見習い少女と公爵閣下 その1。
秋のさなかに赤く色づき、美しさを誇った紅葉もいずれは枯れて散りゆく。
木枯らしが舞い始め、一月もすれば本格的な寒さを伴って、灰色に染まった空から白い雪がちらつき始めそうな秋の終わりの景色が広がるエリューシオン王国。
そんな王国内にある5大公爵領が一つ、クラリスロ公爵領内の都市"バファロン"を歩く3人組の姿が有った。
一人目は、腰の辺りまで伸ばしている赤銅色の長い髪、猫のように少しつり上がった大きな目に、自信に満ちあふれた黄金の瞳、なめらかな褐色の肌、うらやましいほどに整った女性らしい体型を持った20代半ばにしか見えない女性。
二人目は、人形を思わせる作り物めいた美しい中性的な顔立ち、銀糸を集めたように輝く銀色の髪、その髪の間からは同色の"犬"のような動物の耳が生えている。細身だがしっかりと筋肉の付いたしなやかな身体、腰より少し下の辺りに髪と同色のふさふさとした尻尾が生えている青年もしくは女性。
そして最後の三人目は、やや長めのショートカットにしている黒髪、知性を湛えた紫色の瞳、前者の二人の美貌と比べれば多少地味ではあるが、十分に整っている容姿と言える少女。
そんな彼らは、躊躇うことなく公爵家の門をくぐり抜け、当然のように公爵家の使用人達に応接間へと通された。
「うぅぅ、やっぱりリク帰りましょう・・・。諦めましょうよぉ・・・。」
「お師匠様ったら・・・。」
「・・・まったく、諦めが悪い。」
泣きながら今生の別れのように力強く私を抱きしめてくるお師匠様を宥め、そんな私達の姿をシオンさんは呆れたように眺めている。
私達が今居るこの場所はエリューシオン王国の5大公爵家が一つ、クラリスロ公爵家であった。
何故こんな貴族の頂点に近い場所にいる、私達と関わり合いのなさそうな場所にいるかというと全ては私の一言から始まったのです。
私は、今年で無事に10歳になりました。もっとも、魔法や武術などは相変わらずのへっぽこです。でも、今はまあ自分の気持ちに折り合いを付けて続けています。
そんな私の夢、いえ目標でしょうか?
それは変わることなく"看護師"になる事でした。
・・・先に言っておきますが、この世界において"看護師"という仕事は、救護院で"病魔"に侵された、いつ自分にその牙が向くとも知れない、忌み嫌われた仕事でした。ゆえに、"看護師"になるのは貧しい家の娘や未亡人、元孤児が大半を占めています。彼らの仕事は、救護院に入った人々を世話する単なる召使と考えられ、看護や病気に関する専門知識など必要がない職業とされているのが現状です。
私は、反対される事を覚悟で家族に私の夢を、目標を告げました。
反応は予想通りで、お師匠様には泣かれ、キースさんには厳しい表情を向けられ、シオンさんには複雑な眼差しを向けられました。・・・ジェダは多分分かっていたみたいですけど、あーやんは微妙に分かっていない様子で、リオはまだ幼いですから分からなくて当然です。
・・・家族である彼らから見れば全く持って、私が"看護師"になりたいと思う理由が分からないみたいでした。
たくさん話して、泣いて、思いを告げてやっと私はみんなから許可を渋々ですが得る事に成功しました。ただし、条件が合ったんです。それが、今のこの状況に繋がっています。
「そなたが私を玄関より尋ねてくるなど、なんたる事だっ!
セバスよっ、急ぎ民に伝えよっっ!
明日は猛吹雪が来るぞっ!!」
応接間の立派な扉が開き部屋の中に入ってきたのは、壮年期も後半に差し掛かっている紅茶色の髪と、若草色の鋭い眼光を持ったダンディーな男性でした。その鋭い眼光に今は悪戯心と好奇心を宿し、大げさな様子で苦笑する執事に命令を告げています。
「・・・悪かったですねえっ、破壊の権化で!
