13話 静かな死
「こんなときに寝れるわけない!」
「まぁ、そうだよね。あんなことあれば、アドレナリンどばどばで目がさえてるよね」
「ゾンビはそこそこ倒したけどもあの感触は二度と忘れられない」
「後ろの2人は大丈夫そう?」
「イザベラはすやすや寝てる。田所さんは……息が荒くて少しやばそうな感じ」
イザベラよりも先に田所さんを何とかして医者にでも見せないと、傷口から感染症にかかって取り返しの付かないこになるかもしれない。イザベラのほうはゾンビに噛まれたことに関しては大丈夫そうだ。
「イザベラさんの存在って世界を変えそうじゃない?」
「急にどうした?厨二病でも発症したか?」
「違う!考えてみてよ、ゾンビに噛まれても大丈夫なんだよ。イザベラさんの血液からワクチンでも作れば」
確かに、中村さんの言うことは合っている。だが、まだ噛まれても大丈夫な証拠がない。これからゾンビ化する可能性も有るからな。いざとなればこの手で……。
「大隅さん。怖い顔してるよ。リラックスリラックス」
「そうだ。リラックスだな」
このまま高速道路を使えることが出来れば浜名湖には日がくれる前にはたどり着けるだろう。浜名湖にはどれくらいの生存者がいるんだろうか?
「どうするの?浜名湖に着いたらイザベラのこと言うの?」
「言わない。もしかしたらゾンビになる可能性もある。……実験体にされる可能性も……な」
「まぁ……いろいろ実験はされるだろうね」
実験されるにしても色々ある。血液検査とか普通の人間がやるような内容ならいいが、それが拷問も混じっているような実験内容だと……。
気が付くと、静岡市に入っていた。浜名湖までもうすぐだ。一度、車を止めて二人の様子でも見るか。
「車を停めてくれ。二人の様子を見る」
「分かった」
中村さんがハザードをつけて車を路肩に寄せる。周囲にゾンビがいないことを確認して、バックドアを開ける。イザベラの腹部の怪我を見ると、肉はすでに再生して傷は昔からあったような感じになっている。田所さんの方は……もう意識がなくなっている。だが、心臓は動いているようだ。これは、浜名湖まで持ちそうにない。
「どう?」
「田所さんはもう駄目かもしれない。かろうじて生きている状態だ」
「……とりあえず連れて行くね」
「……あぁ」
助手席に座ると、中村さんがゆっくりと車を発進させた。
「あ、塞がれてるよ」
目の前では。乗用車が何十台も事故を起こして道を塞いでいた。一つ前のインターまで戻るしかないだろ。
「中央分離帯壊れてない?」
中村さんが指を指す先で、中央分離帯が何かに突っ込まれて車一台分ガードレールがなくなっている。その先には自衛隊の装甲車が横転している。ガードレールを突き破った犯人はこいつか。車の中に武器ないかな?
「ちょっと車を漁る」
「銃が手に入ると良いね。一応、私も援護はするよ」
中村が拳銃を取り出した。それで援護するのか。……前の工場をゾンビに襲撃されたときに拳銃を使っていたな。俺よりは扱いは上手なのか?
「それじゃあ行ってきて。後ろから援護するよ」
「マジで援護しろよ。俺はまだ死にたくない」
ってか、銃を使えばイザベラはこんなことには……いや、弾数が足りないな。とりあえず、装甲車の中を漁ろう。装甲車の周りにはゾンビはいない。後ろの多重事故を起こしている車の中にはゾンビが数体いるようだが気にしなくてもいいだろう。
「こっちは大丈夫だよ」
横転している装甲車に登ってドアを開けると、車内には色々な道具が散乱していた。一体何に使うか分からない道具ばかり散乱している。車内に入ると、熱気がすごい。色々探ってみると特に目ぼしい物は無い。
車外に出ると、ゾンビが一体装甲車の裏に隠れていた。服装を見る限り自衛隊だ。頭にはヘルメットを被っている。持っているバールでは無理だ。
「中村さん!お願いします!」
「分かった!」
パァン
銃弾はヘルメットを貫通した。自衛隊のゾンビはあっけなく地面に倒れた。すかさず死体を漁ると、拳銃と、マガジン、サバイバルナイフを1つずつ手に入れた。中村さんが装甲車の裏でマガジンが無くなっている小銃を見つけた。
「小銃どうする?弾もないし、持っていても邪魔になるだけかもよ?」
「車に乗せとこう。もしかしたら弾が手に入るかもしれない」
後部座席に小銃を中村さんが投げ捨てた。もうちょっと丁寧に扱えよ。暴発でもしたらどうするんだ?
「もうちょっと丁寧に扱えよ。暴発したらどうするんだ?」
「え?マガジンもないし、大丈夫でしょ?あ、サバイバルナイフは大隅さんが持っててよ」
「あぁ」
サバイバルナイフを腰のベルトに刺しておく。貰ってもリーチが短すぎて不安だ。使い道としたら対人用か。
「もう行こうよ。早くしないと日が暮れるよ」
再び車に乗り込んで浜名湖を目指す。高速道路を逆走しているが、高速道路を利用する人なんていない。安心して逆送できる。
「……もう田所さん死んでるよ」
後ろを見て田所さんを見ると、完全に息をしていない。死んだか。イザベラは……普通に寝てるだけだ。
「田所さん捨てる?浜名湖に着いたとしても、供養して貰えるか分からないよ」
確かに。言い方が悪いが、完全に田所さんの死体はお荷物状態だ。
「ちょっと脇に停めてくれ」
「捨てるの?」
「捨てよう。完全に死んでいればゾンビになる心配もないだろう」
路肩に車を停めると、2人で田所さんの遺体を運び出して路肩の斜面に投げ捨てる。本当は埋めてやりたいけども、そんな事をしている余裕はない。
「安らかに眠ってください」
中村さんが横で手を合わせている。一応、俺も手を合わせておくか。すぐに目を開けると、中村さんも目を開けていた。
「車に戻るよ」
「おう」
車の方を見ると、イザベラが起き上がっていた。もうそこまで回復したのか。早すぎだ。
「イザベラさんって人間なの?」
「さぁ?俺も分からなくなってきた」
イザベラはのん気に手を振っている。本当に大丈夫なのか?とりあえず車を発進させる。
「おい。怪我のほうは大丈夫なのか?」
「傷跡が少し残っているけど、大丈夫」
「感染はしてないの?」
「……わかんない。もう少し様子を見ないと」
「イザベラ、回復が早いことは黙ってろ。中村さんもだ」
「どうして?」
「万が一、イザベラが感染していて、そこからワクチンでも作ってみろ。感染が広がるだけだ」
「そっか」
気が付くと、高速道路の案内板に浜松北インターチェンジまで3キロの文字が見えた。




