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ぎりぎり間に合った
山が立ち入り禁止になったので、この機会に護衛の依頼を受ける事にした。この町より東にある港町ファイウェンへ向かう商会の護衛で、帰りも含めて2週間の旅になる。
これで一通りの依頼を経験した事になるため、この町に戻ったら今後どうするか決める事となった。
依頼当日の朝、赤熊亭の親父さん達からの気合いの入った大量のお弁当を受け取り、おかみさんから『忘れ物は無いか、お菓子をくれるからと行って知らない人に付いて行かないように』と恥ずかしいお見送りをうけ、集合場所へ向かった。
おかみさんの姿に母親を思い出して少し涙が出てくる、今になってホームシックが出てくるなんて・・・。頭を振って気持ちを切り替え、依頼に思いを馳せる事にした。
集合場所に向かうと意外な人物がいて驚いた。
「ビルさんもこの依頼を受けているんですか?」
ビルさんは毎朝の鍛錬の時によく会うおじさんだ。
「お嬢ちゃん達が今回の助っ人なんだね。わしらは、この商会の専属護衛をしているんだよ。いつものメンバーが、例のワイルドボアの調査に駆り出されてね。」
上級冒険者が必要な護衛って、私たちで大丈夫なんだろうか。
顔に出てたみたいで、護衛といっても行きの道中は荷も少ないので、魔獣にも盗賊にも襲われることは少ないだろうと話してくれた。帰りは向こうで冒険者を追加するそうだ。
「これで、全員揃ったかな。わしはビルで、左からメリダ、ガイツだ。年寄りばかりだが、茶の冒険者で経験だけは豊富だからよろしくしておくれ。」
ビルさんがどうやらリーダーのようで、年寄りと言っていたが、茶の冒険者と聞いて納得した。朝の鍛錬の時の動きが年齢を感じさせないんだよね。
「俺がロイドで緑の冒険者です。隣のテレスティナも緑になります。ローナとミイコは白の冒険者で、初の護衛任務につきます。ご指導ご鞭撻の程、お願い致します。」
ロイドさんが丁寧な言葉で挨拶をしている。当たり前のことなんだが、おもわず意外だと思ってしまった。・・・失礼な事を考えていたのがばれたのか、ロイドさんから刺さる様な視線がきた。やばい、やばい。
商会の責任者のラジアスさんにも顔見せをしてから、ビルさん達と打ち合わせをして出発した。
2台の馬車の前をビルさん達、後ろをロイドさん達が護衛しながら歩く。私は、索敵能力が高いので、ビルさん達の方に加わることになった。
道中は話に聞いていたとおり、和やかなものだった。休憩中にビルさん達と友好を深めながら、護衛のノウハウを学んでいく。
ガイツさんが魔法士で野営の時に結界を張ってくれるのだが、鬼火のようなものが周りに飛んでいるもので少し怖かった。護衛のときは結界を張れる魔法士が居るかどうかで難易度が変わるそうで、結界があるだけで見張り番がいらないらしい。今回は通常の護衛の練習もかねて見張り番を置く事になった。
私はメリダさんと見張り番になった。メリダさんも私と同じ斥候タイプの両手剣使いだ。
「ミイコちゃんは、ビルから聞いたけど18歳なのね。可愛いから、おばあちゃん心配になるわ。しっかり鍛えてあげるから変な男がいたら躊躇無く叩きのめすのよ。」
「ホウも、ミィがへんなのに引っかからないよう気をつけるね。」
「いい護衛がついているじゃないの。ホウくんも気をつけてあげてね。」
ホウにまで言われる程、私はそんなに頼りないだろうか・・・。
何故かファイウェンに付いたら、メリダさんからご指導を頂くことになっていた。そして、ガイツさんも魔法をいろいろ見せてくれることになった。
ローナにぼやいたら。
「ミイコはおじちゃん、おばちゃんに可愛がられるよな。ありがたく受け取っとけば。わたしはファイウェンで美味しいもの食べるんだ。」
腹がたったので、ビルさんにローナが鎚の使い方を学びたいと言っていたと話しておいた。仲良く鍛錬しようじゃないか!!嘘は言ってないもんね、ローナにビルさんの話をした時に教わりたいって言ってたから。
