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異世界ナイチンゲールの奮闘記!!  作者: ぶるどっく
第二章 5歳児と魔銃(マガン)の冒険者編。
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キース・アズノルクと最悪な敵。

 いつも読んで頂きありがとうございます。

 今回の話しも、戦闘の場面が入ることになります。ですので、念のため苦手な方はご注意下さい。

《キース・アズノルク》


 獅子を思わさせる身体は赤い毛皮に覆われ、コウモリのような皮膜の翼、蠍さそりのような毒針が無数に生えた節のある長い尾、3列に並ぶ鋭い牙を持つ人面の様な頭を持った魔物。


 この魔の森において特に獰猛どうもうで危険な魔物である"マンティコア"であった。


 狩人の後ろからゆっくりと現れたそいつは、てめえの尻尾で殺した獲物に興味は無いとばかりに尻尾を振り払った。尻尾に串刺しになっていた狩人の身体は、その行為で貫いていた尻尾から解放されるが振り払われた先にある木にぶつかり、倒れ落ちたまま動かない。

「・・・・・っ、いや、うそでしょ・・・、いやぁぁぁぁーーーっっ!!!!!」

 おそらく絶命している様子の狩人の姿を見て、恐怖で混乱したのか魔法使いの女が悲鳴を上げてしまう。悲鳴を上げたことでマンティコアの注意を引いてしまい、そのたくましい四肢を持って魔法使いの女との距離をいっきに詰め、鋭い牙と爪の餌食にしようとした。

「テレサっ!!」

 戦士その2が助けに入ろうと、魔法使いの女の前で槍を構える。戦士その2が装備している槍程度ではマンティコアの牙も爪も防げないことは分かりきっているにもかかわらず、戦士その2は迷うことなくその身を投げ出した。

 俺は、両手に構えた魔銃で今にも2人に襲いかかろうとしているマンティコアの四肢を狙って、氷属性の効果のある弾丸を放つ。俺の攻撃を察知したマンティコアは素早い身のこなしで、攻撃を避けて2人からも距離を置き、俺への警戒を強める。

--くそっ、外れたか!

 マンティコアの厄介な点は幾つもあるが、その中でも敵の強さを測り、敵の弱点を探る事の出来る魔物の中でも有数の頭脳を持っている事だ。そんな厄介な相手に遭遇してしまったことに、己の不運を心の中で愚痴りながらも、どうやってこの状況を突破するか最善の方法を考え続ける。


「・・・・おい、お前ら走れるな?俺が今からこいつに隙を作る。

 それを合図に、てめえらは死ぬ気で森の出口に向かって走れっ!」

「あんたはっ、どうする気だっっ?!」

「てめえら守りながら戦う余裕はねぇんだよっ!分かったらさっさと準備しやがれっ!!」

 震える魔法使いの女を抱える戦士その2が、俺の言葉に叫び返す。1対1ならまだ勝機はあるが、こいつらを守りながら戦って勝てるほど生温い敵では無い。俺を挟んで2人の反対側にいる戦士その1も俺たちの方をちらちらと見ている。

 3人の準備が出来たと考え、俺を警戒して動かないマンティコアへまずは攻撃を開始する。

 数発の氷属性の弾丸を避けられることを予想して撃ち、マンティコアが回避する位置を予測してバースト弾を放つ。しかし、その身体の大きさに似合わない素早い身のこなしを前に俺の弾丸は擦る程度で致命傷には届かない。バースト弾を回避したマンティコアは俺の攻撃がやんだ一瞬の隙を狙って攻撃に転じる。奴が俺を目掛けて走ってくる様子に慌てることなく懐に持っていた"閃光"の効果がある弾丸を手に握る。

「走れっ!!」

 マンティコアから3人が背を向けたことを確認して、走ってくるマンティコアの足下へたたきつけるように閃光弾を投げつけた。俺の特製の閃光弾は、撃つだけでなく強い衝撃を与えることで撃った時と同様の効果を発揮する。辺りが視界を焼きつくすような眩しい光りに包まれるなか、視界を守るため腕で遮ろうとしてした俺が見たのは、光りを背中に受けながら俺に向かって剣を突きだして駆け寄ってくる"戦士その1"の姿だった。


 光りが収束していった場所に残されたのは、閃光弾をまともに喰らい視界を一時的に白く染められ怒りを湛えたマンティコアと、身体を赤く染め、腹部を押さえる手の隙間から少なくない血が滴り落ちている深い傷を負ったキースだけであった。


--あのくそったれがっっ!!!


 光りに包まれたあの時、戦士その1はキースに己の剣を突き刺し、そして引き抜いて行った。長年の冒険者としての経験の賜物か、直前に気がついたキースは致命傷だけは回避することに成功していたが、その傷は深く血が流れ落ち続け、決して楽観視できる物では無かった。その上、目の前には怒りを湛えたほとんど無傷と言ってもいいマンティコアがいる。


--・・・・・最悪な状況だな。畜生、あの野郎だけは見捨てりゃあ良かった。


 最悪な状況に己を追いやった元凶に、くたばりやがれと愚痴りながら生き残る方法を考え続ける。傷を負ったキースに、マンティコアは閃光弾のお返しだと言わんばかりに凶悪な爪や尻尾で攻撃を仕掛けてくる。傷の痛みに身体の動きが鈍りながらも攻撃を避け続けるが、全ての攻撃を避けることは叶わず右肩にマンティコアの爪で腹部よりはましな程度の裂傷を負う。

 やっとの思いでマンティコアより距離を取るも、背中に木の幹の感触を感じて自身がマンティコアに誘導されていたことに気がつく。

「うっわ、やっぱり、この手の魔物はすんげぇー嫌いだ、俺。」

 軽口をたたくように悪態をつくが、その額には脂汗が流れ、顔は強張っている。自分の考え通りに獲物キースの退路は絶たれたと考えたマンティコアは、止めを刺そうとゆっくりと近づいてくる。キースは、失血により震え始めた指先を何とか動かし、魔銃に新たな"弾丸"を込める。

 キースとの距離が2メートルほどを切ったマンティコアは、獲物キースの喉笛を噛み切ろうと一気に距離を詰め、跳びかかってきた。キースは、震える右手で魔銃を構え、十分にマンティコアを引きつけてから、凶悪な牙の並んだ大きな口目掛けて最後の弾丸を撃った。


 一瞬の攻防の末に生き残ったのは、"キース"であった。

 キースの撃った弾丸はマンティコアの口の中に命中した。それだけならば、マンティコアは最後の力でキースを道連れにしただろう。だが、キースの撃った弾丸は彼の奥の手の1つ"ライジングバースト弾"であった。その弾丸は、バースト弾の効果に雷属性を加えた物で着弾と同時に敵の身体に高威力の電撃を走らせる物であった。その威力は飛龍にすらダメージを与える代物であったため、マンティコアはその威力の前に倒れ伏したのであった。


 何とかマンティコアを倒したキースは安全な場所を求めて、数メートル先にある結界の中へ失血に伴い重く感じ始めた身体を引きずるように歩いて行く。キースが通った後には点々と血の跡が残り、結界の中に入り一番近くにあった大木に身を任せる頃には視界が霞み始めていた。段々黒く霞んで行くキースの視界には、焦げ茶色の髪を結った女の子の姿が幽かに映った。


「・・やっと・・・、会えたな・・・・・。

 マリン・・・・・、とうさ・・ん・・も・・・・・・」


 失血により意識が下がり始めたキースは、宙に視線を彷徨わせ、力を失い始めた言葉を最後に目を閉じて、完全に意識を手放した・・・・・。


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