5歳児と魔銃使いと伝えたい言葉。
「・・・どうやって村に戻ったかは覚えてねえ。
サリアの墓もあんな村に置いときたく無かったから別の場所へ移したんだ。それからは、死に場所求めてがむしゃらに冒険者を続けてた…。」
「・・・・・・。」
キースさんの過去を聴いて私は何と答えればいいのかわかりませんでした。同情することは簡単です。でも、それをすることはキースさんへ失礼な気がしました。
「おじょーちゃんに八つ当たりしたのは・・・、羨ましくて、そして嫉妬したんだ。」
「嫉妬ですか?」
初級魔法すら使えず、ひたすら修行をするしかない私の何処が羨ましいのかわかりません。
「…まったく発動すらしない魔法、才能以前のレベルの運動能力。普通、ここまで出来ないことにばかりだと多少はうちひしがれて諦めると思うぜ?」
「私も落ち込みましたよ?」
確かにあまりの才能のなさに情けなくて仕方がありませんでした。最初は、落ち込んでお師匠様を困らせてしまいました。
「だが、おじょーちゃんは自分の力で心を奮い立たせた。
発動すらしねえ魔法に対しても、何百回と失敗しても諦めねえ。
その姿があまりに真っ直ぐで、眩しくて、羨ましかった。
・・・そして、何も喪ったことが無さそうな顔で当たり前のように笑う姿に嫉妬したんだ。」
「私は、キースさんに羨ましいとか、嫉妬されるほど真っ直ぐなんかじゃないです。」
そう、いつだって迷ってばかりで、何度だって諦めそうになった。冷たくなっていくキースさんを前になにも出来なかった。
「・・・私が前を向けるのも、諦めないでいられるのもお師匠様とキースさんのお陰なんですよ。」
「破壊魔はわからんこともないが、俺もか?」
戸惑った様子のキースさんへ笑いながら言葉を続けます。
「お師匠様は、何があっても私を見捨てないと知っています。だから、安心して前を向くことができます。
キースさんは、私に美味しいご飯を作ってくれて、私を心配してくれます。
子どもらしく甘えていいんだと言ってくれます。・・・それが私は嬉しかった。」
私は本当に恵まれています。私を大切に想ってくれるお師匠様とキースさんに出会えたのだから。
そして、もうひとつ伝えたい想いがあります。
「・・・私は、マリンさんでは無いからもしかしたら違っているかもしれませんが・・・・・」
「おじょーちゃん?」
困惑した表情のキースさんへ言葉を重ねます。
「・・・・・真っ暗な森の中で独り取り残されてしまう。
お腹もすいて、悲しくて、怖くて、どうしようも無い気持ちになるんです。
暗い闇に"心"が押しつぶされそうになってしまう。」
「・・・・・。」
キースさんは、私の言葉を聴いて凄く痛そうな顔をします。その表情に罪悪感を感じながらも言葉を語ることを止めません。
「"どうして?"、"何で私なの?"。
弱い心に負けて、"世界"を、"人"を、そして"家族"を怨んで、憎んでしまいそうになる。」
「もういいっっ!!
やめてくれっ、もう、聴きたくねえっっ!!!」
耳を手でふさごうとするキースさんの右手を両手で握ります。目を硬く瞑り、顔を背け、震える手を弱い力でほどこうとします。
「・・・・・最後にはこう思うんです。
"もう一度、大切な人に会いたい"。」
私の言葉にキースさんは硬く瞑っていた目を見開きます。
「自分の中に誰かから確かに愛された記憶があるのならば、想ってくれている人を思い出すことが出来れば、きっと最後の死の瞬間を迎えたとしても、真っ黒な闇の中に心まで取り残されることは無いのだと私は信じたい・・・。」
"あの日"、私が心を黒く染めて、負の感情に負けることが無かったのは前世での家族に愛されていた事を思い出し、そして今生での家族が確かに私を想ってくれていた事を知っていたから・・・・・・。
「だから、マリンさんはきっとキースさんを怨んでも、憎んでもいません。
最後に想ったのは、"迎えに来てくれて"、"見つけてくれて"、"想ってくれて"・・・・・。」
私の頬へキースさんはゆっくりと微かに震えるその手を伸ばします。頬に触れたゴツゴツとしたその手に、私の小さな手を重ねて、その感触を確かめるように一度目を閉じ、再び開いた目をそらすことなく、最後の言葉を伝えます。
「"愛してくれて"、"ありがとう"、"おとうさん"。」
「・・・・・・・・・っっ!!」
その瞬間、キースの目に映ったのは黒髪に紫の瞳の幼い幼女ではなく、焦げ茶色の髪に青い瞳の笑顔の少女の幻影が重なった。
私の言葉を聴いたキースさんは、私を強く、強く、ひしとかき抱きました。私の肩に顔を埋め、苦しいくらいに抱きしめるキースさんの背中に私の小さな手を回しました。私の肩に落ちる熱い雫に気がつかない振りをして・・・・・。




