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「ここが「サウランド・ヒップ」か。随分と……」
ケイトは辺りを見渡す。荒廃した町が広がっている。何十年も使われていない感じが漂っている。それでも下水道やら電力は供給されているらしい。
目の前にはドーム型の建物。「プラネタリウム」というものに似ている。
「古臭いと?」
リムジンから降りるなり、カズマがいった。
「見た限りは、な。俺は余り地形に詳しくないが、何か選んだ理由でもあるのか? こんなとこ、身を隠すには十分かもしれないが、それなら別の場所でもいいだろ。あと、ここは君が悪い。ゴーストがいそうだ」
「ゴーストね。ここにはでないよ、絶対ね」
「根拠は? なぜそう言える」
「だってここは――『MOTHER』が生まれた場所だ」
その単語に、ケイトの拒絶反応が反応した。
「つまり”聖地”だと? バカバカしい。『MOTHER』は大嫌いだ。その子供たちに何度手傷をやられたか、考えるだけでキリがないぜ」
「『MOTHER』はセキュリティシステムの中でも最高峰を誇るシステムさ」
「知ってるさ。わざわざここまで来て、そんな話を聞きにきた覚えはないぞ」
呆れるケイトの前カズマが歩いていく。
ケイトは、彼がなにをするのかを目で追っている。
ドーム型の建物。その内部に入っていく。
「まじかよ」とケイトは呟きながらも、不気味で一人では不安なため後をついていった。
中に入ると、予想していたものと違っていた。
散らかっているところまでは一緒だ。荒らされたような感じ。そんな様子が広がっている。
違ったのは、目の前にある扉。分厚く、核戦争にでも耐えれそうな扉だ。
傷がついているが、開けられた形跡は見られない。少なくとも数十年は。
「ここが『MOTHER』の故郷だ」
「正確には”この中”だろ」
ケイトはびくともしない扉をコツンコツンと指で叩いた。
「加護でもあるってか。お前さんの理屈はまだ聞いちゃいねえが、こいつは危険だ。過去に暴走したから、この町が荒廃している、違うか? なぁどうなんだ」
カズマからの返答はない。彼の視線は解除用のパスコードに注がれている。
へっ、夢中になってやがる。こんなとこで、ゲームができようなんてな。さぞ安心だ、かの『MOTHER』様の庇護下だ。何があろうと、守ってくれる。素晴らしい、さすがは「母」と呼ばれるだけはある。これなら「好夢機関」のハックがこようが、実力行使に来ようが安全だ。
だが……どうやってカズマはこの場所を見つけたんだ? 『MOTHER』の情報はSクラスに分類される。扱うのは政府の情報部だ。それに『MOTHER』の研究所ならなおさらだ。情報が漏れることはまずないはず。
変だと思い、ケイトはカズマを疑った。
「俺を疑っているのか、ケイト」
「そりゃあ……そうだろ! こんなクレイジーな場所、どうやって見つけたんだ! それに『MOTHER』について、お前は……知りすぎちゃいないか?」
「ハハ」とカズマは一蹴するように笑った。
不気味で、さらに散らかった雰囲気が盛り上げた。
「確かに、知りすぎてるかもね。だけど、知りすぎたところで天から神がやってきて滅ぼそうとはしない。所詮『MOTHER』はその程度なんだよ、ケイト。彼女は情報でしかない。情報が物理的行使をしようものなら、この世は滅んでいるよ」
カズマの言葉にケイトは、彼が遠くにいるのだと自覚した。彼はいつの間にか自分と同等の能力ではなく、それ以上になっていた。
バディと呼ぶのはこれが最後かもしれない。
「僕は幸運だったよ、ケイト」
「幸運?」
「ああ、おかげで『MOTHER』の跡地に来ることができた」
「ここに本当に『MOTHER』の残滓があるのか? なければここにいる意味は」
「あるとも――って思うけど、まずそうじゃないとこんなに厳重にする必要があるかい?」
