第四話
部活紹介が終わった以降は中庭での勧誘も禁止になり後は新入生の自主的な入部に任されるようになった。
二年以上の先輩が一人しか居ない以上先輩が部室に居ないと対応が出来ない為、放課後になると俺は部室に向かい一時間位先輩と話しながら待機し、その後練習を始めると言うことになった。
「そういえば小笠原君は中学はどこだったの?」
「二中ですね」
「えっ!二中?」
先輩が驚くのも仕方が無い。通っていた市立第二中学校は北高から遠い。家から北高まで自転車で40分位ではあるが、これは二中の学区の中では近い方なのだ。私立以外ではもっと近くに北高と同じくらいのレベルの西高、下の山城高があり、北高よりももうちょっと遠くにいけば国立付属がある。その為に二中から北高に来るのは非常に珍しいのだ。実際同学年には一桁位しか居なかったはずだ。
「実は私も二中なの」
「え?そうなんですか?二中から北高ってかなり少ないのに凄い偶然ですね」
「本当にそうね。私の場合公立で弓道部があって一番近いのが北高だったからなんだけど、小笠原君はどうして?」
凄いな。先輩は弓道がやりたくて高校を選んだのか。しかし自分はというと…あまり話したい内容ではない。
「まあ、その。ちょっと人間関係がアレでして。知り合いの少ない北高に来たんですよ」
「そうなの…あ、そういえば中学で部活はやってなかったの?」
流してもらったのはありがたいけど、ソレも微妙な話ではある。ただこっちはネタにして行こうと決めていた話だ。
「野球部でした」
「へえ、どこ守っていたの?」
「セカンドでした」
「うちに入ったけど高校では野球やる気はなかったの?
「それがですね…」
二中野球部は言ってしまえば弱小だった。万年一回戦敗退で練習もそこまで厳しくなかった。部の雰囲気も頑張って勝とう!とはなっておらず、サボリも多く監督も毎日練習には来なかった。ただ試合前になると監督とサボっていた面子も練習に来るようになる、そんな所だった。
俺は格別上手いわけではなく、しかし毎日練習には出ていた。野球は好きだったし、上手くないなりに楽しんでいた。
ただ、結局三年間で一回も試合に出してはもらえなかった。同じセカンドだったやつが俺より上手かったかと言えば、ドッコイドッコイだったはずだ。三年最後の試合ともなるとスタメン以外でも最後の機会だからと試合の趨勢が決まった後は記念出場とばかりに皆試合に出た。しかし俺は出してもらえなかった。
後日たまたまトイレで出会った監督になぜ自分は試合に出してもらえなかったのかを聞いた。
「え、小笠原試合に出していただろ?」
この瞬間高校でも野球をやると言う選択肢は無くなった。野球が嫌いになったわけではないし、監督を恨んだわけでもない。ただなんと言うか、心が折れたのだ。
「それは酷くて残念な話ね…」
先輩は非常に気まずそうな顔をしている。
「いや、このことに関しては今後なかなかない話として自分のネタにして行くつもりなんで気にしないでください。中途半端な武勇伝よりよっぽどいいと思っているんですから。それに野球をやらないつもりだったからここにいるわけですし」
「そうね、確かに野球を続けていたら小笠原君がうちに入っていないから私は困っちゃうわ」
「でしょ。これは笑い話なんですよ」
「そっか」
「先輩はそんなに弓道がやりたかったんですか?」
「そうなの!中学は陸上部だったんだけど、ほら、市営の運動公園あるじゃない?あそこの陸上競技場で大会があるんだけど、あそこには弓道場もあるの。アップで敷地内を走っていたらたまたま見つけて、そこで初めて弓道を見たのよ」
運動公園に陸上競技場や野球場、テニス場など一通りの施設があるのは知っていたが、弓道場まであるのは知らなかった。
「最初は袴姿と弓矢がカッコイイなーって感じだったんだけど、実際に弓を引いている所を見たらね、何て言うか、こう、感動したのよ。物凄く美しいって」
弓道の話をする時、先輩はキラキラした瞳で語る。どれだけ好きかそれだけで伝わって来るほどだ。
「それをみて、私もやりたい!って、そう思ったの。あまりにも弓道に心を奪われてその日の試合は散々だったけどね」
笑いながら話す様子から、これは先輩の鉄板ネタなのであろう。
「実際にやってみてどうなんですか?」
「最高よ!」
先輩のとびっきりの笑顔を見ると、弓道への期待が膨らんだような気がした。




