閑話 春の朝の出来事。
春になったとはいえ、朝はまだ寒さが残り布団から出る気持ちを鈍らせる。そんな気持ちを押し込めて、リクはいつものように眼を醒ました。
すでに習慣となっている朝のジョギングを終えて、家の前に帰りつく頃には煙突から白い煙が立ち登り始めていた。
その光景を見て、疑問が浮かび上がる。しかし、すぐにその理由に思い当たったリクは笑顔を浮かべて家の中へ入って行った。
「おはようございます 、キースさん。」
「おう、おはよーさん。もうすぐ、朝飯が出来るぜ。手を洗ってきな。」
台所に立っていたキースさんへ挨拶をすると、笑顔で返してくれます。キースさんがお師匠様曰く、居候になってからもうすぐ一年が経ちます。
−−オカンだ、オカンがいる!
キースさんの言葉に、心のなかで叫びます。
「・・・・・リクゥ、なーに考えてるのかなぁ?」
「いひゃい、ひひゃいれす、ひーしゅひゃん!!」
額に青筋浮かべながら器用に笑うキースさんが、私のほっぺたを両手で引っ張ります。
「あっはっはっ、なーに言ってるかわかんねーな。」
「おきゃんっりぇ、おみょっちぇ、ぎょめんなひゃいっ!!」
「まだ、ゆーか。」
しばらくして、解放されたほっぺたはちょっと赤くなっていました。・・・本当の事を思っただけなのに。「・・・・もう、いっぺんしてやろーか。」
「お師匠様を起こしに行ってきます!」
身の危険を感じた私は、急いでその場から離れました。
お師匠様の部屋へノックをして入ります。まだ、お師匠様はこんもりと布団を被って眠っています。
「お師匠様、朝ですよ。」
「・・・・・・・・・・。」
返事が帰って来ません。
「お師匠様、起きて下さい!」
お師匠様の身体をユサユサと揺すりながら声をかけます。
「リクが“おししょーさま、大好き”って、言ったら起きるわ。」
「・・・・・・。」
何故でしょうか?ちょっと、イラッとしました。
「・・・わかりました、お師匠様。」
私の返答に布団の隙間から期待の眼差しを向けるお師匠様が見えます。私は、心からの笑顔を浮かべて、言葉にしました。
「今すぐにキースさんを呼んで、言って貰いましょうね。」
「ちょっとっ、まってぇぇっーー!!」
キースさんの名前を出して、さっさと呼びに行こうとする私をお師匠様は慌てて止めようとします。
「なんでっ?!なんでっ、普通そこはリクが言ってくれるんじゃないのっ?!」
「すみません、お師匠様。
私程度のお子様の小さな愛情では、きっとお師匠様の希望に答えられません。
ですので、すぐに大人な大きな愛情を持っているであろうキースさんを呼んできますね。」
慌てるお師匠様を見て多少の溜飲を下げる私でした。
多少時間はかかりましたが、眼を醒ましたお師匠様を含めてキースさんの用意してくれた朝食を食べます。しかし、なんだか二人の様子がおかしいです。特にお師匠様の方が、キースさんを警戒しているというか・・・・・、挙動不審な様子です。じーっと二人を観察している私に気がついたのか、お師匠様が声をかけてきます。
「じっーと、私を見てるリクも可愛い、じゃなくて、どうかしたの?」
食後のお茶を楽しみ始めている二人を見て、ある考えが頭をよぎりました。
「・・・お師匠様。」
「なーに、リク?」
「愛の告白でもされましたか?キースさんに。」
「・・・・・・・なっ?!」
「っ?!げほっ、ぐっっ。」
私の言葉にお師匠様は顔を真っ赤に染め上げます。逆にキースさんはタイミング良くお茶を口に含んでいたため、むせています。
「えっと、おめでとうございます?」
「ち、違うわっ!リクっ、勘違いしないでっっ!!
まだっ、そんな関係じゃ無いわっ!!」
「・・・・・まだ?」
「・・・・・・・・・・・・あ。」
お師匠様は私の言葉に慌てて否定しますが、どうやら墓穴を掘ってしまったようです。お師匠様を見るキースさんの目がマジになってます。
「・・・リーク。」
「お師匠様、キースさん。
私は良い子なので、お外で修行してきますね。」
「え?ちょっと、リク?」
マジな眼でお師匠様を狙いながら、私に退室を求めるキースさんの雰囲気を読み取ったので巻き込まれる前に退室することとします。退室する私を必死で呼び止めようとするお師匠様の悲痛な声など聞こえません。ええ、全く。・・・・・・・人の恋路に巻き込まれる事ほど、面倒くさい物は有りませんよね。




