閑話 侍女のミリ-
《侍女 ミリ-》
私は、子爵家の次女として生まれてきたわ。一応貴族だけど裕福ではなかったし、どちらかというと貧しい方だと思う。だから、必死で少しでも良縁に恵まれるように自分を磨いたし、王城の侍女になったわ。侍女として働き始めて数年がたった今では、少しは侍女長に信頼されているかな。
だから、今回陛下に新しく誕生した姫君のお付きの1人に選ばれたんだと思う。でも、実際私には弟がいたから小さい子どもの世話がすごく大変なことだって知っているし、正直気が乗らなかったんだよね。かわいいけど、何かあるたびに泣くし、夜泣きもすごいし。数人の同僚と交代で順番に休めることが救いかな。
だけど、生まれたお姫様は違うの。あんまり泣かない上に、夜泣きも少なかったもの。そのことは嬉しかったけど、その代わりに熱がよく出て大変だったわ。
この大陸には、フォルティナ教っていう大きな宗教があるの。大昔、女神フォルティナがけがをして苦しんでいる人間を視て自分の力の一部を癒しの力として授けたんだって。そうして、女神様の加護を受けた人間は治癒魔法を使えるようになって、女神の使途としてたくさんの人を救ったっていう神話があるの。でも、それを見ていた魔に属するものが治癒魔法では治らない怪我を生み出したの。それが"病気"と呼ばれるもの。だから、教会は病気になった人を"病魔"に取り憑かれたというの。遙か昔には、1人から何百、何千もの人が同じ病気になって国が滅んだとか。
でもね、敬虔なる信者には病魔は取り憑かないし、もし病気になったとしても女神様が試練をお与えになっているんだって。
姫様が生まれてもうすぐ半年。数日前に姫様は極秘裏に病弱認定を教会から受けたわ。私は、やっぱりと思ったわ。だって、すぐに熱が出るし同じ頃の子どもより少し小さいもの。病弱認定は、病魔に好かれやすいものの証。
そして、私は司教様から託宣を受けたわ。敬虔なる教徒である私が、病弱認定を受けた姫に救いの手を差し伸べるのだと・・・。
決意に燃えて、教会を後にする彼女には"敬虔なる信者ほど、扱いやすいものはない"という言葉は聞こえず暗闇に消えていった。
《馭者の男》
王都を出発して馬車を走らせ1日が経とうとしている。周りには、人の気配は無く地面がむき出しの道だけが続いている。前方には森が見え始めている。馬車には、目立たない格好をした目付きの悪い男といくつかの木箱が乗っている。その男は、王都での事を思い出していた。
ーうまい仕事が手にはいったもんだ。お偉いさんの後始末なんざなれてるからな。どうせ、この木箱の中身は教会に目を付けられた餓鬼だろう。
馬車は走り続け、目的の深い森の最深部へと到着した。
男は、"がたん"と馬車を止め木箱を1つ大きな木の根元におろした。そして、箱を開けると中には小さな赤子が目を開けていた。
ーちっ、起きてやがる。さっさと捨ててっちまおう。処分するように言われたが、こんな深い森の中に捨てておけば後は魔物が食って終わりだ。
男が立ち去ろうとすると、まるで置いて行かないでと訴えるように大きな声で泣き始める。
ー悪りぃな、オレも仕事なんだ。恨むならお前に優しくない女神様とやらを恨みな。