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叡帝興国紀  作者: badman
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拓跋帛伝 3回

 出陣のために鎧兜の身支度を整えていた拓跋帛(たくばつはく)の元へ、来客であると使用人が伝える。忙しいから後にしろと言う拓跋帛だが、その客人は案内を待たずに踏み込んできていた。

「わっしを連れて行くと言ったのは、ご子息だろうが」

 そこに現れたのは、髭を整え、小奇麗な乗馬衣装に身を包んだ酔狂であった。

「貴様、そのような格好も出来たのか……」

 意外なことに目を見開いて拓跋帛は言う。にやりと笑った酔狂は、大仰に礼をしてみせる。

「節度使様のご子息に失礼をした。我が名は黄興(こうこう)、此度の賊軍討伐に尽力させていただく」

 どう応対してよいものか分からなくなった拓跋帛は、お、おう、と言葉にならぬ様子だったが、我に返ると黄興を客間で待たせるよう使用人に指示し、自らの準備を整えるのだった。


 賊軍あらわるの報を受けた拓跋帛率いる討伐軍は、急ぎ救援に向かった。その足取りは前回の敗戦を受けて重い、かと思いきや。意外にも軽快に駆けていた。それも、出陣の蔡に黄興が暗示のように賊軍恐れるにあらずと語りかけ、また抜擢された1000人の大長槍兵に、その武器の有利を説いて気炎を上げさせることで士気を高めたのである。

「酔狂、いったいお主は何者なのだ」

「ただの、酔っ払いですよご子息」

 何度か馬上でそのようなやり取りをしている間に、今度は賊軍が慌てて引き返そうとする場に出くわした。

「さて、まずは徹底して弓の雨を降らせてやるのです」

「よし。弓、放て!」

 射撃の合図で前衛の弓部隊がこれでもかと弓を放つ。前回と違って今回は盾にする荷物も無く、また横に広く並べる陣形から広範囲に弓の攻撃が行われていた。右往左往する賊軍だったが、間合いさえ詰めればまた逃げ帰るはずと頭目が突進を命じる。

「よし、長槍隊、前へ!」

 ざ、と前衛を弓隊から引き継ぐ長槍兵部隊。賊の刀や槍が届くよりはるかに長い間合いから、その頭上へと長槍を叩き下ろした。

「そうだ、突くのではないぞ!叩くのだ!」

 黄興の声に、応と応えてさらに脳天へ振り下ろされていく長槍。またたくまに賊軍が倒れ伏していく。とうとう賊軍は逃走を始めるが、これを通常の槍兵が追撃。大長槍はその長さと重さから、長時間の追撃には向かないため、温存してのことである。この追撃で賊軍は大打撃をこうむり、根城の開風山(かいふうざん)にほうほうのていで逃げ帰った。


 その後も。何度か略奪を試みる開風山の賊徒であったが、そのたびに長槍兵を擁する拓跋帛軍に蹴散らされ、徐々にその勢いを弱めていた。逆に拓跋帛の軍は、勝ちの味を知った兵たちがその士気を高め、また長槍兵の数も増して精強になっていった。そうして3ヶ月、とうとう拓跋帛は開風山を攻め落とし、ここに賊軍の討伐を完了したのであった。


「黄興先生、先生のおかげでこうやって賊の討伐を果たすことが出来ました、ありがとうございます」

 いまや酔狂、いや、黄興は、拓跋帛に先生と呼ばれるまでになっていた。参謀として付き従い、賊軍を討伐できたのは黄興のおかげと、拓跋帛のみならず兵たちもよく知るところであった。

「なあに、これで酒代の分は働いたんじゃないかねえ」

 拓跋帛の手柄は我のものと主張できる立場にもかかわらず、黄興は飄々とそう嘯いた。

「先生、先生さえよければ、ぜひこれからも教えを受けたいのですが、私の元で食客(しょっかく)として招かれてはくれませんか」

「こんな酔っ払いにそこまで言ってもらえるとは、過分な取り計らい。だがわっしは酒があればそれで十分にて」

「いえ、あなたのような賢人がこのまま野にうもれたままでいいはずがありません! 酒ならばお好きなだけお出しいたします!」

 黄興の右手をとり、深く頭を下げる拓跋帛。空いた左手で髭を撫でながら思案していた黄興だが、あきらめたようにひとつため息をつき、頷いた。

「わかった、お主の客として、これからは働かせていただこう」

 こうして黄興の助力を得ることになった拓跋帛。後日、多数の戦功を上げることになるのだが、その傍らには常に不精髭の軍師の姿があったという。

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