「ないな。一つたりとも、塵カス一つ持ち去ったとしたら、ここは破棄され、この場所もおそらく扉が開いてるはずだ」
ケイトはカズマが遠い存在になったのを自覚しながら、こう尋ねた。
「カズマは、この先に何があると思う?」
カズマは答えない。入力音の、カチッ、カチッという音が答えた。
無視かよ。と軽く軽蔑しようしした時に、カズマが口をあけた。
「宇宙」
「宇宙!? なんだってこんな場所に」
そういうのも束の間、扉が開くではないか。
セキュリティを突破したのか、とケイトは感心した。
短時間でやってのけたカズマの実力に感服だな。
「あ……さっきの答えだけど、宇宙じゃないよ」
「なら、なんでそういった?」
「セキュリティの最後が音声入力だったんだ。だけど、さっきの質問の答えだと……」
ケイトはそれよりも先に中に入ろうとして、カズマに既のところで止められる。
「女性だ」
カズマは答えをいうと、もう大丈夫と手をどけた。
ケイトはなんだその答えと思いつつ、扉を両手で大きくあけた。
目を疑った。カズマの言うとおりではないか。
中央の場所に鎮座しているのは、正しく――
「女性だ……」
思わず声に出ていた。アンドロイドだろう、長時間のスリープモードに入っているはずで、こちらには気づくよちもない。
アンドロイドの見た目は数十年前のものと思わせない出来栄えで、今見ようが最先端たるに違いない。
「カズマ、こいつは……」
「多分だけど『MOTHER』の真の子供だよ」
「『MOTHER』のってことは……こいつ、ヤバくないかッ!」
慌てて、腰から光線銃を取り出したケイトはアンドロイドに無鉄砲にむけた。
「大丈夫だって、こいつはそんなことはしない。主人には絶対服従なんだ。だから心配はいらないよ。まず、攻撃機構は積んでいないはずだ」
「そ、そうなのか?」
おそるおそる尋ねると、銃口でアンドロイドの頭をコツンと叩いた。
『おはようございます、ご主人様』
「――ッ!」
ケイトは急のことに対処できず、尻込みを起こした。
起き上がれないケイトの手をカズマが握ると、起き上がった。
アンドロイドはさっきのケイトの行動で眠りから覚めたらしく、こちらに目を向けている。
アンドロイドといえば、鋭い視線が醍醐味だがこいつは人間のような目をしていた。
「で、こいつをどうするんだ? カズマ」
「単純だよ。僕らに危険が迫ったら守ってくれと命令したらおしまいさ」
「それだけでいいのか、こいつはそんなに優秀なのか?!」
「ハハ、もちろんじゃないか。『MOTHER』の子供だよ、感知能力と防衛能力は随一だよ」
「――『MOTHER』……母をご存知なのですか」
別の人物が会話に割り込んできたかと思った。その声は人間じみた優しい女性の声、十歳程度の女の子に尋ねられた気分だ。しかしそんな女の子などおらず、目の前には……
「なんで女の子になっているんだ? さっきまではアンドロイドだったじゃないか」
カンの鈍いケイトでも変化に気づいた。
ただのツルツルした容姿から、姿、形を変えたようにそこには一人の女の子が立っていた。
身長も低く、ブロンドヘアーで雑誌でモデルをしてそうな容姿だ。
「こいつは目覚めたことで情報を摂取したんだ。そこから最初の会話に合わせて変化したわけ……かな」
さすがのカズマも自信がないようだ。
「随分とできたやろうだ、アンドロイドとみて侮ったらダメみたいだな」
「ああそうだね。あっ……」
カズマが声を漏らす。なんのことだとケイトは不自然におもった。
『ねぇ、お兄さん。お母様のこと、知りません。教えてくれたら、なんだって協力しますから』
見るまでもなくアンドロイドだった。それ以外に該当するやつがいない。
女の子の格好をしたアンドロイドはケイトの上等な赤い服の袖を掴むと、引っ張り出した。
やれやれ、と呆れたケイトだがカズマに目を向けても無理そうなため、自己解決することにした。