2話 生け贄
目が覚めると、豆電球がぶら下がっている薄暗い部屋に、イザベラと背中合わせで縛られている。
「目が覚めた?」
「最高の目覚めだ。まだ体が痺れているけどな」
「何か刃物とか隠し持ってないの?」
「隠し持っていたんだけど、没収されてる」
何時間経ったんだろうか?時計も窓も無いと暇でしょうがない。
「ねぇ。こういうのって、目が覚めたら誰か入ってくるんじゃないの?」
「アニメや、ドラマの見すぎだ」
ガチャッ
ようやく誰か入ってきた。入ってきたのは中年の顎鬚を生やした男と、金髪の青年だ。二人の腰のホルスターには拳銃が入っている。下手に動けば撃たれそうだ。……の前に動けないんだけどね。
「……おい。生贄は女だけだぞ。男は要らないぞ」
「えー。後で処分しますわ」
「頼んだぞ。女の方は祭壇場へ運んで今日中に儀式を行うぞ」
中年の顎鬚男がスタンガンを取り出して俺の首に押し当ててきた。またか。
バチッ
再び目が覚めたら、ベットに両手首と足が拘束されていた。周りの壁や、見える範囲の床は血で染まっている。一体何人の人間をここで殺してきたんだ?
何とかして抜け出せないか試してみると、あっけなく両手の拘束が外れた。次に両足の拘束を外した。これで自由の身だ。ゆっくりと扉を開けて外に出ると鉈を持った血まみれの男が立っていた。
「どこに行くつもりだ?」
「ちょっとイザベラに会いに」
「安心しなパツキンのネーチャンとは天国で会えるからな」
振り下ろされた鉈を避けると、扉に鉈が突き刺さる。
「抜けねぇ!」
今のうちに逃げよう。廊下を走ると、後ろから追いかけてくる。……あいつ、足遅いな。何回か角を曲がると、男の姿は見えなくなっていた。走っている最中に気が付いたことだが、この建物は学校だ。部屋には年組が書いてあるプレートが貼ってある。
外を見ると、薄暗くなっているがグラウンドにゾンビがうろついているのが見える。その真ん中に、朝礼台が置いてある。その上には十字架のオブジェクトが固定されている。
「……誰か貼り付けられてる?」
良くみると十字架に誰か貼り付けられている。……イザベラだ。もしかして、生贄の儀式ってゾンビに誰かを食べさせることなのか!?今のところ、イザベラが静かにしているからゾンビには気づかれてないようだけれども、そのうちバレてゾンビが群がってくる。そうなれば、イザベラはゾンビの仲間入りだ。
「おい!いたぞ!」
廊下の端の方から声が聞こえた。早速見つかったか。一階からグラウンドに出れる場所を探さないと。見た感じ、一階の窓は全て板で塞がれている。しかし、どこかに出入り口があるはずだ。
「待ちやがれ!」
「銃は使うな!音が響いて化け物が寄って来る!」
「他の奴にも知らせろ!」
階段だ。下から声が聞こえてくる。
「この上にいるはずだ!」
階段を金属バットを持った男が上がってきた。そして、目と目が合った。
「いたぞおおお!」
金属バットを振り上げて男が階段を上がってきた。凄い顔してる。
「おりゃ!」
男が金属バットを振り下ろす前に階段から飛んでとび蹴りを喰らわせた。丁度着地地点にはとび蹴りを食らわせた男が倒れていた。
ゴキッ
うわぁ……。すっげぇ嫌な感触と音がした。死んだらごめんよ。でも、先に襲ってきたお前達が悪いんだからな。
階段を降りると正面にグラウンドに出る事の出来そうな扉があった。鍵もかかってないし、ここから出よう。外に出ると完全に日が落ちて真っ暗な中に、松明で囲まれている朝礼台の十字架に貼り付けられているイザベラがいる。ゾンビが松明の光に気がついたのか朝礼台に集まり始めている。
「……武器になりそうなもの」
周りを見渡すと、花壇にシャベルが突き刺さっている。……無いよりはマシか。ゾンビは鈍いし、松明に夢中になっている間に後ろから殴れば大丈夫だろ。
なるべく足音を立てないように、松明の方を向いているゾンビに近づいて殴る!ゾンビが力なく倒れる。今度は別のゾンビに……って、こっち向いてる!
グシャ
反射的にシャベルを振ったときに丁度ゾンビの頭が当たった。だが、今の音で周りのゾンビにも気づかれた。流石に、一体ずつなら対処できるがゾンビの怖いところは、数だ。
パァー
グラウンドの端で車のクラクションが鳴り響くのと同時にヘッドライトが光った。……俺が作った自作装甲車じゃねぇか!
ゾンビが車の方向にゆっくりと進み始めると、自作装甲車もゾンビの群れの中に突っ込んできた。そのままゾンビを数体跳ね飛ばすと、そのまま俺の方まで突っ込んできた。