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新世界で  作者: 前田浩二
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第十話

「そう、ここに意識を持っていって、そのまま」

 先輩に紹介してもらって平日の夜に市弓連の練習で菊池先生の指導を受けるようになった。身長は低く失礼かもしれないが可愛らしい感じの50代位の先生だった。指導はどうかと言うと、自分でも驚く程に伸びていると思う。

「いい感じですね。この時期の一年生とは思えない位に綺麗な射をしています。藤原さんの指導が良かったんでしょうね」

「いえ、小笠原君が熱心に練習してますから。それに先生が練習を見てくださるようになって一気に良くなりましたし」

 実際に先輩が作ってくれた基礎が先生の指導を受けて一気に進化した感じだ。練習中や帰り道に先輩から聞いていた知識が、先生の指導を受けて本当の意味で理解して身になったものが多い。まだ一年しか弓道をやっていないのに先輩は教えるのが充分上手いと思うが、弓道暦、指導暦共に年季の入った先生は流石に格が違う。

「藤原さんも綺麗な射をしていますね。人数は心配ですが、二人が居るなら安心できます」

 自分が転勤になって指導者が居なくなってから更に先輩以外の部員がいなくなって心配していたらしい。確かに普通に考えて絶望的な状況ではある。

「後はしっかり練習するだけですね。この時期はとにかく引いた数が大きいですから。ただ数をこなそうと思って雑な射をしては駄目ですからね」

「はい。ありがとうございます」

 

 もう試合は今週末で、先生の指導を受けるのは今回が最後だ。道場で練習できるのは土曜日の一回だけだ。

「何度も言うけど、先生の射をしっかり見ていてね。私にとってはあれが理想の射だから」

 先輩からは先生が引いているときはとにかくよく見て脳裏に焼き付けろと言われている。実際に先生の射を見てからは、自分も感動してずっと食い入るように見ていた。先輩の射も綺麗だが、先生は正にその先にある射だった。

 

「こんばんはー。お、藤原ちゃんじゃない。久しぶり」

「高山さん。こんばんは」

「いやー、相変わらず可愛いねえ。今度おじさんとご飯食べに行こうか?」

 言ってるセリフはアレだが、あまり厭らしさは感じないフレンドリーな雰囲気の坊主頭がやたらと堂に入った中年のおじさんが来た。市弓連の会員で先輩とも知り合いみたいだ。

「もう、奥さんもこどももいるのにそういう冗談はやめといたほうがいいですよ」

「あなたが女子高生と食事に行ったらそれだけで、そのまま夜は留置場に泊まることになりそうですね」

「おっと、菊池先生もいたのか、こりゃ失敗した。しかしまあ、藤原ちゃんが可愛いのは事実だからなあ」

 高山さんは笑っているが、二人は苦笑いだ。

「全く、娘の前で何言ってるのよ。ホントにこの馬鹿親父は…」

 娘さんも一緒に来ていたらしい。身長は結構高くて170はあるんじゃないだろうか?スレンダーな体型の正に大和撫子といった美人さんだった。

「初めまして。娘の琴乃と言います。大手門高校の一年生です」

 そのまま自己紹介する流れになったが、琴乃さんは大手門の弓道部だが、今日は学校で満足出来るだけ引けなかったので、試合も近いのでお父さんに市弓連の練習に連れてきてもらったらしい。

「小笠原君も一年か。もうちょっとしたら同じ一年の男子部員が来るわよ」

「へえ、大手門の同学年か。それは気になるな」

 週末の練習で他校の人と一緒だが、大手門の人はまだ見たことが無かった。レベルも市内では圧倒的に違うと言われているし、同学年がどんなものか非常に興味がある。

「うちの一年男子の中じゃ一番上手いの。多分次の試合では小笠原君の一番のライバルかな」

 それは益々きになるな。


 そのまま練習を続けている時に琴乃さん(父親もいて高山さんじゃあ分かりにくいのでこう呼ぶ事になった)の射を見たが、正直びびった。先輩並みに綺麗な射をして、的中率も凄かった。

「琴乃さんすごくいい射をするわね。多分高山さんに教えてもらっていて、弓道は高校からじゃないと思うわ。大手門の二年以上に混ざっても遜色なさそう」

「流石にそうじゃないと自信なくなりそうですよ。あれは」

「まあ男女で違うし、試合では関係ないから」

 先輩は微妙なフォローをしてくれたが、同学年にあんな射をされるとへこんでしまう。

「はいはい、人の射を見て勉強するのはいいけど、余計なことを考えない。そんあ暇があったら練習練習」

 そうだ、菊池先生に指導してもらえるのは最後なんだし、自分は自分で練習しょう。


「こんばんは」

 それから30分ほどしてから、彼は来た。

「初めまして。大手門高校一年の山根祥吾と言います」 

身長は同じ位だから175と言う所か、短髪のさわやかな好青年と言った感じだ。

「あ、山根君。ちょうど北高の二年の藤原先輩と同級生の男子だ居るわよ」

「え、あの藤原先輩と同級生?ラッキーじゃん!」

 また自己紹介の流れになったが、「あの藤原先輩」と言うのは、大手門の先輩達が市内の他校で一番手ごわい相手として話していたらしい。その話を聞いている時は先輩めっちゃ恥ずかしそうにしていた。


 山根君は弓道は高校から始めたらしいが、流石に市内トップの大手門の一年男子で一番と言うだけあって、相当上手かった。先生はこの時期の一年生での上手い下手なんて気にする物では無いと言っていたが、やっぱり同級生は気にしてしまう。

 それでもとにかく練習あるのみなので、より気合を入れて練習に励んでいった。


「小笠原君、弓道は高校からって聞いたけどかなり綺麗な射をするわね」

「ああ、本当に。うちの一年じゃあ高山さん以外にあれだけ綺麗に引けるやついないんじゃないか?」

「小笠原君に言ったのとは逆になるけど、彼が次の試合のあなたの最大のライバルになりそうね」

「これは、燃えてきたなあ!」


 菊池先生の指導を受け、新たな刺激を受け、遂に試合に臨む。




かなり遅くなってモウシワケアリマセン。

おそらく次で終わるかと。

引越しが決まりましてごたごたしそうですが、引っ越す前には上げたいと思っています。

番外編を一話予定していますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。

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