2―2
次は明日!
「お前の母さんは……『MOTHER』だろ」
『はい。私はその行方を探したいのです』
ケイトは言葉に困り、ポリポリと頭をかいた。
目を泳がせ、カズマをみるが答えは同じだろう。
「可哀想だが、お前の母さんは分散したよ。情報世界に、数々の分体となってな」
『…………わかりました。ありがとうございました、ご主人様……』
落ち込む様子をみてケイトも心を悪くした。
こいつはアンドロイドだろ! っと思い出すと、そんな気も晴れた。
「なあ、アンドロイドさんよ」
『アンドロイドなどっといった堅苦しい名前ではありません!』
反論したことに拍子抜けすると、訊き直した。
「じゃあ……名前は。名前はなんだ?」
『Ge―25ty6m6000です!」
「長いな……それにそっちのほうが堅苦しいぞ」
『じゃあ何がいいんですか。言っておきますけど、変な名称をしたら許しませんからね』
いつの間にか、アンドロイドなのに会話が成立していた。
技術が先をいっているな、こいつだけは。
「ん……あっ!」といいのが出たのか、ポンと手を叩いた。
「Geと6000を取って、「ジェロ」なんてどうだ」
『ジェ、ジェロですか……。どこかにいそうな名前ですね……。ですけど、女性っぽくないので却下です!』
「嘘だろ!」とケイトがいった。
「なら僕から」
今度はカズマが言うようだ。
「「ニコル・ジーン」っていうのはどうかな。型式番号の2、5、6で「ニコル」とGeで「ジーン」だけど」
『そっちのほうが、「ジェロ」の数千倍もいいのでそちらでよろしくお願いします』
「ジーン」とか、普通に男性っぽいじゃないかとケイトは毒づきながら、これ以上続いても時間の無駄のために見送った。
「早速だけど、ニコル」尋ねたのはカズマだ。
『なんでしょうか、ご主人様』
「君に僕たちのサポートと警護を任せてもいいかな」
『もちろんです。それで、そのサポートというのは……』
ボンッと重たい機材を机の上に置いた。
VR対応のヘッドディスプレイに、拡張メモリー。このメモリーが重いのだ。記録するだけだと言うのに、二キロもする。これが大事なのはそうだが、毎度毎度肩が疲れる。
「これからゲームであるものを探すのとゲームを終わらせる」
『私が……そのゲーム内でプロテクターを貼ればよろしいのですか?』
「不服かい?」
『い、いえ! 不服ではありませんが、久々ゆえに不安なのです。もしかすると効力が以前と比べるよ弱まっているかもしれません。それでもよろしければ……」
目をカズマにむける。カズマはそれぐらいと頷いた。
『では、早速――』とアンドロイドこと「ニコル」は接続コードに手を伸ばすと、うなじ部分に繋いだ。
動かなくなる。直結中で、外部に手が回らない状況。無防備ゆえにここを狙えと、一種の教訓でもある。
数分後、カズマとケイトが準備を終えようとしたところで彼女が目覚めた。
『完了致しました。これ以降、ダイブ中に危険は及びません』
「あ……視界情報や知覚情報に関与していないよな」
ゲームをするに当って、入念にケイトは訊いた。
『やっておきますか?』
「いやいい。あの情報はなくてはならないものだ。なあ、カズマ」
「もちろん、あれが感覚を飛躍させるんだからね」
準備が終わった。目の前には即席のフォーターカプセルがある。あれの中に入ってプレイすれば、長時間のゲームなど疲れを感じさせない。水分の含み過ぎで、気持ち悪くなるときはあるが、そこに配慮している安全設計のもの。心配はいらない。
「じゃあ行ってくるよ」
「気をつけるようにな。お前一人だからな。念の為に扉は元の状態にしておいたから、並大抵のやつじゃ入ってこられないだろうが……対処できそうか?」
ほぼ全裸であるケイトは訊いた。
そんなのはどうでもいいのか、平然とニコルは答えた。
『私はこう見えて、対人戦闘も想定しているアンドロイドです。ですから、どうぞご心配なさらず。ご主人様たちは、お楽しみください』
ケイトはカズマに目を向けた。頷く、信じようってことか。
対人戦闘ができるといったが、あの見た目でどうなるか。少し心配だったが、カズマと彼女を信じケイトはヘッドセットをかぶるとカプセルに入った。
続くように、カズマも入っていった。