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27話 青年

 ゾンビを轢きながらスロープに向かうと、後ろからも車が着いて来るのが見える。バリケードの壊れたところから屋上駐車場を出て、バックミラーで後ろを見ると小型のタンクローリーから出た火が広範囲に広がっている。もう、あのショッピングモールは終わりだな。


「何か、私達が行った避難所とか壊滅してない?」


 やめろ。イザベラ。うすうす感じていたがそれを言葉にするんじゃない。そのうち死神とか言われそうだな。噛まれてなくても避難所に受け入れ拒否にされるんじゃないか?もう一度、後ろを見るとついてきている車が居る。普通のセダンの車だな。ゾンビを跳ね飛ばしたからかフロント部分がボロボロになっている。……こっちも人のこと言えない状態だけどな。


「後ろの車、パッシングしてきてない?」


 良く見ると、何回もパッシングしてきている。止まれってことか?だが、周辺にはゾンビが多く歩いている。この状況で止まれば囲まれて動けなる。それは向こうも同じはずだ。……もしかして、別の意味が!?


ドゴッ


「きゃっ!何!?」

「どうして!?」


 追突してきやがった!なんでこんなことするんだ!?後ろのセダンがスピードを上げて横に並んできた。運転席を見ると、その顔には見覚えがあった。助手席に乗ってこようとしていた男だ。乗せなかったことを怒っているのか?後部座席にも誰かのって居るようだ。


「もっとスピード出して!」

「思いっきり踏み込んでいるぞ!」


 軽自動車と、普通車じゃ馬力差が有りすぎる。こんなのを振り切るなんて無理な話だ。横を見ると、後部座席の窓が開いている。その窓からは小銃を構えた迷彩服を着た男性がこっちを向いていた。


「一!ブレーキ!」


 イザベラが言い終わる前にブレーキペダルを床まで踏み込んだ。前に進んでいくセダンから銃声とマズルフラッシュが見えた。あのまま並走していれば体中に風穴が開いていただろう。そのまますぐ隣にあった裏路地に入ると、セダンは追ってこなかった。このまま諦めてくれるといいのだが……。


「あの人たち何なの!?」

「見た感じ自衛隊の服と、銃を持ってなかった?」


 裏路地を進むが、ゾンビの数はそこまでだった。これならこのまま軽自動車でもいける。ただ、もう一度追いかけられたら逃げ切れる自身は無いぞ。

 交差点を通り過ぎようとしたときに車の後方に衝撃が走った。車が徐々に横になって行くのがわかる。倒れきる瞬間に目を瞑った。


 体中が痛い。動かない。一体何度こんな目に合えばいいんだ?


「イヤ!離して!」

「何すんのよ!触るな!」

「うるせぇ!黙らないと殺すぞ!」


ガッ


 体を起こそうにも体が言うことを聞いてくれない。


「運転席の男はどうする?」

「放っておけ。このままならゾンビに食われて死ぬだけだ」


 その後に、車の走り去る音が聞こえた。……また、意識が。



 意識が戻ると、目の前にはフロントガラスを破ろうとしているゾンビの姿が見えた。運転席側を下にして横転したのか。後ろには誰もいない。どうやら誰かに連れ去られたようだ。犯人は追いかけてきていたセダンに乗っていた男達だろうな。


ビシッ


 フロントガラスのヒビが大きくなった。早く逃げないとゾンビがフロントガラスを破って襲ってくる。上を見ると、助手席の窓は完全に割れていた。そこから出られそうだ。外に出ると、すでに車の周囲には3体ほどのゾンビが集まっていた。車の上に乗っていればゾンビが這い上がってくることは無いはずだ。ただ、このままここに乗っているわけにも行かない。ゾンビが遠くからだが集まってきている。


「どこかいけよ……」


 そんなことをつぶやいても、ゾンビはこっちに手を伸ばして、あーうー言っているだけだ。そもそも、言葉が通じていれば日本が崩壊することは無かっただろうな。……なにか手持ちの物で使えそうなものは……何も持ってないな。さて、本当にどうしよう。


ドスッ


 フロントガラスに攻撃をしていたゾンビが急に倒れた。ゾンビの死体を見ると、頭に矢が刺さっている。


ドスッ


 車の後部で這い上がろうとしているゾンビの頭に矢が刺さった。周りを見ると、道の真ん中でクロスボウを構えている青年が立っていた。背中には斧が刺さったリュックを持っている。青年はクロスボウを肩にかけると、斧を手にして走ってきた。そのまま、青年は車に這い上がろうとしていた最後のゾンビの頭に斧を突き刺した。青年は斧についた血をゾンビの死体の服でふき取った後、他のゾンビの頭に突き刺さったままの矢を引き抜いて回収している。


