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すこし間に合わなかった
海の香りがする。窓を開けると、夜が明ける前なのに外はすでに人の気配がした。近海では漁が出来ると言っていたから漁師達が海に出ているか戻っているのだろう。
いつものように、鍛錬に向かう。今日はビルさんだけでなく、ロイドさんやメリダさん、そして無理矢理起こされたようなローナが居た。
「おはようございます。」
「うぅ〜ねむい・・・今日くらい寝かせて」
ローナは器用に立ったまま寝始めた。
ぼかっ
「おはよう、ミイコちゃん。・・・ローナ起きろ!ったく、ビルさんに教わるから起こしてほしいって言ったのはお前だろう。」
「ははは、少し寝かせてあげるといい。15歳じゃ今回の依頼は辛かったろう。ミイコちゃんも体は大丈夫かい?」
ローナはロイドさんのげんこつを受けても寝ている。私よりも体が大きいから忘れそうになるけど、日本だと中学生の歳なんだよなぁ。私が中学生の頃なんて、自立して生活しようなんて考えてなかったよ。後で、オヤツでも買ってあげるか。
体調は万全だと伝えて、ローナをのぞいた4人で鍛錬することになった。この前の言葉どおりにメリダさんからしっかりとご指導頂きました・・・体が久しぶりに悲鳴をあげている。
午後からはファイウェンの町を観光する事になったが、ローナは案の定ビルさんとの鍛錬になり、涙目になっていた。お土産買って来てあげるから。
メリダさんに案内してもらいながら、屋台でイカのゲソの様なクラケミッソラ焼きを食べたり、海で採れる珊瑚などで作られたアクセサリーなどを見る。
「お嬢ちゃん、このアクセサリーは水の加護がついていてね、水属性の魔法の補助をしてくれるんだよ。水の属性値が低いこの大陸では持ってても損の無いものだよ。」
お店のおじさんが、興味が惹かれる言葉をかけてくる。ホウに本当のことを言っているのか確かめてもらう。
「たしかに水のかごがついてるね。あっあれがいいかも。」
ホウが言ったのは、珊瑚で羽を模した飾りに真珠が付いたピアスで、立派なわりには値段が安いものだった。
「あれは見習いが作ったものなんだよ、効果は保証できないがそれでいいのかい?」
おじさんはそう言ったが、ホウが良いと言うのでそれを買うことにした。後は頑張っているローナにお菓子を買うため、ファイウェンで人気の菓子屋に向かう。
どんっ
「すみません。」
振り返った時に、後ろに居た人の胸にぶつかった。慌てて謝って顔を見上げる。そこに居たのは、水色の長髪を背中に垂らした美青年だった。
「大丈夫か?気にしないでいい、私も不注意だった。」
その美青年は、私の頭をなでて去っていった。
「おや、めずらしいね。マーマンだ。」
メリダさんが、ヴァンサ大陸に居る種族だと教えてくれた。ヴルカ大陸とは相性が悪いため、あまり見かけないそうだ。おそらく、たまたまこの地に来てた時に海が渡れなくなったんだろうと言っていた。
宿に戻ると、ローナが疲れ切っていた。お土産の人気店のお菓子をあげると、元気になるんだから現金なものだけど。
さっそく部屋に戻って、ピアスを付け替える。
「このアクセサリーやっぱりすごいね。『水刃』が使えるようになったよ。」
どういう原理かわからないが、水属性の刃を覚える事が出来た。
ホウにピアスを付けると付けないでは、どのくらい違うのか聞いてみると、水属性の消費量が半分くらい節約できるらしい。他のアクセサリーはそこまで効能が高くなかったそうで、これを作った人は見習いでも精霊に愛された天才に違いないとのことだった。本当に良い買い物したな。
残りの2日間で、ガイツさんに教わりながら『水刃』をものにした。ピアスの効果も試してみたら、威力も2倍くらい違う。ピアスが無いと『水刃』は弱すぎて使えたものでは無かった。
