10話 自販機荒らし
「高速道路に向かうには市街地を抜けないと」
「他に道はないのか?」
「大丈夫。私、一週間前は富士市の市街地に隠れ住んでたんだけど、言うほどいなかったよ」
「信じて良いんだな?」
今はガソリンも無駄遣いは出来ない。中村さんの言うことを信じて突き進むしかない。
富士市の市街地周辺に入ると、ゾンビは増えてきたが突破できないことはない。事故車両も、道が広いおかげで避けて進むことが出来る。変に戻って、狭い道で事故車両でふさがれてゾンビが群がってくるよりマシか。
「そう言えば、銃砲店に行きたいって言ってなかった?」
「この車じゃ無理だろ」
「そんな事考えていたのですか?……やめといて正解かもしれませんよ」
「どうして?」
「実は、私は銃砲店の近くで喫茶店をやっていたんですが、一ヶ月前のあの日に近くを通ったら暴徒と化した人たちが銃砲店を襲っていたんですよ」
「その後、どうなったんですか?」
「さぁ?逃げるのに必死で、それ以上は……」
まぁ。しょうがない事か。店主の人が生きていれば良いんだけど。
「次の交差点を左で」
「はい」
交差点を曲がると、遠くの方で事故車両で道がふさがれているのが見える。この道はダメだ。横のわき道に入ろうにも、このデカイ図体じゃ無理だ。バックして戻ろう。
「どうする?後ろ見とく?」
「お願いします」
後ろの窓をイザベラが覗いて誘導してくれている。
「オーライオーライ」
バキャッベキベキ
おい。ゾンビがいてもオーライかよ。パンクしたらどうするんだ。
交差点までバックした頃に、交差点の角にある店からゾンビが数体出てきた。どのゾンビも、こっちに向かってきている。
「2人は東京から逃げてきたんですよね。私が知っている中では環状七号線が封鎖されて突破しようとした人が次々と射殺されたとか、特殊なゾンビがいたとか言う噂を聞いた事があるんですが」
「それは、本当よ」
「え?私も、聞いた事有るけど本当だったの?」
「思い出したくもない。まぁ、この話を聞きたかったら、浜名湖についてから話しますよ」
「是非、聞かせて欲しいな」
「私も聞きたい」
イザベラはちょっと嫌そうな顔をしているが、話しても減るもんじゃないだろ。ましてや、このことをより多くの人に伝えて行きたい位だ。どうして、警察官や自衛隊はあんな行動に出たんだろうか?感染を食い止めるならもっと別の方法が……だめだ。核兵器を落とすくらいしか思い浮かばない。
「あと、浜名湖までどれくらいあるの?」
「140キロくらいかな?」
「え~遠い」
「運転するのは俺だけどな」
「大丈夫ですよ。私も代わりますよ」
「そうですね。高速道路に入ったらお願いします」
とか、話をしていたら高速道路のインターチェンジにたどり着いた。料金所に大型トラックと乗用車が突っ込んでいて、レーンを2つくらい潰している。
「代わりますか?」
「もうちょい先の高速道路上で代わりましょう。ここだと……」
田所さんは気が付いていないと思うけど、料金所内にゾンビがいるんだよな。料金所の事務所からもゾンビが来てるんだよ。
「あ、ゾンビが来てるのか。すまなかったね」
「高速道路の本線ならゾンビの数は少ないと思うので、そこで代わりましょう」
本線に合流すると、思っていた通りゾンビの数は少なかった。代わりに事故車両は多かった。適当な場所に停めて運転を代わってもらおう。
「代わってもらえますか?」
「え?あ、いいですよ」
運転を代わってもらって、真ん中のあたりの座席に座る。隣にイザベラが座ってくる。イザベラの腹部は真っ赤になっている。本当に大丈夫なのか?
「おい、腹……」
「もう大丈夫だよ。ほら」
イザベラが服をめくって腹部を見せてきた。その腹部は傷1つ無い綺麗な腹部だ。
「そうそう。あの時、イザベラさん撃たれていたよね?」
「……うん。撃たれた」
「撃たれたって……まさか治ったって言うのか?」
「そうだよ。いろいろ説明すると長くなるから簡単に説明すると、世の中には治癒力が高い人がたまにいるの。それの治癒力が以上に高いのが私達の血筋なの」
なんだそりゃ、確かに俺の知り合いに一般の人なら2日くらいで完治する怪我を1日で治す奴がいたな。だが、イザベラは早すぎだ。あれは致命傷レベルだ。
「なにその、ファンタジーみたいな設定……」
「一応、証拠見せるね」
イザベラがポケットからカッターナイフを取り出した。一体いつ手に入れたんだよ。カッターの刃を出すと、腕を少し切った。
「いっ!」
イザベラが痛みで顔を歪ませたが、傷口がすぐに治った。思っていたよりも傷の直りが早い。腕とかが切り落とされても昔やっていたアニメのように生えてくるのか?……こんな考えはやめよう。怪我をしないのが一番だ。
「本当に治った……」
「お取り込み中のところ申し訳ないが、サービスエリアが近づいてきました。寄りますか?」
イゼベラの事に関しては安全なところで考えたり、調べたりしよう。今は生き残ることが大切だ。サービスエリアか……施設の中に入れば食料は手に入るだろうけど、ゾンビが多いんだよな。外の自販機ならゾンビが来ても敷地が広い分逃げることも可能だろう。
「ゾンビが少ないようなら自販機を壊して飲み物を確保しましょう。多いならスルーで」
「分かりました」
サービスエリアに入ると、広い駐車場の真ん中に黒焦げになった車が数台と、端の方に車が数台止まっているだけだ。ゾンビの数も数体程度だ。
「倒す?」
イザベラがバットを持っているが、いくら怪我の治りが早いからって行っても噛まれても大丈夫なのか?
「倒すけども……噛まれても大丈夫か?」
「……噛まれたことないから分からない」
……とりあえず全員で手分けして倒そう。
二人一組になってゾンビを1体ずつ倒していく。何度も思うことだが、1体ずつならどうってことはないが2体、3体と増えるとどうしようもなくなる。
「ひとまず片付いた」
「サービスエリアの中は……」
サービスエリアの中を見ると、かなりの数のゾンビが彷徨っている。出入り口を見ると、建物の中からバリケードが作られている。逃げ込んだ人の中に感染者がいたんだろうな。
「バールじゃ開けるの大変だよ」
「車にロープを結んで引っ張りましょう」
「野蛮なこと考えますね、田所さん」
「まぁ、昔はやんちゃしてたからな」
そういいながら、近くの古めのSUVのガラスを叩き割って乗り込んだ。その後、ゴソゴソしてるかと思ったらエンジンがかかった。……一般人がそんな技術持ってるのか?
「荷台に牽引ロープがあったからそれを自販機に引っ掛けてくれ」
イザベラがバールでこじ開けようとして壊した場所にフックを引っ掛ける。
「離れろよー」
田所さんが車を急加速させると、自販機の外扉が吹っ飛んだ。
「さぁ!持てるだけ飲み物を持ってバスに戻るよ」
それぞれジュースを抱えてバスに乗ると、建物の方からガラスの割れる音がした。音のしたほうを見ると、レストランの大きい窓をゾンビが破って出てきている。それも数体どころの話ではない。軽く30体はいるだろ。流石にあの数に囲まれれば、このバスでも突破できないだろうな。
「はやくエンジンをかけてください!」
「……鍵落としたみたい」
このおっさん……なんてことしてくれたんだ。




