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力持ちな人




 雪がしんしんと降り続く町は誰も歩く人はおらず、浮かぶ灯り火が浮かぶのは一角の酒屋でした。

 ここは城に最も近い酒屋で、夜になれば仕事の終わった城の兵隊さんたちがわらわらと集まって来るのです。

 しかしながら王様からのお触れが出された今日は少しだけ雰囲気が違っていました。



「オレさまが1番始めに女王様を取り替えてやるよ!」



 そう声を大きくしてお酒を飲み干すのは町1番の力自慢、ダイン。いい気持ちになっているから大笑いしています。


「おい! 酒、おかわり!」

「はいよ! チヨちゃん! これをダインさんに持っていってちょうだいな」


 お母さんがそう言えばまだ幼いチヨちゃんも見よう見まねでせっせとお酒を運んでいきます。


「はい、お酒だよ」

「お! ありがとなチヨちゃん」


 お酒を貰ってひとくち飲めばさらに気持ちが良くなるのか大きく笑います。

 そんなダインにチヨちゃんは疑問を投げかけました。


「どうやってやるの?」


 その言葉に浮かれていた顔はキリッと戻り流し目にチヨちゃんを見ました。


「それはな、力づくってやつだよ!」


 お酒をテーブルに叩くように置くとさらにこう続けました。


「悪い子にお仕置きが必要だろ? それと一緒で動かない奴には無理やりにでも動いてもらわないとな」


 勇ましく叫んだダインは高らかに笑いました。




 その翌日のことです。相変わらず賑やかな店内でとても大きな溜め息を吐きながら昨日と同じ席に座りました。

 早く春が訪れて欲しいチヨちゃんはダインにこう聞くのです。


「どうだったの?」


 ダインはもうひとつ大きな溜め息を吐くとまずこう呟くのです。


「酒をくれ」


 チヨちゃんは強く頷いてお母さんの所へお酒をもらいに行きました。


「お酒ね。これ、ダインさんにサービスって言ってあげてね」

「うん」


 渡されたのはいつもダインが飲んでいるお酒じゃないことはすぐにわかりました。なんでだろうとチヨちゃんは思いますが、そんなことよりもダインの話しが聞きたくてしょうがありませんでした。


「はい、これお母さんがサービスだって」

「おっ、これは……。こんなの貰っていいのかよ」


 ダインは戸惑った後にひとくちお酒を口にしました。


「美味しい……」


 瞳を輝かせ、お酒をただ一心に見つめます。揺れる水面にダインの顔が映るとチヨちゃんの疑問に答え始めました。


「オレは嫌がる春女王を城から引きずり出して塔へ向かったんだ。だがな、入ることが出来なかったんだ」

「なんで?」


 チヨちゃんは頭を傾げるとダインは続けます。


「塔へ入るルールがあったんだよ」


 お酒をまたひとくち飲みます。


「春女王と冬女王が同時に試練の部屋に入らなきゃならないんだ」


 チヨちゃんは気になってダインに近づきます。賑やかな店の中で耳をすませるより近寄った方が良いと思ったのです。


「春女王から聞いたんだよ。試練の部屋でお互いの季節を繋ぐための辛いことを1週間続けてるやるんだってよ」

「冬女王様も力づくで試練の部屋に連れて行けば良かったんじゃないの?」


 チヨちゃんは簡単に言う。それを苦い顔でお酒を煽るダイン。


「冬女王とは誰も会えないんだ」


 お酒を置くダインに周りのお客さんも耳を傾け始める。


「塔へ入る方法は試練の部屋へ入る以外ないんだ。それに、これは春女王から聞いたんだが、塔の中から外を見ることはできないらしい。だからオレは冬女王を試練の部屋へ行かせることができなかったんだ」


 チヨちゃんは頭を傾げます。


「じゃぁどうやっていつも一緒に入ってたの?」


 それを聞いたダインは黙ってしまいました。


「すまん。それは聞かなかった」


 チヨちゃんは残念と肩を落としました。周りの人も大きな溜め息を吐いてお酒を飲みました。

 もう聞くことがなくなったチヨちゃんがお母さんの所へ戻ろうとすると、いつもはいない綺麗な女の人が目に入りました。その人はチヨちゃんに見られると目を反らして高そうなお酒を飲みます。それがとても可憐な動きでチヨちゃんは目を奪われました。


「お姉さんもするの?」


 チヨちゃんはお姉さんに近づいて聞きます。女の人は驚いてチヨちゃんを見ました。

 目が大きくて細い眉毛、程よく日に焼けた様な褐色の肌に浮かぶ太陽のように鮮やかな赤い唇、クッキリとした顔立ちなのにシャープな輪郭はこのお店に来るにはあまりにも美しすぎました。


「わ、わたくし!? そ、そんなことしませんわ!」


 裏返る声から動揺が伝わりますがチヨちゃんにはどうでもいいことでした。


「ふーん。そうなんだ。ねぇねぇ、お姉さん。塔の中と外で連絡できる方法ってなにかある?」


 女の人は返答に困ります。


「し、知らないわ」

「……そっか」


 また残念そうに肩を落とすチヨちゃんはとぼとぼとお母さんの方へ向かいます。

 その様子を見てお姉さんは足を組み替えて言いました。


「あるとしたら、きっと女王たちにしかできない、テレパシーみたいなものかもしれませんわね」


 チヨちゃんはそれを聞くとパッと顔を明るくしました。


「ありがとう! お姉さん!」


 そう言うと急いでお母さんの所へ戻って行きました。

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