8歳児が眠った後の秘密の話し合い その2。
《???》
しかし、僕が思い浮かべていた事と現実は違った。
攻撃を仕掛けたはずの僕は、女の手で無様に床に転がされ、利き手をひねり上げられ背中に固定されてしまっていた。女は容赦なく、僕の背中の傷へ僕の利き手をねじり込むように押しつける。せめて、痛みに呻いてなるものかと唇を噛みしめるが、それさえも許されずさらに腕に力が込められる。
「ぐうぅっっ。」
痛みに呻く僕の上に座り、まるで女帝のように女は優雅に嗤う。
「・・・巫山戯んのも大概になさい。
うちの子が誠心誠意看病してるのに、あんたは何様のつもり?
あんたが野垂れ死のうが、どうなろうが知った事ではないわ。
でもね、ここであの子の看病を受けている以上その命はあんたのものじゃあないの。
全ては、あたしの可愛いあの子の物。・・・・・勝手は許さないわ。」
僕の上に乗って、さらに圧力をかけてくる女。それでも、僕の矜恃がこの女に屈する事を許さない。声を発する事もままならぬ痛みに耐えながら、床に押さえつけられた状態で力一杯にらみつける。
「メリッサ、そこまでにしとけ。」
「キース、あたしの邪魔をする気なの?」
一連の流れを黙ってみていた男が女を止めに入る。静止の言葉を聞いた女は不服そうに男をにらみつける。
「いんや、ただ単にお前が他の野郎の上に跨がってんのが心底嫌なだけだ。
早く、お前が降りねえと間違えてそいつを銃の的にしちまいそうな気分だぜ。」
「・・・・・バカ。」
僕の上に乗っていた女はさっさと男の言葉で僕の上から、その身体をどかした。すぐに戦闘態勢に入った僕を女は冷え切った、見下すような視線で射貫く。男の方も顔に飄々とした笑顔を浮かべながらも、その眼には隠しきれない殺意が宿っている。
そんな二人の視線に晒され、彼らの実力を測り間違えていた事に今更になって気がつく。このまま、闘いになったとしても運が良くて一人を道連れに己の死体を晒す事になるのは目に見えていた。狭い世界の中での実力に満足しきっていた僕自身の愚かさを呪ってしまいたくなる。圧倒的な実力差の前に、矜恃も何もかなぐり捨てて許しを請うべきなのか判断に迷ってしまう。今の彼らは、きっと僕が許しを請うたとしても、許しはしないだろう。それほどまでに、あの少女への対応で彼らの怒りを買ってしまった。僕自身の身から出た錆である。静かに死の覚悟を決める。それでも、一矢報いたいと思うのは性格ゆえのものでどうしようも無い。
しかし、そんな絶望的な状況で僕を救ったのは彼らの怒りを買ってしまった原因である少女だった。
「お師匠様、キースさん。なんだか物音がしましたけど大丈夫ですか?」
小さな足音と共に現れたのは、その腕に・・・犬?を抱えた少女で二人に話しかける。少女の気配に気がついていた彼らは、今までの殺意や敵意が嘘のように覆い隠し少女へ笑顔を向ける。
「おう、大丈夫だ。ちょっと、こいつと話しをしていたんだ。」
「え?狼さん・・・?」
「そうなの、それが看病してくれて感謝を伝えたいって言ってたから明日にねって話していたのよ?」
「・・・・・。」
少女は、二人と僕を見比べて困惑している様子だ。ただ、言わせて貰えば少女が僕の方を見たときだけわかりやすく殺気を向けるのはやめて欲しい。彼らの怒りをこれ以上買わないように慎重に言葉を選んで、少女へ向き合う。
「・・・彼らの言うように貴女に礼を言いたかった。」
「・・・・・狼さんが喋った。」
少女は、眼を見開き僕が喋った事に驚いているようだ。・・・僕だって普通に喋るくらい出来るのだがな。まあ、今までの態度を思えば当然かもしれない。
「・・・・・良かった、本当に良かった。」
僕はただ一言喋っただけなのに、伝えた礼の言葉だって気持ちなど籠もっていない平坦な物であったにも関わらず、心の底から安堵したというような少女の笑顔がなぜか目に焼き付いて離れなかった。