安心して下さい、閣下。
そんなに吹雪を浴びたいのならば今すぐに、てめえだけにプレゼントさせて頂きますわっ!!」
「・・・ふむ、冗談だ。
破壊の魔女よ。そう興奮してはならんぞ。」
「だ・れ・の、所為ですかっ!」
「さてな。」
「っっっっ!!!!」
・・・お師匠様が弄ばれてます。キースさんがこの公爵様の名前を聞いて嫌そうな顔をしたのはこれが理由だったんでしょうね・・・。ですが、出来れば事前に教えて頂きたかったです・・・。キースさんの幻影が頭の中で、言い笑顔で親指を立てている気がします。
「えっと、お師匠様。
私やシオンさんはご挨拶をしなくても良いのでしょうか・・・?」
「うっ、リク・・・。
紹介するのは、ものすっごく嫌だし、関わって欲しく無いけどっっ!
・・・閣下、この子は私の養女となった可愛い、可愛いリクです。
そっちにいるのは、リクの護衛で焼くなり、煮るなり、好きにして構わない糞ガキです。」
「・・・シオンだ。」
お師匠様のあんまりの紹介にシオンさんが静かに青筋を立てて睨んでいます・・・。
「お師匠様、あんまりな紹介です。
シオンさんは、私にとって大切な友人であり、家族の一人なんですよ。」
「うぐっ。」
「リク、ありがとう。
僕にとってもリクは何よりも大切な、僕が護る愛しい人だ。」
いつもの事ですが、同性と分かっていてもシオンさんの言葉は凄い破壊力です。何故、簡単にそんな事を人前で言えるのでしょう・・・。私ならば、言われただけで顔が赤くなってしまうというのに!
私達三人の遣り取りを静かに観察していた公爵閣下は、お師匠様の言動に他者に気がつかれない程度に目を見張り、次には楽しそうなオモチャを見つけたような表情を浮かべました。
私を見つめてくる公爵閣下の視線を感じ、シオンさんの言葉に惚けている場合ではないと正気に戻り、遅くなってしまいましたが自己紹介をしました。
「申し訳ありません、公爵閣下。
私は、メリッサ・アズノルクが養女となりましたリク・アズノルクと申します。」
「リク・アズノルクの護衛、シオンと申します。」
貴族の礼など、マナーに関しては本でしか読んだ事はありませんが、前世の西洋の物に似ていてスカートの両端を持って頭を下げるような淑女の礼でした。上手に出来たかは判断できませんが、やらないよりはマシだと思いたいです。逆にシオンさんは何処で覚えていたのか、私から見れば優雅としか言えない動作で紳士の礼を披露しています。
「これは、これは。
破壊の魔女とは正反対の礼儀正しいお嬢さん達だ。
ふむ、私はアルフレッド・フォン・クラリスロ。
特にリク嬢、貴女とは是非仲良くなりたい物だ。末永くよろしく頼むよ。」
「え、あ、はい。よろしくお願いします、閣下。」
「・・・むう、閣下よりも、そうだな。お父様、もしくはお爺さまと呼んで貰いたい物だな。」
「・・・え、えーと。」
悪戯っ子のような笑みを浮かべた公爵に、私はなんと返した物か悩んでしまう。
・・・なんかこの強引さ、何処かの誰かさんを思い出すんですが。家名も一緒ですし。・・・うん、私は嫌な過去には囚われない女を目指します。ですから、この記憶は厳重に箱に入れて記憶の彼方に封印しておきましょうね。
「だーれがっ!お爺さまよっっ!!
リクはっ、あたしのよっっ!!可愛い、可愛いこの子はあげないんだからっ!!!」
春祭りの頃を思い出している間に、お師匠様の暴走スイッチが入っちゃったみたいです・・・。しかもこの人、たちが悪い事にお師匠様をわざとからかって楽しんでいる感じがします。
まったく、何時になったら本題に入れるんでしょうね?
ギャーギャー騒ぐお師匠様を横目に見ながら私は小さなため息を一つ吐いて、現実逃避するのでした。
・・・なんだか私、現実逃避する事が前世よりも多くなってる気がします(遠い目)。
いつも読んで頂きありがとうございます。
気がつけば早い物で、80話を超えてしまいました。アクセス数もPVですが、驚く事に50.000を超えちゃってました。
これからも頑張って更新を続けていきたいと思いますので、よろしくお願いします。




