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『ホウ…ごめん忘れてた』
私が呼びかけるとブレスレットに戻っていたホウが光り、側へドラゴンの姿で現れた。
「ミィ…最近僕のこと都合のいい武器だとしか思ってないんじゃない? やっと一緒に戦えてるのにさ……。あんまりひどいと家出するよ。」
見上げる位置にある顔は見え辛いんだけど、爬虫類のような縦長の瞳孔のある目を細めて冷ややかに笑っている気がする。
「ごめんっ。ホウは心の支えだよ、離れたら(たぶん)生きて行けないよ。」
私はそういってホウに抱きつき、羽に顔をうずめモフモフする。体は爬虫類の様な皮膚なのになぜか羽だけ羽毛っぽいんだよねぇ。
「…なんか余分な物がついている気がするけど、今回は許すよ。次はないからね。ーーーで、君はついてくる気なの?」
ホウは例のヒッポグリフについて、やや不機嫌そうに問いかけた。その言葉を理解しているのかヒッポグリフは首を縦に振るのだが、その動作にホウは何故か不機嫌さを増した。
「だんまりね……。あざとい気がするけど? まさか、あまりの長さに言葉でも忘れた?」
ホウはヒッポグリフについて見知っているようだけど、ヒッポグリフは首を傾げただけだった。
「まっいいけど。ミィ、遺跡に戻ってごらん面白い物が見られるよ。」
質問は受け付けないという感じで、ホウは再びブレスレットに戻った。ヒッポグリフを見つめて、どちらともなくため息がこぼれる。
「……とりあえず、行くかい?」
ここでずっと突っ立っていても問題は解決しないので、ホウの言葉に従ってもう一度遺跡に向かう事にした。
「う…そ……」
私の目の前に広がっていたのは、ギリシャ神殿のようだった建物の天井が落ちて元の形がすっかり解らなくなった遺跡と、開けた空間だった場所が木の侵食ですっかり薄暗くなっているという、ほんの数時間前まで居た場所とは思えないほど様相を変えていた。
「とっておきの狩場だったんだけどねぇ。その子が関係あるのかね。」
「なんか申し訳ない気がします。」
「ミイコちゃんが気にすることじゃない。今まで多少なりともダンジョンとして機能してたほうがおかしいのさ。」
少し離れた位置にいるヒッポグリフを見つめながら、メリダさんの言葉にホウがこの遺跡が生きていると言っていたのはこのことなのかと思っていると、ヒッポグリフが近づいてきた。
敵対心はなさそうとは言え、先ほどまで距離を置いていたのに行動を起こしたのだ、一挙一動逃さないと見つめていると私の後ろに回り……。
「ぎゃっ…………うわっ。」
しゃがんだかと思うと私が避けるより早く、私のお尻を頭で突き上げて空へと放り器用に背中へと乗せたのだ。そしてここには用はないと教えてもいないのに村へと歩をすすめ始めた。
「ちょいと置いておかないでくれないかい。」
メリダさんががちで走りながら追いついてきたので、ヒッポグリフの毛を掴みながら止まるようお願いしてなんとか止まってくれた。
「はぁ、年寄りには優しくしておくれよ。」
ヒッポグリフはそんなメリダさんを見て、仕方ないとばかりに歩を緩めて歩き始めた。
「メリダさんも乗せれない? ダメなら私も歩きたいんだけど。」
どちらの要望にも首を横に振るばかりで、しかも降りようとしたら羽で器用に降りれないように邪魔してくる。いや楽なんだけどさぁ、気まずいよ。
「ミイコちゃん、こういう子たちは気難しいと聞いたことがあるから気にするこたないよ。それにしても何十年ぶりに見たかねぇ、ヴィントにいた時この子のような精霊獣にあったことがあるのさ。」
「へぇ、他にも居るんですね。この先を考えると色々大変かと思いましたけど大丈夫そうですね。」
そんな私の言葉にメリダさんは苦笑して、
