカーがパトランプを光らせながら走って行った。あまり遅くに外を出歩かない方が良さそうだ。明日は情報を集めて、中村さんとイザベラがどこら辺に居るか調べないと。
布団に入って色々考えている間に気が付くと眠っていた。




