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子ども達が風邪にリレーで掛かりまして……。遅くなりました。
あの日から私とローナの戦いは1勝1敗1分となっている。今日でこの村を拠点にした食料調達を終えて、明日から再び盗賊の男達が妻子と別れた村へ向かうことになる。
そこから彼ら達へ貸し付けられる村へ向かうらしいんだけど、トラオムの近くだそうだ。トラオムは万年人手不足なうえ近くに村は無い、何しろ住むにはキラーアントといい気合いのいる魔獣が多い。そんな所へ大丈夫なのか聞いたら、辺境に住める人達っていうのはその辺の冒険者より魔獣への対処方法に優れているそうだ。その話を聞いた私は盗賊じゃなくて別の方法があったんじゃ…とか思ったが、色々事情があったんだろう。
そして今日もメリダさんと共に遺跡に居る。昨日から例の消えたダンジョン部分にあたる1層へ入って籠っているところだったりする。
1層への入り口は、神殿の奥にあったホウに似たドラゴンの像の足元にある階段からだった。いかにもなダンジョンに期待してしまう。そんな期待もすぐにへし折られたのはお約束なんだけど。
ちょっと期待してたりしたんだーーーーー宝箱はなかった……。
「また出た。ミイコちゃんお願い。」
そう言ってメリダさんから声をかけられた私は我に返って、スライムを燃やす為に『炎弾』を放つ。スライムは青い炎を出しながら燃えつき核を残した、それをメリダさんはひと突きで破壊していく。ドロップされるのは食べるのを躊躇する色とりどりのグミだった。
自分の体で実験はしたくなかったから、いまだに効果は解らない。ちなみに表層のスライムが落とすのは色とりどりの飴だった。
研究の虫であるガイツさんも分野違いで知らなかったし、メリダさん達はスライムを相手した事がなかったから存在も知らなかった。まぁ表層のスライムは蹴られてたし。
ちなみに1層のスライムはアメーバーのようにズルズルと体を伸ばしながら進んでくる。表層のスライムはボールの様に弾んでくるんだけど、だから蹴りたくなるんだろうか。
たまたま別の魔獣(小型犬サイズの一角のあるモグラみたいな)に出会った時、スライムに『炎弾』が当たって燃えたことにより倒す方法が見つかっただけなんだけど、まさかお菓子になるとは。
結局のところ、この旅が終わってからスライムのドロップ品については検証することになった。
それにしても……昨日から誰かに見られている気がする。メリダさんは感じていないらしいし、私の索敵にも引っかからないから気のせいなのかもしれないんだけど、気になる。
「ぼやぼやするんじゃないよ。次の獲物がお出ましだ。」
「うへぇ、これ苦手。」
出てきたのは全長3メートルはあろうかというヘビが、入り組んだ通路の影から現れる。さっき燃やしたスライムのせいでやって来たに違いない。魔獣だけどヘビの感知能力は一緒そうだもんな。
「メリダさん頭お願いします。『水刃』」
「任せときな。」
このヘビは猛毒をもつデッドリィスネークという魔獣の亜種にあたるとメリダさんが言っていた。ただ石がついているだけで生態は一緒らしい。
毒をもっている牙が邪魔なので『水刃』を飛ばして、デッドリィスネークの頭を胴から切り離す。しかしダンジョンの魔獣は石を砕かない限り動き続けるのだ、だから切り離された頭は胴体を未だに自由にうごかすことが出来る。
石を砕く為に尻尾へ向かう私を感じたのか巻き付こうとしてきたので、『土刃』を靴裏にスパイクの様に出して跳び上がりまとまり始めた胴上を駆けて石のある尻尾へと素早く向かった。
『炎纏』
いつもは鞭状に出している炎をガントレットに本当に纏う様に出して、怪しく輝く石へ叩き付ける。涼やかな音と共に足元が崩れて、私はもう少しで尻餅を着く所だった。
「おっ、今回は毒袋じゃなくて肉だね。なかなか美味しいんだよこいつも。」
