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 ハナダさんとセイランを護衛に加えてファイウェンから出発した。フラウ方面から魔獣が移動しているのか、行きよりも多く魔獣に遭遇する。


水渦すいか


 ブラッドピジョン(吸血ハト)の群れにセイランが魔法を放つ。攻撃を仕掛けようと降下体勢に入っていたブラッドピジョンが、次々と水で出来た竜巻の中で溺れて地面へと落ちて行く。

 セイランは自らのドラゴンに乗って攻撃しているのだが、そのドラゴンは東洋の竜そのものだった。


「さすがセイランね。そこの小娘、さっさと止めを刺して回収なさい。」


 中身が小姑だってところが残念だ。


 ブラッドピジョンは、肝が薬の材料となるが肉は食用に適さないので、肝のみ回収して本体はガイツさんが焼いた。


「ミイコちゃん、俺頑張ったからほめて〜。さすがに大技は疲れるよ。」


 たしかに50羽の群れを一気に落下させたんだからすごいんだけど、褒めてって言われると褒めたくない。


「お疲れ様です。」


「小娘。セイランが気に入ってるのが癪なうえに、態度が生意気よ。」


 この主従、うざい。


「うざいってなによ。」


 ……心の言葉が思わず口にでていたらしい。


「ミィをいじめるな!」


 ホウも入ってきて険悪になってきたからか、弓に『変現へんげん』していたクレオが仲裁に入ってくれた。


「ミイコ、大変だな。フラウまでの辛抱だけど、あんまりひどい様ならビル師匠かうちの兄貴を頼れよ。」


 ローナの言葉に、ビルさんに相談してみようかと思った。でも、セイランは言葉がうっとおしいだけで、最初のときよりはましになったからいいんだ。だけど、セイランのドラゴンのアマネがいちいち突っかかってくるのがなぁ。……とりあえずフラウまでだ、気にしない事にしよう。



 そんなこんなで、フラウまであと1日というところまで来た。どこから湧いてくるんだというほど魔獣に襲われるため、当初よりフラウへの到着に時間がかかっている。サオリさんが心配してそうだ。

 ここから先は立ち入り禁止の山に近いため、先に進まず今日は早めに野営する事になった。


 

 ものすごく嫌な予感がする。


 大きな動物がこちらに向かって来ている気配がある。気のせいであってほしいほど大きい。


「ビルさん。」


 おもわず声が震える。


「お嬢ちゃん、気をしっかり持ちなさい。メリダも気づいて教えてくれたが、おそらくこれから来る魔獣は、黒ランクに指定されているビッグロックボアだろう。あの山の主と言われている魔獣だ。

 普段は山から一切降りてこないんだが、祝福が近いからか…」


 ビルさんが全員に戦闘体勢をとるよう指示する。ガイツさんは商会の馬車を守るため、いつもはしない詠唱をして結界を張る。


『根源の焰よ あまねく光よ 守護を乞う 我らに情けを与えん 焰竜えんりゅう


 周囲から光が集まり炎で出来たドラゴンが現れる、そのドラゴンは馬車を懐にかかえこみ、羽を広げて卵を暖めるかの様に守護する。


 そして…大岩のようなイノシシが現れた。


 10tトラックが迫ってくる感じだ、大きすぎてどこから攻撃すればいいのか迷ってしまった。


「ミイコ、あぶない」


風矢ふうし


水壁すいへき


 眼前に迫ったビッグロックボアに死を感じた刹那、水で出来た厚い壁が目の前に現れた。さらに、テレスティナさんの放った矢によってビッグロックボアの突進力が弱まったため、私は衝撃波に飛ばされただけですんだ。


 素早く受け身をとり、体勢を整える。


 岩の様な体表に炎と風の刃ではダメージを与える事が出来そうにない。覚えたての『水刃すいじん』を使う事にした。


『水よ集まりて我が爪となれ、水刃』


 ガントレットの先に2本の水で出来た爪が出来る。私はビッグロックボアの横から腹部を狙って突く。


 ローナとビルさんは攻撃に合わせて鎚で後ろ足を狙い、ビッグロックボアの転倒を狙っているようだ。


 テレスティナさんとセイランは魔法で顔を重点的に攻撃して私たちのフォローをしてくれている。


 その他の面々も皮膚の柔らかい所を探してダメージを与えていく。


 何十分戦っていただろうか、ハナダさんの槍が深々と入った瞬間、やっと動きを止め、ドラゴン達が死したビッグロックボアの魂を食べる。


 再び、脳内に声が聞こえる。


『汝の頑張りを祝して、ヴルカに祝福を与えん』


 その言葉が終わると、地揺れがした。何事かと周りを見渡すと、ビルさんが山を指差している。


 山から、噴火の様に赤い光が吹き出していた。その光は意思を持っているかの様に大陸すべてへ降り注ごうとしていた。


「やはり祝福だったようだな。魔獣の移動もうなずける。」


 ビルさんは知っていると言っていたが、やはり分かっていたようだ。


「なぜ、祝福だと魔獣が移動するんですか?」


「山では命を脅かされるほどの炎の気が流れるからだよ。弱い魔獣は敏感だから遠くまで逃げてたんだろう。ビッグロックボアは、いよいよ祝福があるから直撃をさける為に山を降りたところを、運悪く私たちが出会ったんだろうね。」


