5歳児とお師匠様その3。
心に覚悟を決めた私は、いつものように自分の知識を紙に書き記しはじめました。この作業は、ペンが握れるようになった時より行っています。忘れたくなくても、忘れてしまうのが人間です。これが将来少しでも役に立つと良いんですが…。もっとも、他の人には子供の書いた日本語は落書きにしか見えないと思いますけれど…。
まだ幼い私ですが、私の仕事は多岐にわたります。
まずは、お師匠様のお世話、食事の準備、簡単なお掃除、お洗濯、小さな畑の管理、そしてお師匠様のお世話です。
…お師匠様のお世話を2回言ったのは間違いじゃないです。お師匠様は、放っておくと魔法の研究に没頭してしまい、面倒だとばかりにおつまみとお酒しか飲みません。ただ単にお酒が好きだというのもあるのでしょうが・・・。お師匠様は今までどんな生活を送ってきたのか疑問に思いますが、あえて聞きたくありません・・・。
そんなことを考えながら知識を書きまとめ、時間は過ぎていきました。そろそろ洗濯物を取り込もうと、お師匠様に声をかけに行きます。
「お師匠様、少しお外で洗濯物を取り込んできます。」
自室にいるお師匠様にノックをしてからドアを開けて、分厚い魔導書を読んでいるその背中に声をかけました。
「わかったわ。でも、あまり外に居ちゃだめよ。あたしのかわいいリクを誰が狙ってるか分かんないんだから。」
魔導書から目を離し、振り向いて答えるお師匠様。私を見て黙り込んだかと思えば、急に顔を曇らせ始める。
「・・・あぁ、なんだか不安になってきた。
きっと外にはリクの可愛さを風の噂に聞いて一目見ようと企む野郎どもでいっぱいに決まってるわっ!!
そしてっ、可愛さに眼が眩んで泣いて、怯えるリクを無理矢理連れ去ろうとするんだわっ。
泣いて、怯えるリクもかわいい、じゃなくってっ、待っててね、リク。
貴女の頼りになるおししょーさまが、貴女を狙う糞ヤロー、ゴホン、不届き者を成敗してくるからっ。」
両手を握り締め、立ち上がるお師匠様へ私は慌てず、騒がず笑顔で答えます。
「そんな事はしなくていいので自分の部屋くらい掃除して下さい、お師匠様。」
…このお師匠様の言動はいつものことで、私が外に出るときのお約束なんですよ(遠い目)。
お師匠様の言葉を最後まで聞かずに、ドアを閉めて退室します。
「…ぐすん、リクが冷たいよぉ。でも、冷たいリクもかわいい…。 」
外に向かう私の背中に聞こえた声は気のせいでしょう。ええ、絶対に。
外に出ると太陽の光は陰りはじめていました。
私は専用の木箱の上に立ち上がり、洗濯物を取り込んでいきます。私が持ち上げることが出来る大きさかごはすぐに洗濯物で一杯になりました。
ですが、二人だけの洗濯物は多くなくてそのかごで十分なんです。
洗濯物で一杯になったかごを持ち上げようとした時、“ザリッ”と足音がしました。お師匠様家と思って振り向くと、見覚えない男性が立っていたのでした。




