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ヒッツを出て南下すること1週間がたった。その間に出てくる魔獣はいつも通りといったところだろうか。フォレストディアが出てくる間は食料に事欠かないので嬉しい。
そろそろ魔獣の生息地図が変わるということで、ヴォール河沿いにある村の側に腰を据えて、ここから先の食料を確保する事になった。ヴォール河は、ハイスに向かう時に船で渡ったグリュック河の支流の一つになる。
「目的地まで2週間、帰りの分まで含めると1ヶ月強の食料が必要になってくる。ギルドから付与の着いた袋も貰ってあるし、俺たちはガイツとミイコちゃんもいるから持ち運びは心配ないぞ。
フランでも用意してきたが、不測の事態も考えてここで根入れて狩りをしてくれ! 皆たのむな。」
ビルさんがそう言ってグループ分けをする。ビルさんとロイさんはまとまった量の野菜やパンを購入するための交渉へ村へ向かう事に、それ以外は狩りに出る事になった。そして、ガイツさんは村人の見張りとして留守番である。
「年を取ると体が辛くてたまらんのう。申し訳ないがわしは休ませてもらう。」
そう言って野営地に結界を張ったガイツさんは馬車へと入って行った。
「さて、二手に別れるかい? 皆で同じ所に居ても効率が悪いからねぇ。」
「私は河に行くが一人で大丈夫だ。」
「坊や、居づらいのかもしれないが先を見ないといけないよ。かさばるのは森での狩りになるだろうからミイコちゃんは森だねーーーーローナちゃんはハナダ君について河に行ってもらおうかね。荷物持ちとしては良いだろう。」
メリダさんの言葉にハナダさんの口元がわずかだが引きつっていた。だが、その後ローナの名前が出たとたん口元がゆるんだのを私は見てしまった。嬉しいんだね…、でも少しは積極的にならないとローナには分かってもらえないよ。
「んじゃ〜ミイコ、どっちがより多く穫れるか競争しようぜ!」
「ローナ…。河だとハナダさん任せだから競争にならない。」
「師匠に教わった秘伝の技があるんだ。わたしだって成長してんだぜ!」
そう言ってローナは不適な笑みを浮かべて胸を張った。そこまで言うなら勝負に乗らなきゃ女がすたる。
「メリダさんが審判でいい? 負けた方はフランのグラッセイオのケーキ食べ放題1回。」
「いいよ。」
私たちは拳と打ち合い、それぞれの方向へ歩き出した。
「はぁ、まだまだお子様だね。ハナダ君、ローナちゃんが無茶しない様にみてておあげよ。」
私は振り返ってメリダさんを睨みつけたけど、耳が暑くなっていることを考えると赤くなってるんだろうなぁ。しまりがない。
「メリダさん、どの辺を狙います?」
「そうだねぇ。ーーーーあそこにいってみるか。ついておいで。」
メリダさんはふと考え込んだ後、森へと入って行く。私も後について歩き出した。目的地までは距離があるそうなので、途中でフォレストディアやフォレストボアを見つけたら狩っていく。
「メリダさん、フォレストボアが居ますね。2組いますけど、片方は子連れだからやめときましょうか。」
「そうしておくれ。子連れの警戒網に引っかからない場所で狩るのがいいねぇ。」
この世界も食物連鎖というものが存在しているらしい。魔獣も無から生まれるものではないので、狩りすぎてもいけないそうだ。あくまで襲われなければだが。
子連れをやり過ごしてから、もう1匹へと向かう。相変わらずメリダさんの気配の消し方はすごい。森に溶け込んでいるようだ。
メリダさんに合図をして、2手に別れる。
『ホウ』
『りょうか〜い』
ホウが『変現』してガントレットへとなった。
『土刃』
左手に5センチ幅くらいのダガーが出来る。以前と違い15センチくらい刃が出来た、強度は使ってみないと分からないかな。
あとは……、『炎盾』っていきたいとこだけど、燃やす訳にはいかないし。
『水盾』
成功、右手の甲に直径10センチの水の盾が出来る。なんとか水なら2属性維持出来るか。アマネ様々ってとこかな。ピアス作ったのはセイランだけど。
