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11話 無茶

「どこで落としたんだ!」

「多分、さっき乗り込んだ車の中……」

「鍵なしでエンジンかけてたでしょ!それをやって!」

「それは無理。このバス最新式で、イモビライザーが付いてて無理なんだよ」


 ゾンビの集団が10メートル程まで来ている。今からSUVに取りに戻っても、あの数には勝てない。


「……ちょっと行ってくる!」

「は?え!?」


 イザベラがバスの扉を開けてSUVの方へと走り出した。しかも、金属バット一本で。


「ねぇ!止めなくて大丈夫なの!?」

「おい!大隅!行くぞ!」


 田所さんがバールを持って立っている。といっても……あの数……確実に無理だろ。イザベラは自分の回復能力を信じて突っ込んで行ったんだろうけど……。


「……私は留守番してる」

「……田所さん!行きましょう!」


 こうなればヤケクソだ!二人でバスから降りると、すでにイザベラがゾンビの頭を叩き割っていた。


「どうしてついてきたの!?」

「馬鹿!前!」

「えっ……いった!」


 ゾンビがイザベラの腕に喰らいついた。


「このっ!」


 イザベラがゾンビを引き剥がしたときに腕の肉も持っていかれている。……無茶しすぎだろ。


「大隅!よそ見するな!死ぬぞ!」


 田所さんも俺よりかなり歳が離れているはずなのに、よくやるな。


「おりゃっ!」


 目の前に迫っていたゾンビの頭めがけてバールを振ると、釘抜きが頭に突き刺さる。すぐに引き抜くとすぐ近くに来ているゾンビに向けてバールを振る。


ゴキャッ


 鈍い音がした後、ゾンビが力なく倒れる。田所さんの方を見ると5体ほど倒したようだ。イザベラは……ほとんどのゾンビを倒したのか。数体、こっちに気が付いてない奴を除いたら20体は倒してるぞ。だが、怪我のほうも酷い。右腕、わき腹は肉を食い千切られて、足にも噛み跡が数箇所ある。


「俺が車から鍵を取ってくる!その間に、バスにイザベラさんを運んどけ!」


 田所さんに言われたとおり、イザベラに肩を貸してバスに向かうが、出血の量がおかしい。ボタボタと、血が地面に落ちている。普通の人間なら意識が無くなっているレベルだ。


「おい。大丈夫か?」

「……見て分かるでしょ。大丈夫じゃない」


 ……確かにその通りです。


 バスに運ぶと、一番後ろの座席で横にさせる。


「本当に大丈夫なの!?」

「分からない。とにかく消毒できそうな物がないか探してくれ」

「わ、分かった!」

「鍵が有った!すぐに出すぞ!」


 田所さんがバスのエンジンをかけて出発する。以前イザベラは、瀕死状態だ。


「早く治療しないとマズイんじゃない?」

「見れば分かる!」


 普通なら救急車を呼ぶレベルだ。……いや、普通なら死んでいてもおかしくないほど噛まれている。色々噛まれた人は見てきたつもりだが、腕を噛まれただけで30分後には死んで5分後にはゾンビになっているはずだ。


「あの……イザベラさんに助けてもらったので、悪いのですが……降ろしませんか?」

「……まぁ、それが妥当だよね。大隅さんも辛いかも知れないけど」


 勝手に話が進んでいる。でも、しょうがない事でもある。俺とイザベラも向こう側の人間になったことがあるからな。


「……分かりました。イザベラがゾンビになったときは俺の手で確実に殺します」

「……そうは言ってもね……1人のわがままで2人の人が死んでたら」

「良いんじゃない?それに、イザベラさんには私達助けてもらっているんだし」

「……」


 田所さんからは良い返事を貰えてないが、一応イザベラをバスから降ろす事はないようだ。だが、田所さんが瀕死状態のイザベラを襲わないとは限らない。動向を見張っておこう。

 バスは、清水ジャンクションで新東名高速道路に向かった。


「あれ?このまま行かないんですか?」

「新東名のほうが山の中を通るからゾンビや車両の数も少ないはず」


 田所さんもちゃんと考えてルートを決めているんだな。


「このまま順調に進めば1時間30分ほどで浜名湖の避難所にたどり着く」

「急になんです?」

「イザベラさん、このままだと受け入れてもらえない。ほとんどの場所じゃ、噛まれた跡、もっと身体検査が厳しいところだと切り傷でも追い返されるぞ」

「どこかに篭れそうな場所ないですか?そこで俺はイザベラが回復するまで待ちます」

「……とりあえず浜名湖周辺まで行く。その後は自分で篭れそうな場所を見つけてくれ。今、高速道路を降りてもゾンビに襲われるだけだ」

「……そうですね」


 もしかしたら、浜名湖に着くまでに回復するかもしれない。

バスは気が付くと、静岡サービスエリアを通り過ぎた。結構な速度を出しているようだ。ちょっと運転の様子を見てみよう。


「田所さん、大丈夫ですか?」

「大隅か。道が空いていて運転しやすいから大丈夫だ」


 田所さんの言う通り、放置車両や、ゾンビが少ない。バスの速度計を見ると、120キロを指していた。ちょっと飛ばしすぎじゃないか?この状態で急ハンドルを切るような状況がくれば横転するぞ。


「イザベラさんの面倒は見なくていいのか?」

「中村さんが見てくれているので大丈夫です。……とは言っても、ただ見てるだけなんですけどね」

「それにしても、あんなにゾンビに噛まれたのに死んでいないのが未だに信じられない」

「申し訳ないんですが、そのことについては浜名湖に行っても秘密でお願いします。万が一実験材料にでもされたら……」

「安心しろ。流石にそれはしない」


 自衛隊とかが実験するとは思えないけれども、異能を持っている人を良く思わない人だっているからな。隠しておいて悪いことはないだろ。


「あ、結構先に消防車が止まってますね」


 ジャンクションの路肩に消防車が1台停車している。その先には横転した乗用車が追い越し車線に止まっている。状況から見ると横転した車から人を助け出しているときに襲われて逃げたんだろう。

 消防車の横を通り過ぎるときに大型トラックが1台合流してきた。


「田所さん!」

「マジか!?」


 大型トラックはこっちに気が付いていないのか本線に合流してきた。田所さんが避けようとすると今度は目の前に横転した乗用車が迫ってきた。

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