5歳児と目の前の命の危機。
この小説に書いている医療行為への描写は作者が調べて記載はしていますが間違った事も含む可能性があるため、全てを信じ無いようにお願いします。
自分の叫び声で、私は我に返りました。死にかけているキースさんを目の前にして呆然としている暇などありませんでした。
「キースさん、キースさん、私の声が聞こえますかっ?!」
怪我をしていない反対側の肩を叩きながら、すぐに意識レベルの確認を行います。
「キースさん、横になりますよっ。お師匠様も手伝って下さいっ!」
突然の私の行動に驚いているお師匠様を叱咤します。
「お師匠様、結界を張って下さい。これ以上、雨で体温を奪われる訳にはいきません!
身体が横になったら、キースさんの両足を心臓より高くなるように上げて下さいっ。
そのままの体勢に固定できるように足の下に何かを入れて下さいっ!!」
狼狽えながらも動き始めたお師匠様を横目に見ながら、私はキースさんの呼吸の確認を行います。少し弱く感じたため、気道確保を行います。次に、橈骨動脈、頸動脈の順番で脈を確認していきます。
「(頭部受傷の痕跡は無し、意識レベルは痛み刺激にほとんど反応無し、気道確保済み、橈骨は弱いけど頸動脈はまだ触れるわね。)」
キースさんの状態を把握しながら、私は身体を休めることなく動かし続け、次に受傷部位の確認をしていきます。目立った外傷は2カ所、右肩と左側腹部(脇腹の辺り)です。右肩の方は出血は止まっている様子ですので、注意を腹部に戻します。左腹部からはまだじわじわと出血が見られています。おそらく、意識を失うまでは自身で止血を行っていたのでしょう。私はすぐに自分が身につけていた外套を脱ぐとキースさんの服の上から圧迫止血を開始します。
受傷部位をある程度確認した時点では、おそらく位置的には腹部の中にある大きな動脈を傷つけている可能性は低いと思います。しかし、傷の角度によっては可能性が無い訳ではありません。キースさんの出血している状況や血液の色から判断すれば静脈性だと思いますが・・・。もしかしたら、少し大きめの静脈をかすったのかもしれません。
動脈性の出血の場合は拍動性に勢いよく出血します。拍動性というのは心臓の動きに合わせた様子のことです。また、静脈血に比べて酸素を多く含むために血液の色は鮮やかな鮮紅色です。
キースさんの場合は、拍動性ではなくじわじわした様子で出血しています。色も、鮮やかとは言えません。
キースさんの状況は決して楽観しできる物ではありませんでした。おそらく失血性のショック状態に落ちっています。
外傷(身体の外側から受けた傷のこと)を受けた患者さんにとって、受傷後に早く治療を受けることが明暗を分けます。この治療とは、止血、ショック症状からの改善、感染予防や損傷の修復を指します。ですから、医師や看護師に最優先に求められるのは、バイタルサイン(生命の兆候、体温、脈拍、血圧、呼吸回数など)を脅かしている原因をいち早く認識して、呼吸状態や循環動態(心臓の動きや血液量)を維持しながら、止血を行い、点滴管理(点滴の投与量や投与する速度の管理)によって循環動態管理していき、脳などの重要な臓器へのダメージを最小にすることです。
そして失血性ショック状態とは、出血によって体内の血液量が低下して身体に巡り、供給されるはずだった酸素が低下してしまい、身体の機能を維持できなくなってしまう状態の事です。症状としては、血液量が低下した事による血圧の低下や、重篤な状態では臓器の機能を維持できなくなる事などがあげられます。
もし、ここが現代日本の病院であれば、すぐに点滴の針を刺して、点滴の通り道を確保します。確保すればすぐに点滴を開始して、血圧に合わせて投与速度を調節していき、昇圧剤(血圧を上げる薬)や失った血を補充するために輸血を開始します。それに並行して、採血、レントゲンやCTなど各種検査を行っていきます。
命の危機にあるキースさんを前にして、私は現代日本でならば当たり前にもっと出来ることがあるのに、今の私に出来ることは血圧を少しでも維持するために足を上げ、ひたすら圧迫止血することだけです。出来ることがあるのに、手段を知っているのに、実行することすら出来ない状況に私は苛立ちを隠せ無いのでした。
いつも読んで頂きありがとうございます。
やっと、20話以上を過ぎてやっと看護師らしいことを語らせることが出来ました。第2章のクライマックスに向けて頑張っていきます。
温かい眼の見守って頂けると幸いです。




