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異世界ナイチンゲールの奮闘記!!  作者: ぶるどっく
第4章 見習い少女とレッドスピネル救護院。
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見習い少女と伯爵婦人の反撃。


 数ヶ月ぶりに聴いた伯爵婦人の声に、伯爵や侍女のマリー、そしてリクは驚いてしまう。


「……母上?

 ……母上っ!!」

 伯爵が目を見開いて、早足で母のいるベッドの側に近寄りおそるおそる母を呼ぶ。

「ええ、デイビット。ちゃんと、聞こえていますよ。」

 伯爵婦人は、息子の己を呼ぶ声に応えるように穏やかに微笑み返す

 その言葉に伯爵は歓喜の声をあげ、うれし涙に泣き崩れてしまうのだった。



「リク……。リク、母が元気を取り戻したのは、貴女のおかげだ。

 本当にありがとう。……ありがとう。」

 伯爵は嬉し涙を流しながらリクの手を握りしめ、何度も、何度も感謝の言葉をリクへ伝える。

「伯爵様……、私の方こそありがとうございました。

 伯爵婦人様がお元気になられて本当に良かったです。」

「本当にようございました、旦那様、セレナ様。」

 その姿を見て、侍女のマリーも涙を流す。

「……本当に心配を掛けてしまってごめんなさいね。

 小さな看護師さんが一生懸命に私の体調を気遣いながら、看病をしてくれたおかげです。

 本当にありがとうね、リクさん。」

「……いいえ、私はただ伯爵婦人様が元気になるようにお手伝いをしたに過ぎません。

 本当に、元気になって良かった……。

 本当に……ありがとうございます。」

 リクへ微笑みを向けて感謝を述べる伯爵婦人へ、リクも頭を下げて感謝の言葉を返す。

「……周囲の環境に負ける事もなく、間違っていると思う事に流される事を良しとしない。

 間違った楽な考えを受け入れる事もせず、弱い立場の存在を助けようとする精神(こころ)

 ……本当に、彼女によく似ていますわね……。」

「え?」

 伯爵婦人はそんなリクの姿を眩しそうに、そして懐かしそうに眼を細めて穏やかな眼差しを送る。

 小さく呟いた伯爵婦人の言葉をリクは聞き取る事が出来なかった。

「……いいえ、何でもないのよ。

 それよりも、リクさん。

 まだ私は名乗る事が出来ていなかったわ。

 うふふ、私はセレナ・カロナークと申しますの。

 セレナと名前で呼んで下さいね?」

「改めまして、リク・アズノルクです。

 えっと、私などが御名前をお呼びするのは……」

「……呼んでくださいね?」

「……はい、セレナ様。」

 貴族の名前を軽々しく呼んでも大丈夫なのか分からずにリクは断ろうとするが、伯爵婦人の無言の圧力に屈してしまった。

「うふふ、良かったわ。

 リクさんに伯爵婦人なんて呼ばれていたら、悲しくてまた病になってしまいそうだもの。」

「リク、今後一切母上の事を名前以外では呼ばないように頼むぞ。

 ああ、母上を名前で呼ぶのだから私の事も名前で呼んで構わない。」

 伯爵婦人の言葉に、伯爵は真面目な顔でリクへ母親を名前で呼ぶように念を押すのだった。

 そのついでのように、伯爵自身の名前も呼ぶ許可を与えるのだった。

「……はい、デイビット様。」

 伯爵婦人の病室はしばらくの間、溢れんばかりの笑顔に包まれた。

 引き攣った笑顔を溢してしまうリク以外は……。




 伯爵婦人が元気を取り戻した事は、その日のうちに救護院中に知れ渡る事となった。

 クラピウス夫妻も、伯爵婦人の部屋に訪れてその事実に驚愕してしまう。

 そんな二人へ、伯爵婦人は側にリクを侍らせて声を掛けた。


「うふふ、こうやって面と向かって挨拶をするのは初めてね。

 ……公爵の部下は、伯爵婦人である私から挨拶をさせる気なのかしら?」

「っ!申し訳ありません!

 私は、レオナル……」

「やっぱり必要ないわ。

 私の病を治す事に匙を投げたばかりか、リクさんを虐める方達に興味などありませんもの。」

「……。」

 クラピウス夫妻へ自己紹介を求めておきながら、伯爵婦人は聴く事を拒否する。

 その様子に、リクとは反対側に立っていた伯爵も深く頷き同意を示す。

 そんな険悪な雰囲気にリクは、どうしてこうなったとばかりにワタワタしてしまう。

「そのうえ、貴方達が私のお付きにと用意したあれらは何かしら?

 公爵閣下の救護院に入った以上は、死にゆく伯爵婦人程度にはあの程度で十分だとでも?」

 ワタワタとするリクの様子を見て伯爵婦人は微笑みを浮かべるが、クラピウス夫妻へは極寒の真冬の方がまだ温かいと思わずにはいられない程に凍り付いた冷たい眼差しを送る。

「そんなつもりは決してっ……」

「お黙りなさいっっ!

 お前達がどのようなつもりかなど、聞きたくもありませんわっ!

 公爵家に爵位は劣ろうとも、我が伯爵家は建国当時より陛下に付き従いし由緒ある家柄っ!

 公爵自身ならいざ知らず、その部下如きに見下される覚えはありませんわっ!!」

「申し訳ありません!」

 伯爵婦人へ対して、クラピウス夫妻がどのような人物を側に付けたのかもリクは知らなかった。

 そして、彼等がどのように伯爵婦人へ対応したのかさえ、聞くことも恐ろしく感じてしまった。

 しかし、強い口調で二人を叱責する伯爵婦人を前にリクがこの部屋の中にいる事は場違いのように感じてしまう。

 ……要するに好きこのんで立腹している人の側に居たいと思うはずもなく、リクはいたたまれない気持ちで落ち着かないのである。


「ふふふ、まあいいわ。

 今までの無礼に関してはひとまず置いておきますわ。

 ……だから、今すぐに公爵閣下との面会を調整なさい。」

「……面会ですか?」

 叱責していた伯爵婦人が、クラピウス夫妻へ突然公爵との面会を調整するように命ずる。

 クラピウス婦人は急な話の転換について行けず、思わずオウム返しに聞き返してしまう。

「ええ、そう言っています。

 お前達と話しをしても、埒が明きませんわ。

 閣下とは古い知り合いですもの。

 ……どうせ、お前達にリクを虐めるように命じたのもあの男でしょう。」

『!!』

「ほえ?」

 伯爵婦人の思わぬ言葉に、クラピウス夫妻は思わず反応を返してしまう。

 急に己の名前が話題に挙がった事に、リクは気の抜けた変な声を上げてしまう。

「……あらあら、どうやら図星のようですわねえ。

 理解できたのならさっさと行動を開始して下さいな。

 それと公爵閣下に伝えて下さる?

 "月花の騎士が参ります"と。」


 伯爵婦人の強い眼差しを受けて、クラピウス夫妻は首を縦に振る以外の選択肢は許されていなかったのだった。



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