おっと、メリダさんが仕掛けたみたいだ。
メリダさんの側面からの攻撃で驚いたフォレストボアが、そのまま一直線に走り出した。すでに私は正面に待ち構えている。
「っしょ。」
手の甲の『水盾』で突進を受け流し、首元から刃を入れて搔き切る。刃は喉元から出るか出ないかで折れてしまったが、ここまでいけば大丈夫だろう。最後の力で血を流したまま走っていきそうなフォレストボアを『水纏』で絡めとり、足に力をいれてその場に留めた。
「ミイコちゃんお疲れ。なかなか太って美味しそうだねぇ。」
「そうですね。それに、いい感じで練習相手になりました。」
「あぁ、セイラン君のピアスかい? いいもんもらったねぇ。」
「えぇ、イヤーカフの石に土と風の属性がついてるそうです。」
しかも、わざわざテレスティナさんから貰った石にあの後付け替えたんだよね。こんな貴重なもの貰っていいんだろうか。
そんな私の気持ちを分かってか。メリダさんはいたずらっぽい顔をして。
「良い女はありがたく貰っておくもんさ。大事な女を必死に護ろうとしてるなんて見かけによらず男前だねぇ。」
メリダさんの言葉を聞いて、さらにゲンナリしてきた。重いよ……やっぱり帰ったらセイランに石の分だけでも買い取りにさせてもらおうかな。思いを寄せられても今はそんな気分になれない。
「悪かったねぇ。セイラン君には悪い事をしたようだね。ヒューマンと違って魔法士も私らも寿命は長いんだ、いますぐに結論を出さなくてもいいんじゃないかね。」
ーーーーー?
なんか今、聞き捨てならないことを聞いた気がする。
「魔法士も寿命が長い?」
メリダさんは不思議な顔をして私を見ている。
「おや、誰も言ってなかったのかい。ヒューマンの魔法士の寿命はどのくらいかわからないが、だいたいは2倍近い寿命の長さがあるようだね。だから変人も多いのさ。長い寿命に耐えられる精神が必要ってことかね。」
メリダさんの言葉を聞きながら、訳もわからず動揺していた。
『ホウ、そうなの?』
『うんそうだよ。知らせなくてごめん。落ち着いたらと思ったんだけど、先に知っちゃったね。』
『ど、どのぐらいなの?』
『う〜ん、わからない。僕のご主人様達はすべてを受け入れられなかったから……。』
『……。そう。』
ホウの過去の傷に触ったようで、問いつめる事ができなかった。今は前向きに考えよう、ローナは15歳だしドワーフは200年は生きる。友達はすぐには亡くさない、兄は……老けそうにないんだけど、どうかな。
「ミイコちゃん、ミイコちゃん、大丈夫かい? 少し休むかい。」
「えっ、えぇ、大丈夫です。そうですね、昼ご飯食べましょうか。」
このまま、フォレストボアの血だらけの場所に居ると要らないものを引っ掛けるので素早く収納し、少し移動して昼休憩をとった。
その頃には落ち着いてきて、この世界の寿命を考えてみると、ただ時間の流れが遅いだけじゃないかという気がしてきたのだ。
「なんと言うか、立ち直りが早いねぇ。さてと、お楽しみに向かおうじゃないか。」
それから、小一時間歩いて着いた先は、遺跡……?
私たちが辿り着いた場所は、森の開けた空間にギリシャ神殿のような建物が存在していた。建物のところどころが朽ちて崩れている。
「ここは、私の爺さんが生きてた頃にダンジョンだった場所さ。ある日突然1層から先が無くなったそうだよ。今はその1層を住処にしている魔獣だけしかいないがね。さてと、今日は様子見で表層を探索して帰ろうか。」
メリダさんのお爺さんの頃って軽く400年とか前? この世界にもダンジョンなんてものがあったのか、消えたって事はやっぱりホウに関連ありそうだな。でも、さっきの今だし古傷をえぐりそうなので聞けないよな。
考え込んでいるとメリダさんが遺跡へと入って行ったので、慌てて追いかけて私も入って行った。
ハナダが出たいと言うんです。だから遺跡の話が終わればローナ編としてハナダ視点の話を書こうと思います。