そんなこんなで、ファイウェンにつく2つ前の村に着きそうなころ、異変があった。
「ビルさん、多数の中型の動物が集団でやってきます。かなりの早さなのですぐ現れます。」
ビルさんはメリダさんとガイツさんに商会と共に村へ向かう様に指示し、私たちは迎撃の準備をする。
緑の狼の群れが現れたフォレストウルフだ、通常は2頭くらいで現れるのだが、今は10頭ほどいた。
私とテレスティナさんで、『風刃』を放つ。私は片手ずつに1刃しか出せないので、2頭しか相手に出来ない。素早くナイフも投げて、8頭に傷を与える事ができた。私は続けて『炎刃』を詠唱して、向かって来たフォレストウルフに致命傷を与えて行く。余裕が無いので、毛皮が駄目になる部分も出るが首を狙って刃を入れる。
私とローナが1頭ずつを相手している間に、ロイドさんが3頭の首を落とし、ビルさんが無傷の1頭を含めた3頭を鎚を振って倒し、テレスティナさんが『風矢』で2頭倒していた。
「お嬢ちゃんありがとう、早く気づいてもらったから対策が立てやすかったよ。良い能力だね、お嬢ちゃんの持ち味だ更に鍛えるんだよ。」
頭をなでられて、うれしくなった。お父さんを思い出して、また泣きそうになる。まだ、気を抜く訳にはいけないのでこらえた。
「それにしてもフォレストウルフが群れで移動するとは。・・・ビルさん、やはり山の異変が関係あるんですかね。」
ロイドさんが、ビルさんに問いかける。ビルさんは少し笑って答えた。
「わしは長生きしているんで、小さい頃に同じことがあったのを覚えているが、100歳未満のものはわからないかもなぁ。まぁ、山の調査が終わればわかるよ。」
そういえば、ドワーフの寿命は200歳だって言ってたな。これも、例の大陸が消えてたことに関係あるんだろうか。私はホウをみつめた。
「ミィ、しんぱいしなくていいよ。負はきえてこれからは、正のほうこうへ進んでいくんだよ。」
ホウは分かっているようだ。悪い事じゃなければいいんだ。少しずつだけど知り合いも増えて、この大陸が消えると哀しいしね。
村へ着くと、村長があわててやって来た。ビルさんがフォレストウルフをすでに討伐した事を告げて、数がおおいので回収に人手が欲しい事を伝えた。
回収したフォレストウルフは村で買い取ってもらい、回収の手数料を抜いて金1枚になった。本当はもっとするのだが、村はそこまで買い取れないそうなので宿代と食事代をタダにしてくれた。
その後は何も無く、ファイウェンに着いた。
ファイウェンで3日休みをとってから、私たちが居た町フラウに戻る事になる。ビルさん達の常宿を紹介してもらい、おすすめの食堂に食べに行く事になった。
「ここの町は、隣のヴァンサ大陸の料理も入って来ているんだ。フラウでは食べれない味だぞ。」
なぜか、ロイドさんが興奮して話してくれた。さすが、パーティーの料理担当。
今回は涙を誘うことばかりらしい、懐かしい味の料理が出て来た。
「これは、ミッソとミッソラという調味料を使った料理なんだよ。ミッソ汁とアコウタリという魚をミッソラと酒と糖で煮込んだ料理でタリ煮だ。
本当なら、ヴァンサ米と呼ばれるものがあるんだが、ここ何年も海が渡れなくてなぁ。良い酒もあったんだがなぁ・・・。
このミッソはヴァンサミッソを参考にして、この辺で栽培している麦で作ったものなんだよ。」
ビルさんの言葉に、私のレベルが上がればなんとかなるかもと淡い期待を抱く。米はぜったい欲しくなる。
麦でつくったミッソのミッソ汁は、出汁も効いていて独特の甘味があり、私の母が西の人だったからか懐かしい味だった。
アコウタリ煮も味がしっかりついていて、ほっくりしていた。やはり、残念なのは米がないことだ。
食事を堪能して満足した私たちは、宿に戻ってここ数日の疲れを癒すのだった。
今回はミイコがちょっと落ち着いたからなのかホームシックです。