キース・アズノルクと実力のない冒険者達その1。
「・・・リク、もうやめなさい。・・・・・もう、助からないわ。」
必死にキースさんへ声をかけながら、圧迫止血を続ける私の姿を見ていたお師匠様が囁くように、呟きました。
「・・・冒険者になってから何度も血を流し過ぎて死んでいく奴らを見てきたわ。
助けたくて、治癒魔法使いの所へ連れて行ったとしても無駄なのよ・・・・・。
治癒魔法は、怪我を直すことが出来たとしても、失った血を回復させることは出来ないのだからっ。」
お師匠様は、美しい顔に何の表情も浮かべることなく、その瞳にだけ諦めと失意を宿しています。
「・・・嫌です。目の前でまだ生きているのに諦めることなんて出来ません。」
「っっ!リクっ!!
無駄なのっ。その顔色になった奴はもう助からないわっ!
だって、死んでいった奴らはみんなそんな顔色だったものっ!!
・・・・・っ、割り切って・・・、諦めるしかないのよ。」
お師匠様は、悲痛な様子で叫ぶように諦めろと私を説得しようとします。
そんなお師匠様へ返そうとした私の言葉は声になる前に、キースさんの眼が微かに開いたことで別の言葉になりました。
「キースさん、わかりますか・・・?」
思った以上に小さく、震えた私の声はキースさんに届きました。
「・・・・・おじょーちゃん・・・か?」
帰ってきたキースさんの声も小さく、掠れていました。
《キース・アズノルク》
いつもより朝早く目覚めてしまった俺は、おじょーちゃんへどうやって謝ろうかと頭を悩ませていた。
--馬鹿正直に理由を言って、謝るのはぜってーに嫌なんだよなぁ・・・。
朝食を作りながら考えても、作り終わってから考え続けても答えがでねぇ。散歩でもしているうちに、何か良い考えが浮かぶだろうと適当な紙にメモを残して、長年愛用している魔銃や飛龍の皮で出来た防具を着けて家を出る。
朝の森は清々しい空気に満ちていて、ここが街では"魔の森"なんて呼ばれることを忘れちまいそうになる。あの破壊魔の結界のおかげでのんきに散歩なんざ出来るが、一歩結界の外に出ちまえば虎視眈々と己より弱い獲物を狙う魔物で溢れてやがる危険な場所だ。
俺は、結界の外に出ることなく目に付いたしっかりとした枝を広げている大樹の上に登り、朝早く起きちまった分を取り戻そうと枝の上に横になって眠り始めた。
どれくらい眠っちまったのか・・・、剣戟の微かな音と血の匂いで俺は眼を醒ました。
--ちっ、寝過ごしたな。
清々しい朝の空気に包まれていたはずの周囲は、すでに太陽が天辺に登り切り、周囲を燦々(さんさん)と照らしている。しかし、空の果てからは徐々に黒い雲が広がり始め、これから夜にかけて雨が降り始めることを予想させる。
--キンッ・・ガンッ、キンッ・・・キンッ。
微かに聞こえる剣戟の音は今なお続いている。
キースは右手で髪をクシャクシャと掻き混ぜ、ため息を付きながら剣戟のなる方へ気配を消して駆け出し始めた。
そして、結界の外にある目的の場所に着いたキースの視界には、まだ中堅になったばかりであろうと予想できる程度の、この場所には不釣り合いな実力しかない冒険者のパーティーと、彼らを襲っている魔物の群れであった。




