8歳児の眠った後の秘密の話し合い その1。
《???》
あの少女は変わっている。
普通、武装しているような見ず知らずの獣人を助けるような奴は、奴隷商だったり、それに売りつける事が目的であるはずなのに。普通に食事を3食用意して持ってくると、気の抜けるようなへらりとした笑顔を浮かべ、毒味のつもりなのか全て1口ずつ食べてみせる。傷に巻くサラシや身体を拭く熱いお湯で絞った布だとか、はっきり言えばそこら辺の街の宿屋より至れり尽くせりだ。
まあ、少女以外の人間には警戒されているし、夜中に会った魔銃を装備した男や魔法使いの女は、あの少女の両親か?それにしては似ていないし、"父"や"母"と呼んではいない様子だが・・・?
まあいい、僕はさっさと傷を治すだけだ。あの少女はせいぜい利用させて貰うとする。どうせ、数日もすれば話しもしない、側にも寄らせない僕に飽きてしまうだろうしね。
そんな風に考えていた僕には、あの少女の考えが分からなかった。
僕がこのユーラスの森の奥にあるという一軒家に住む少女に助けられ、目覚めてから5日目が終わろうとしている。僕が背中を預けるドアの向こうでは、"獣人"に関する話しを家族でしている。
まだ、油断は出来ないがこの家族はフォルティナ教徒では無いようだ。・・・嘘でも、この話しを信じる連中の脳みそが腐っているなど言わない。僕も同意はするし、思わず腹を抱えて笑いそうになったが。
本当に、あの少女が何を考えているのか分からない。意味を分かっていないからか、平気で大陸中にいるであろう熱心な信者どもを敵に回すような大胆な事を口にする。かと思えば、僕の様子を見ながら慎重に距離を測り、僕を刺激しないように尽くしてくれている。
普通、最初は親切心で助けたとしても、ここまで無視や警戒されれば誰だって面倒になり、負の感情を抱く。けれど、あの少女は僕の態度に落ち込む事はあれど決して負の感情を向ける事はしない。まだ、おそらく10歳にもなっていない子どもがだ。
僕は他者に悪意を向けられる事はあっても、それ以外の感情を向けられる事はほとんど無かった。だから、少女の態度に本当に困惑していたんだ。
家族での話し合いが終わり、少女が両親?の部屋にある寝台に向かったのを確認して、僕に話しかけてきた。彼らは、元冒険者なのだろう。現役と言った雰囲気ではないが、歴戦の猛者という印象を受ける。だから、最初から僕が彼らの話に耳を傾けていた事に気がついていた。
「ふんっ、悪趣味ね。
家族の団欒を盗み聞きするなんて。」
女が話しかけてくるが、僕は答えを返す気は無い。面倒ごとはごめんだ。もうすぐ傷も治る、そうしたらさっさとこの家からも、森からも出ていくさ。
「お前、なんであの子が口も聞かねえ、名前も教えねえ、対人関係最悪なてめえを世話するか分かるか?」
今度は、男の方が僕に話しかけてきた。そんなこと僕が分かるはずがない。あの変わっている少女の事なんて、全く知らないんだから。興味は無かったから名前すら覚えていない。ただ単に獣人が珍しかったんじゃないのか?
「先に行っておくが、あの子は獣人だから助けた訳じゃねえぞ。別にお前が人間でも助けただろうな。」
だったら、もう僕には分からない。
「・・・時間の無駄ね。
可愛い、可愛い、あたしのあの子が気に病んでいるから少し、発破をかけてやろうかと思ったけど必要ないわね。
自分の殻に閉じこもった、自分は一人前に強いと思い込んでいる未熟な糞ガキの相手なんてごめんよ。」
その一声に頭に血が上ったのが分かった。思わず部屋から飛び出し、瞬時に間合いを詰め攻撃を仕掛ける。僕の脳裏には攻撃を受けて無様に痛みにうめいている女の姿が浮かんでいた。