「肉でいうなら表層のほうが良さそうですけど。」
「ある程度倒すと毎回ボスが出てくるのさ、面倒だろ? そう言った面では1層はボスがいないから食料集めとしては楽なのさ。
それに私がダンジョン(ここ)を選んだのは、ここなら食料を狩り尽くすことにもならないから村人も嫌な顔をしないからだからねぇ。ミイコちゃんもこういう気遣いを覚えときな。」
そんな理由があったのかと、改めてメリダさんの経験の深さに尊敬の念を覚える。そうして私たちは淡い光を放つ道を奥へ向かって歩いていく。
「あれは?」
「あぁ、昔はあそこに次の層へ向かう階段が現れたみたいだよ。」
再奥で見たのは、上でドラゴンが居た様にグリフォンの像が立っている場所だった。その部屋で一休みして最短で入り口へと向かい、今日はそのまま村へと帰還する予定だ。
……
座ってお茶を飲み始めたとき、先ほどから感じている視線とは別の違和感を感じた。
「メリダさん、私の見間違いでしょうか……。なんか表面はがれてません?」
私はグリフォンを指差しながら、メリダさんへと問いかけた。
「はがれてるねぇ。ーーーーー逃げよう。」
私たちは慌てて、その場を離れようとしたが一歩遅かったようだ。
キィイイイイイ
頭をしびれさす様な鳴き声を上げてグリフォンが身を震わせた。身に纏っていた石は崩れ落ち重たい音をさせている。
「ミイコちゃん、私がなんとかするから逃げなさい。振り返んじゃないよ。」
メリダさんが明らかに死を決意している。私は…………。
「っ、間に合わないか。水盾出せるかい?」
圧倒的な威圧感に動けない私をメリダさんは叩いて正気へと戻した。私は、言われるがままに『水盾』を出す。
グォオオオ
太い声と共に炎のブレスが私たちを襲う。熱さは感じたが『水盾』は思った以上に頑丈で、ブレスを防ぎきった。
「何とか逃げ出す隙を作るよ。」
そう言ってメリダさんはナイフをグリフォンへと投げるが、羽をはためかせた風圧によってナイフは失速してグリフォンへと届かなかった。
「水よ集まりて弾となれ 『水弾』」
キュイイ
顔を狙った『水弾』はグリフォンに当たり、多少なりともダメージを与えたようだ。それにしても、首元をネックレスのように飾っている石全部を壊さないとダメなんだろうなぁ。無理な状況にアドレナリンが出て来たのか、冷静に状況を見れる様になって来た。
そして自らにダメージを与えた私をロックオンしたのか、私へとグリフォンは迫って来た。
「っ、『炎盾』」
「ミイコちゃんっ」
私の前に出来た炎の盾は、柔らかそうな見た目に反してグリフォンの爪をその場で留めている。しかし、いつもならあるはずの炎によるダメージをグリフォンは感じてないようだった。そして、少しずつだが力負けているようだった。
もうダメかっ……
キュィッ、ギャァーーーー
グリフォンは何者かに弾き飛ばされた後、まるで人の声のような悲鳴をあげて目の前から消えた。
「な…に…」
グリフォンが飛ばされた先を見ると、こちらを見つめる新たなグリフォンが居た。いや、後ろが違う。あれはヒッポグリフ?
一難去ってまた一難である。私たちを助けてくれたように見えたけど安心は出来ない。
「助けてくれたの?」
私の問いに答えるかの様に、ヒッポグリフは足を折りその場で休み始めた。まるで敵意が無い事を表しているようだけど。
「メリダさんどう思います?」
「逃げよう。訳はわからないけどね。」
私たちは予定通り最短距離で入り口へと向かった。それこそ他の魔獣にも遭わないで済む様に、回避しながら。そんな私たちの後ろをついてくるヒッポグリフ。
「ついて来てますよ。」
「なんだろうねぇ。」
遺跡から外へはさすがに出て来れないだろうと脇目をふらずに外へ出たが……。
「ついて来てますよ……。」
「ホウくんはなんて?」
メリダさんの言葉に、すっかり動転していた私はホウに聞き忘れていたことを思い出したのだった。
区切りがいいので、この後の話は次話で。