 不思議な事に赤い光をあびた私たちは、先ほどの戦闘で出来た傷が塞がっていく。


「これが祝福ですか。昔話で聞いた事があるだけで、本当の話だとは思ってませんでした。土地を豊かにして、病を癒す光か…すごいな。」


 ロイドさんが感嘆の声をあげている。


「そういえば、ヴェントでも数年前に祝福があった。同じくその国を象徴する湖から青い光が放たれたそうだ。」


 ハナダさんがヴェントの祝福について語った。ヴェントにも私と同じ様な人が居るんだろうか。

 

 そして、ハナダさんを見て思い出した。


「セイラン、ありがとう。『水壁』がなければ私は死んでいたかもしれない。」


「ミイコちゃんが無事で良かったよ。アマネが気づいてくれてなければ間に合わなかったかもしれないと思うと俺は……」


 セイランが言葉をつまらせた、何を言おうとしたんだろう。


 それにしてもセイランとアマネには命を助けられた、この恩はいつか返そう。これでお付き合いは相手に失礼だからしないが。


 アマネにお礼を言うため周囲を探す。


「ホウが少し大きくなってる。」


 50センチくらいだったホウが2倍の大きさになっていたので、思わず声を上げてしまう。


「ミィ、レベルアップおめでとう。さっきはミィが居なくなるのかと思ってヒヤヒヤしたよ。僕からもアマネにお礼を言っていたんだ。」


 言葉づかいも成長したようだ。


「小娘の為に助けたわけではないわよ。セイランが悲しむから声をかけたのよ。」


「それでも助かったよ。ありがとう。」


「ふん。その素直なところは嫌いじゃないわ。」


 相変わらず可愛げの無いアマネだが、主のために嫌いな女を助ける純粋なところが微笑ましく思える。



 その後は皆の無事を確認し、お互いの健闘をたたえあった。


 ガイツさんの魔法について聞いてみたところ、あれがヴルカのドラゴンの固有魔法の一種だそうだ。


 その日は、そのまま野営して次の日にフランへと戻った。



「兄貴、今日ってお祭りの日だったっけ?」


「酒祭りも菓子祭りも1月以上先だな。」


 フランの町はお祭り騒ぎでした。屋台が出て、町が花で飾り付けられいる。私たちは、何が起こっているのか分からないまま商会の人と別れてギルドに向かう。

 ギルドに入った私たちを見てサオリさんが駆けつける。


「皆よかった無事で。山に探索に出てた人達が数名、ビッグロックボアにやられたのよ。」


「俺たちもビッグロックボアに遭ってさ、なんとか全員で倒したよ。」


 そうか…山に行った人達に被害が出たんだ、ビルさん達の仲間じゃないといいんだけど。


「それで、町はなんでお祭り騒ぎなんだ?」


「それは、祝福があったからよ。昔から祝福があると、盛大にお祝いをするんだそうよ。今日は酒場も菓子屋も無料だって!!」


 菓子屋がタダだと…良い事を聞いた。さっそく行かないとなぁ。ニマニマしているとサオリさんにほっぺたを引っ張られる。


「ひゃんですか?」


「ミイコちゃん、菓子屋に行きたいのはわかるけど。先に赤熊亭に顔を出しなさい。予定よりも帰りが遅れてたでしょ。おかみさん達が心配してたわよ。」


 その言葉を聞いて、胸が暖かくなる。


 私たちはカードの更新は明日にして、それぞれの宿に戻り、いつもの様にレッドベアへ集まる事にした。


 赤熊亭に着くと、おかみさんに抱きつかれた。その暖かさに目が潤む。改めて生きててよかったと思った。


 レッドベアに行くと、親父さんが無事の帰還祝いだといって、日頃出さないお酒を出して来た。料理も、高めの食材であるフォレストディアの一番美味しいところを、ステーキにした物を出してくれた。とても柔らかくて、臭みのないお肉と絶品のソースに舌鼓をうつ。

 ローナと私は飲まないので、デザートを食べに近くの菓子屋へ行く。ザッハトルテのようなケーキを選んで食べる。中に入っているベリー系のソースが味にアクセントが出てて満足した。


 レッドベアの食事会にはもちろんセイランとハナダさんの兄弟も参加した。ファイウェンから出発する時はどうなることかと思ったけど、死闘を潜り抜け結束が固まった気がする。


読んで頂きありがとうございます。

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