空いている時間で、町に出てミッソやミッソラを購入して野営用に持ち歩く事に決めた。ビルさんもガイツさんが収納魔法を使えるので、この町にくるたびに買い足しているそうだ。ミッソラは万能調味料だもんね。
携帯用の粉末だし(魚を干したものらしい)も買ったので、ぜひともロイドさんに役立ててもらおう。
楽しい日々はすぐ過ぎるもので、もうフラウへ帰る日となった。皆と集合場所に向かって、こちらの町で合流する冒険者を待つ。
「この町で合流する冒険者は、マーマンの魔法士と槍を使う者の2名だそうだよ。」
ビルさんから、加わる冒険者の話を聞く。マーマンと聞いて、先日のアクセサリー屋でぶつかった美青年を思い出した。
「マーマンなのか、フラウはここより水属性が薄くなるが大丈夫かのう?」
「俺もマーマンを知らない訳ではないですが、そんなに土地の属性に左右される種族なんですか?」
ガイツさんの一言にロイドさんが質問をなげかける。
「わしもそこまで詳しくはないんじゃが、マーマンは水属性が少ない場所だと体調不良になるとマーマンから聞いた事があってのう。特にヴルカ大陸は水属性が極端に少ないから、ファイウェンですら体が辛いといっておったのだよ。」
ガイツさんの説明を聞いて、マーマンはなんとも難儀な種族だと思った。マーマンだから人魚だよな・・・確かに水が無いと生きていけなさそうだけど。
そんなことを思っていたら、視線の先に先日ぶつかった美青年が居た。この前遭った時と雰囲気が違う気がしたが、気のせいだろう。
「お待たせしてます。もう一人もすぐ来ますんで。俺はセイランで魔法士です。」
ビルさんが、私たちを紹介して行く。・・・やっぱりなんか引っかかる。そして、セイランが私をすごい見つめているんだけど。
「なんでしょうか?」
「ミイコちゃんは、この大陸の魔法士なんだろ。小さいのに頑張ってるなぁって思ってね。」
またか、またこの話なのか。
「ありがとうございます。でも酒も飲める大人なので、ほめられることでも無いですよ。」
「そうなの?・・・へぇ、いいなぁ、ますます俺の好みだ。ミイコちゃん俺とつき合わない?」
すごく慣れ慣れしく肩を抱いてきた。これから旅をする仲間だけど、殴っていいかな?
「ミィにちかづくな、変なひと」
私が殴る前に、ホウがセイランの頭をカジカジしだす。あまり痛くないみたいでセイランは笑ってるから腹立たしい。
「セイラン、やめろ」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると、セイランと同じ顔がある。
「ハナダおそいよ〜。俺は運命の出会いをしたとこなんだ、邪魔するなよ。」
ハナダと呼ばれた彼に目線で聞かれた気がするので、意思表示をする。
「私は、軽い人は嫌いなんです。肩の手をどけてくれませんか?」
「嫌だった?怒った顔も可愛いなぁ。まぁ先も長いし、これからよろしく。」
やっぱり殴ろう、しつこそうだし。それに、よろしくしたくない。
アッパーを入れたら、逃げるかと思ったら普通に入ったので、私がびっくりして慌ててしまった。
「そいつは魔法しか使えないんだ。でも、いい薬になっただろう。兄である私が代わりに謝る。すまない。」
セイランとハナダさんは双子だったようで、ハナダが槍を使うとのことだった。先日会ったのはハナダさんの方だったらしい。セイランと違って、大人で頼りがいがありそうだ。それにしても、ローナを見て固まっていたけど大丈夫かな?
色々あったけど、新しい仲間を加えてフラウに帰る。ほんの少し離れただけだけど、赤熊亭のおかみさん達とサオリさんに会うのが待ち遠しい。
新しい仲間です。詳しいことはきっと次でわかるはず。