「この大陸では見たことないからねぇ。ビル達は大丈夫だろうけど、これから先は思いやられるね。さて、魔獣ではないことをどう解らせるか…。
今の姿は絵本の様なんだけどねぇ。」
今日はワンピースの服を着ているので知らない人が見れば、まるでピクニックに来たかのような格好である。
結局何も思いつかないまま、皆が野営している場所へと着いたのだった。
「キャーーーー。ミ、ミイコちゃん、何があったのかしら? って何よ、この子威嚇してないかしら?」
私たちの姿を最初に見つけたのはロイさんだった。そして、ヒッポグリフは喉の奥から響くような低い声で威嚇している。
「変な人だけど仲間だから威嚇しないで。」
「変な人は余計よ、ミイコちゃんの私への印象がよく判ったわ。で、説明してくれるかしら。」
ヒッポグリフに降ろすよう言うと、今度はちゃんと膝を折って降りやすいようにしてくれた。ここで話すにしては繊細な話なので、私たちのテント側へヒッポグリフを座らせてからテントに入った。
ロイさんに遺跡の中でのことからホウの話までして、忘れずに遺跡の様子が変わったことも報告した。
「そんなことがあったのね…2人が無事で良かったわ。精霊獣様には感謝しなければね。それにしても、これから先どうしようかしら。ここから先は第1の目的地までは森の中だから考える時間はたっぷりあるのよね…。うん、ゆっくり考えましょ。ーーーそれよりも、名前じゃないかしら。」
ロイさんは私たちの話にサクッと自己完結して、いかにも重要なことのように切り出した。確かに名前は重要だけど、これから先の話は後回しでいいのかな…。とりあえず、思いつく言葉を口に出していく。
「ポチ、タマ、ピーちゃん……。」
「斬新な名前だけど、なんだか良くない気がするわ。」
「投げやり感が出ている気がするねぇ。」
ばれたか…。名前を決めるのは苦手だったりする。なんてったって、ホウの名前だって安直だったし。なんとかいい名前がないかとうんうん唸ってひねり出す。そうだ、うちの犬の名前ならバレまい、兄たち以外にはだけど。
「オルランドはどう?」
「それはどういう意味かしら?」
「えっ? 思いついただけだけど。」
「まぁいいわ。精霊獣様が気に入れば問題ないんじゃないかしら。」
なぜか、ため息交じりでオーケー出されたんだけど、バレたか?
私は外に出て、ヒッポグリフに「オルランド」でいいか聞いたら問題なさそうだったので決めてしまった。それに、我が家のオルランドは柴犬の賢い子だったんだぞ。
それから、帰ってきたローナ達が驚き、ビルさんは頭を抱え、ガイツさんはまるで解剖しそうな目で見つめて威嚇されていたのだった。
ビルさんの奔走のおかげで、他の護衛についている冒険者や護衛対象の辺境の村人にも、拝まれることはあっても恐れられることはなかった。
「精霊獣を連れてこられたら、今回の勝負はわたしの負けか〜。」
「今回の騒動で忘れてたよ。んじゃ、フラン戻ったら楽しみにしてるね。」
「わかったよ。あっそうだ、ハナダ兄がさぁーーーーっとやべ、秘密だった。」
「何? 秘密って怪しいなぁ。」
「あぁ、言いたい。でも、冒険者は約束は守らないとな。」
ローナはニマニマとしながら、それでも秘密と言ってくれなかった。あぁモヤモヤする。
そして翌日は寝つきが悪くて寝不足の状態のままオルランドに乗せられて、第1の目的地へと出発したのだった。
それから後は、オルランドのおかげか魔獣が近寄らない。護衛が楽なんだけど、私は運動不足になりそうだった。あとお尻がいたい……。
慣れない乗馬もあって、自分で自分に『促進』を使うことになるとは思わなかった。生命力を使って癒すってなんだろこれ……。
そして何事もなく、第1の目的地へと着いたのだった。
もっと早く書けるようになりたいと思います。読んでくれて、ありがとうございます。




