12話 切断
車内に衝撃が伝わってきた。バスは徐々に傾いていくと完全に横倒しになって止まった。ゆっくり目を開けると、運転席でもがいている田所さんがいた。
「くそっ!足が挟まって動けねぇ!」
「手伝います!」
「車体に足が挟まっているんだ!」
「イザベラは!?」
立ち上がって後ろを見ると、中村さんがイザベラを背負ってバスから脱出しようとしている。
「田所さんを頼んだ!私は外で待ってる!」
田所さんを頼まれたけども、バスの重たい車体を持ち上げるなんて無理だ。……そうだ!外に消防車があった!その中に何かあるはずだ!
「ちょっと待っててください!」
「おい!どこに行く!」
「消防車から何かないか探してきます!」
割れたフロントガラスから外に出ると、無理やり合流してきた大型トラックはいなかった。逃げたな。周囲を見るが、ゾンビの姿は見当たらない。
「どうしたの?」
中村さんが高速道路の路肩でイザベラを寝かしていた。
「消防車に何かないか探す」
「私も手伝う」
消防車の後ろのシャッターを開けると、様々な工具が入っていた。
「これなんてどう?」
中村さんが取り出したのはチェーンソウだ。ただ、使い方が分からない。そんなものを使って田所さんに当てたら……考えたくもない。
「ダメだ。使い方が分からない」
「んじゃ、これ!」
次に取り出したのは、斧?これで車体を切るなんて無理だろ。
「却下」
「これは?」
次は油圧式のカッターだ。これなら素人の俺でも使えそうだ。
「貸してくれ!中村さんは周辺にゾンビが現れたら排除してくれ!」
「分かった!」
割れたフロントガラスから車内に入ると、田所さんがこっちを見てきた。
「早くしてくれ!」
車体にカッターを入れて、いざ使ってみると、簡単に車体を切ることができた。これなら時間はかかるが行けそうだ。
「……なんかガソリンの臭いがしないか?」
「え?」
確かに、少しだけガソリンの臭いがするけども、大丈夫だろ。
「大隅さん!バスからガソリンが漏れてる!あと、ぶつけた車からもガソリンが漏れてる!」
マジか!?早くしないと引火して田所さんが焼け死ぬ!
「……もう俺の事は良い。早く逃げろ。ガソリンに引火すれば君も死ぬぞ」
……ここは田所さんに甘えて逃げたいけれども、ここで逃げれば後で心に罪悪感が残るだろうな。なんとかして、助け出す方法は……斧だ!斧で足を切断すれば!
バスから出ると、消防車近くに置いた斧を持つ。
「どうする気!?」
「これで田所さんの足を切断する」
「本気で行ってるの!?」
バスの後方から火が出た。このままだと、乗用車の方にも引火して田所さんを助けれなくなる。もう、迷っていても、しょうがない。
「おい!その斧は何だ!?」
「今から足を切断します。我慢してください」
「大隅さん!これ!切断する上らへんにきつく縛って血を止めて!」
中村さんからロープを受け取ると、田所さんの右太ももにきつく縛り付ける。田所さんが痛がっているがそんなのは気にしていられない。
「行きますよ!」
「待て!」
田所さんがシャツを脱いで口に咥えた。
「来い!」
斧をロープを縛り付けたところに向けて振り下ろすと、何か硬い物に当たって止まった。……骨だ。
「う゛ーーっ!」
田所さんが人間とは思えない唸り声を上げている。痛いだろうけど我慢してくれ。俺ももう一回で終わらせるつもりで斧を下ろさないと苦しいのは田所さんだ。
「うおおおおお!」
もう一回勢い良く振り下ろすと、地面まで斧が刺さった。田所さんは完全に白目を向いて気絶しかかっている。とりあえず運び出さないと。
バスから引きずり出すと、すぐにバスは炎に包まれた。あと少し遅ければ巻き込まれて死んでいた。危機一髪だな。
「動かさないで!」
中村さんが駆け寄ってくると、足の切断面にタオルを巻いた。巻いたタオルがすぐに真っ赤に染まる。
「動かせそうな車は私が見つけたからそれに二人を乗せるよ!」
中村さんが指を指す先には一台のワンボックスカーがエンジンをかけた状態で止まっていた。そのワンボックスカーの荷台に二人を寝かせる。
「私が運転する」
「……任せた」
助手席に座ると、運転席に中村さんが座ってシートベルトを締めている。俺も、シートベルトしないと。
「よくこの車の鍵見つけれたな」
「近くにいたゾンビを倒したらポケットに鍵が入っていたよ」
思っていたよりもやる時はやる女だ。
「このままノンストップで行くから寝ててもいいよ。あ、高速降りるときには起こすからね。下道はゾンビがいっぱいだからね」
「その言葉に甘えさせてもらうよ」
座席を少し倒して目を閉じるとすんなりと……寝れない。