第一話
人生には幾つか区切りと言うか、転換期みたいな物がある。今までのしがらみを捨てて新たな自分を創り上げる。
四月一日。俺の名前は小笠原誠也。今日から高校生だ。
まだ少し肌寒い時期ではあるが、今日から通う城北高校は山の上にある為に、坂道を全力で自転車を立ちこぎしていればむしろ暑い。夏が来るのが憂鬱になるが、高校生の夏、きっとすばらしい物になるはずだと希望を抱いておこう。高校生活初日の通学でマイナス思考になる事はない。
学校の敷地は結構広く、門をくぐった後に1キロ位坂道を登らなければならない。道の両脇には桜が植えてあって体はしんどいが、これだけ見事な桜並木に囲まれていれば気分は高揚してくる。自転車から降りることは無く一気に駆け上った。
予想通り入学式そのものは退屈だったが、これから一年通う教室に着いたときには緊張と期待が胸を覆った。同じ中学の人間はいないので最初をミスると高校生活が詰んでしまう。HRが終わった後周りのクラスメイトにできるだけ気さくな感じを出しながら話しかけていった。
とりあえずは好感触を感じながら初日を終え、校舎を出ると…壮絶なマンハントが行われていた。
「お、君、そうそう、君だよ。高校生と言ったらやっぱり野球!高校球児は鉄板!男なら野球だろ?野球好きだろ?言わなくたって分かるって。その顔はどう考えても野球好きの顔だ!さあ、とりあえず部室にれんk…麦茶でも飲みながら部室でお話しようか?」
「いいな、貴様はガッツがありそうだ。分かってる。ラグビーだろ?ラグビーなんだろ?そうなんだろ!!?」
「大丈夫!今時ヲタクなんて隠さなくたっていいんだよ。オープンにいこう。うちの漫研はきっと君の欲求を満たすさ!」
「ハーイ!新入生?あ、キミいい声してるね。お姉さんもっとその声聞きたいな。ちょっとあっちでお話しない?」
「おい佐々木!そいつは俺の中学の後輩だ。もう我等がバードウォッチング同好会で売約済みだ。横取りするなよ!」
校舎から出てきた新入生がどんどん上級生に拉致されている。控えめに言っても連行だ。明らかに本人の意思とか興味があるかないかとか関係なくとりあえず連れて行かれている。しかしHRが終わって大量の新入生を吐き出す下駄箱の前に設定された中庭には次々と新入生が供給されていく。入れ食いなんて生易しい、今時鰯だってこんなに取れないんじゃないか?校舎に掲げられた校旗が大漁旗に見えてきた。
「すげえな。北高の新歓は相当やばいって聞いてたけど、実際凄いな。見ている分には楽しいな。あくまで見てるだけなら」
「…ホント、そうだね」
隣の席だった田中君とここまで来たが、思わず足が止まってしまった。
「あ、俺はもう部活決まってるし、ちょっとのぞいてくるわ」
「へえ、どこはいるの?」
「稲作研究会。家が農家なんだわ」
「え?そんなのあるの?」
「北高は正式な部以外に大量の同好会があるみたいだよ。俺も中学のときの先輩に誘われてびっくりしたよ」
「まあ、なんて言うか、凄いね…」
「お米大好きだし、聞いた時はえ?ってなったけど、普通じゃない高校生活も面白そうかなって。それじゃ行ってくるわ。また明日!」
「ああ、バイバイ。また明日」
そう言って田中君は戦場に向かって行った。どこかに拉致られるんじゃないかと心配して見ていたら、俺は気づいてしまった。捕捉されてもおそらく具体的にどこそこに入るといえばその場を回避できる事に。田中君は何度も捕捉されたがその都度いやー実は…みたいな感じで話して戦場を離脱したのだ。
これだ。何か部活はしようと思ってはいるが、特にまだ決めてはいない。しかしあそこで連れて行かれた所に、と言う訳にもいかない。初日だから特に激しいだろうし、とりあえず今日は帰って後日じっくりと決めよう。
そう決心し、深呼吸を一つして俺は戦場へ向かった。
どんどん押し寄せてくる先輩達を、もう決まってるからと申し訳なさそうにしながら回避し、なんとか戦場を脱出できるそう思った時だった。
「へえ、どこに入るの?人が多くて分からないだろ?知り合いのところなら連れてってあげるよ」
マズイ、実際は決まっていないし、適当に名前を出せは熱烈な歓迎を受けそのままサインまでいくコースだ。どうしようと焦っていると、こっちに向かってくる女の子が見えた。これだ。
「あ、あそこです。あの人中学の先輩で、前から誘われてたんですよ」
「ふーん。まあ、気が向いたらうちもよろしくね」
具体的に示すと諦めてくれて、その先輩はまた戦場に戻っていった。危ないところだった。もうちょっと考えておくべきだった。と安心したのだが。
「見てた感じだとウチに入ってくれるの?良かった!用事があって出遅れたからいいポジションは他の所にとられちゃってるし、どうしようかと思ってたんだ」
逃げる口実に使った女の先輩に捕まってしまった。やり取りを見ていたのか、完全に入部希望者だと思われている。
袴姿からおそらく武道系だろう。長い黒髪をポニーテールにしている。美人と言うよりは可愛い顔をしていた。そして…とても立派なモノをお持ちだ。
「じゃあとりあえず部室にいって話をしましょうか。付いてきて!」
まあ、知らない男の先輩に拉致されるよりは、可愛い女の先輩に捕まったほうがましかな。もう少しで帰れそうだったけど、向こうの人達ほどガツガツしていないし、可愛い女の先輩が笑顔で「お話しましょ」なって言って来たら、確固たる理由も無く拒否できる男なんてそういないのだ。先輩も俺が断るなんて全く考えていないみたいだし、あの笑顔を曇らせるのは高校初日にやることじゃない。俺って結構チョロイな。
そのまま部室棟っぽい場所に一室までついてきた。
「ようこそ弓道同好会へ!」
そうか。弓道だったか。
初投稿です。こまけーことはいいんだよ!と言う感じでとりあえず最後まで駆け抜けるのが目標です。
未熟者ですが最後までお付き合いいただければ幸いです。