「ありがとうございます。助かりました」

「着いて来て下さい」


 着いて行きたいが、連れて行かれた中村さんとイザベラが心配だ。だが、今の状態じゃ助けに行ってもやられるだけだ。大人しくついていく。青年についていくと、周りを塀で囲まれた家に入った。それに続いて入ると、こっちにクロスボウを向けてきた。


「何処か噛まれたりしてませんよね」

「え?あ……あぁ」


 青年はクロスボウを降ろした。


「まぁ、どこも怪我してないようですし大丈夫でしょう」


 そのまま、玄関には向かわずに庭の方へと歩いていった。家の裏へと行くと、2階の窓に縄梯子がかけてあった。あそこから出入りしているんだろう。青年は縄梯子を上って家に入っていった。その後に続いて縄梯子を上って家に入ると、青年のほかに中学生ぐらいの女の子がこっちを見ながら立っていた。


「お兄ちゃん。この人誰?」

「途中で助けた」


 ずっと女子中学生はこっちを睨んでいる。ひとまず自己紹介でもしたほうがいいかな?


「大隅 一と言います」

「俺は高梨たかなし 雄介ゆうすけで、こっちが妹の加奈かなです」

「本当に助かったありがとう。いきなりで悪いんだが、ここら辺で他の生存者がいそうな場所はあるか?」

「……あなたの仲間のことですか?」

「もしかして、見ていたのか?」


 雄介が無言で頷いた。見ていたなら助けて欲しかった。……無理な話か。クロスボウだけで銃火器を持っている男達を相手に


なんて出来るわけ無いな。見た感じ高校生1年生といったところか。


「多分、浜名湖の避難所に連れて行かれましたよ」

「……連れて行かれた場所を知ってるんだな」

「助けるなんて思わない方がいいですよ。相手は自衛隊ですよ」

「自衛隊……?」


 一体どういうことだ?


「……お兄ちゃん。部屋に戻るね」

「あぁ。何か異変があったらすぐに戻って来るんだぞ」


 加奈ちゃんが部屋から出て行った。それを見送った後、雄介がこっちを見てきた。


「実は、俺と加奈は浜名湖から逃げてきたんだ」


 話によると、家族はゾンビに殺されてしまい、どうしようもなくなった2人は浜名湖の避難所に到着した。しばらくの間、衣食住には困らなかったそうだが、あるとき自衛隊をまとめるリーダー的存在が変わってしまい、そこから避難所のシステムは一変してしまった。奴隷制度が設けられ、何も出来ないような人たちは無理やり奴隷にされて避難所の何処かに連れて行かれたり、ゾンビの囮役にされたりと酷い物だったらしい。加奈ちゃんも奴隷として連れて行かれそうになったが、隙を見て雄介が加奈ちゃんを連れ出して逃げることに成功したらしい。それ以来、この家にずっと篭っていたそうだ。


「何とか、加奈は酷いことをされる前に連れ出すことが出来ましたが……えーと」


 何か俺の方を見て困っている。俺の名前でも忘れたのか?


「大隅 一です」

「大隅さんの仲間の人たちは、もう奴隷として捕まっているかもしれません。運がよければ性処理の道具として。運が悪ければ、ゾンビの囮役として、今頃はゾンビに食べられているかもしれませんよ」


 話を聞いた限り、生きているかどうかは五分五分だ。むしろ、のこのこ避難所に言っても、奴隷にされるだけだ。……まてよ。特殊な技能を持っていれば奴隷としては捕まらないかもしれない。


「特殊技能があれば奴隷は回避できるかもしれないんだな」

「え?まぁ、料理が出来たり車の修理、銃火器の扱いとかが出来る人は奴隷にはなってませんからね。後は……金持ちですかね?」


 金持ち?今のご時勢に金なんて意味無いのにな。


「一応、バイクの運転なら普通の人よりは出来る自信はある」

「自信を持つのはいいですが、良い様にコキ使わされる可能性もありますよ」

「捕まったときは捕まったときだ」

「はぁ……そうですか」


 雄介が机の引き出しからA4サイズの紙を取り出して見せてきた。髪には浜名湖周辺の地図が印刷されていた。所々の道にバツ印がついている。


「この周辺の通れない道はバツして有ります。役に立つと思うので持って行って下さい」


 地図を受け取った後、部屋に加奈ちゃんが入ってきた。 

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