第五話
放課後一時間位先輩と話していたが、入部希望者は来なかったので練習に向かうことになった。一応部室の扉には入部希望者用の張り紙があるが、この時間になって来る事はほぼないと思う。
先輩に付いて行った練習場所は部室棟の裏にあった。
「ここがうちの練習場所」
先輩にそう言われたが、正直に言ってここが練習場所とは思えなかった。弓道を知らない俺としては、何と言うか、道場があったり、的があったりするものだと思っていたのだが、そこにあったのは部室棟の壁に立てかけられた畳が幾つかで、そのうちの一つには部活紹介の時に見た俵のようなものがあるだけだったからだ。
「ここ…ですか?」
「そうよ。部室から近くていいでしょ?」
「確かに近いですね」
結構な敷地面積を持つ北高であるが、校内での距離にたいした重要性があるとは思わなかったが、とりあえず肯定する。
「ここで、弓道の練習をするんですか?」
「ん、何となく言いたいことは分かるけど、校内で練習するのはここだよ」
先輩が苦笑しながら答えた。
「流石に校内に弓道場があるような高校はここら辺じゃ大手門高校だけかな。よくてちっちゃい的場がある程度、ほとんどはこんな感じ」
大手門高校は県内でも有数の強豪高で、部員もかなり多く市内の高校の弓道人口の6割を占めているらしい。その規模までいかないと学校に道場がないのか…。
「そこまで弓道が盛んな地域じゃないから、ね」
確かにうちは同好会であるし、校内に立派な道場がなくてもおかしくないのかもしれない。弓道場は造りとして完全に専用で、他の部活が使えるような汎用性はないと説明を受けたから納得はできる。
「大丈夫。放課後はここで練習するけど、週末は市営の道場を借りて練習するから、多分小笠原君が想像しているような練習風景になると思うよ?」
平日はここで基礎をやって、週末に道場で的を使った練習をするらしい。
「じゃあ練習を始めるね。小笠原君は初めてだから、まずは私がやるのを見ていて」
「はい」
三本指の手袋?みたいな物を右手に付けた先輩が左手に弓、右手に矢を持って俵みたいな物の1メートルほど前に立つ。足を広げて弓に矢を番える。右手が弦に添えられ、すーっと弓を上げる。そこでクっと左手が俵の方に伸び、またすーっと弓が下ろされながら引かれていく。完全に引ききったのか顔の位置で止まってそのまましばらく停止、そしてヒュンッと言う音を残して矢が俵に刺さった。矢を放ったまましばらく動かなかった先輩が弓を腰の位置の戻して足を閉じる。
「まだ何も分からないだろうけど、とりあえずこんな感じ」
「……」
まだ弓を引いている所を見るのもこれが二回目で、先輩がどれくらいの実力なのかも分からない。今の経験者から見たらどういう評価になるのかは知らないが、ただただ…圧倒された。弓を引く先輩と引かれた弓自体、矢が放たれたときの音、放った後の先輩、全てに目と心を奪われた。心の底から美しいと思った。
「何と言うか、感動しました。本当に」
「ははっ、何だか恥ずかしいな」
「いや、物凄くやる気が出てきました。俺もそんな風にしてみたいって」
「これだけでそう思ってくれたんだったら、小笠原君に弓道が凄く合ってたって事かな」
「そうですね。これだっ!って感じました」
成り行きとなんとなくで始めることにした弓道だったけど、これでよかったと思えた。まだ何もやっていない段階で何を言っているのかと思われるかもしれないが、何かを好きになる、本気になる瞬間ってのは理屈とか理由は無いものだと思う。心がそう感じたのならばそうなんだ。
「じゃあまずは基礎からだね。射法八節って言うのがあってね、説明しながらやるから、私と同じように動いてみて」
「はい!」
「じゃあ始めるね」
「え、あの」
「ん?どうしたの?」
「弓とか持たなくていいんですか?」
「あー、実際に弓を持つのはまだまだ先かな。基本の型を覚えて、そこから段階を経てからね。いきなりやったら怪我しちゃうよ」
「…まあ、そうですよね」
普通に考えれば何を始めるにせよ最初はそんなものだと考えるまでも無く分かるはずなのだが、気持ちが高ぶっていた為にすぐに弓を引いてみたくて、しょんぼりしてしまった。
100PV越えていてびっくりしました。正直存在に気づいてももらえないと思っていたので、読んで下さる人が居る事に驚きました。心からの感謝を。
これから弓道を始めていくわけですが、自身の表現力不足を痛感して絶望しています…
「こまけーこたぁいいんだよ!」と言った感じで読んでいただければw




