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25

娘の頭突きを受けて口内炎が4つめ……ぐはっ



 行きよりも帰りは早く感じるもので、実際にファイウェンへ2日で着いてしまったのだから不思議である。


 合流したセイランは何故か涙目で駆け寄って来た。


「いっしょに帰れないかと思ったよ。大変な目にあった……。」


「えっと、なにがあったの?」


 私の問いかけに、セイランが一気に顔を青ざめさせてガタガタと身を震わせた。


「いっ言えない。例えミイコちゃんでもダメだよ。あいつらが来る……。」


 何かトラウマを抱えたセイランをみて、私たちは敢えて聞かない事にした。翌日の出発する頃には落ち着いてはいたけど、それでも周りをせわしなく確認している姿に何があったのかとても気になるんだけど。


 フランに帰り着くと、クラウスさんの事を報告しにロイさんと役所に向かった。


「お帰りなさい。いかがでしたか?」


「農業魔法士はドラゴンからして違いました。畑が耕し易い様に羽が無く、農耕機を引く事が出来るそうです。食べ物も精霊からもたらされた物を育てたものを食べるそうですよ。

 クラウスさんのところはこれからですが、農業ギルドにゴウトカウの時の資料が残されているそうなので、それも報告にいれておいて貰っていいですか?」


 一応、紙で報告書を作ったけど、言葉でも報告しておく。クラウスさんのドラゴンはまるで恐竜のようだった。すでにある程度の大きさがあるところもホウと違っていた。


「それじゃ、サオリにも報告に行く? あの子もミイコちゃんの顔をみたいでしょうからね。」


 冒険者ギルドに入ると、カフェにサオリさんを含めた皆が集まっていた。そして、懐かしい顔もいた。


「元気でしたか、みいこ。心配しましたよ。」


実佳みよし兄さん、何も言わずに消えてごめんなさい。」


「不可抗力ですからね、仕方ないでしょう。でも、雅にはお仕置きが必要ですね。もう一人には教育しておきましたから、もう大丈夫ですよ。」


 実佳みよし兄さんは、相変わらずの綺麗な顔で微笑んでいた。細身の長身で眼鏡を掛けた文学青年に見えるけど、家族の中で母の次に怒らせると怖い人だ。もう一人って誰?


「おいおい、俺を無視する気かぁ?」


 実佳みよし兄さんに抱きついて、なでなでして貰っている所に無粋な声が聞こえた。


 声を掛けてきたのは、同じく兄の流士りゅうしだった。こちらは、いかにもな体育会系で実佳みよし兄さんと双子とは思えない正反対な兄だった。顔は実佳みよし兄さんと一緒で男前なんだけどさ。


「流士兄は呼んでないのになんでいるの?」


「それは、ミカと俺は双子だからに決まってるだろうが。」


「ルシ、答えになってませんよ。急にいなくなった可愛い妹を私たちはずっと探していたんです。みいこに会う為に流士は少々無理をしましてね、大変だったんですよ。」


 実佳兄さんは、流士兄の肩の包帯をさしてそう言った。


「呼んで無いっていってごめんなさいーーーーありがとう。」


 流士兄は、笑って私の頭をガシガシと撫でた。


「えっと…ミイコちゃん、お兄さんだってことは分かるんだけど、急にどうしたの?」


 私を挟んで実佳兄さんと流士兄は、ロイの方へ向き直り真面目な顔をした。


「みいこがお世話になっております、私はみいこの兄のミヨシとこちらはリュウシと言います。

みいこがこちらにいると最近知りましたので、会いにやって参りました。

 なにぶん、随分離れて住んでおりましたもので、しかも放任過ぎる親でしてね……。」


「そうでしたか、兄弟が多いと大変ですものね。ミイコちゃんは可愛いから心配でしたでしょう。何というか…自分に関しては鈍いでしょう、私も心配で側から離れられないのよね。」


「えぇ、悪い虫がついてないかと心配していましたよ。まさか擬態している虫もいるとは思いませんでしたがね。」


 ロイさんと実佳兄さんは顔は笑っていたけど、空気が寒かった。フランは暑いのに、ここだけ季節が違う気がする。


 そしてこういう話の時に、セイランが入ってきそうなのに入ってこない事に不思議に思って探すと、アマネを抱きかかえて部屋の隅の方で体育座りしていた。何やってるんだろ?


 人数が多くなったので、ギルドの部屋を借りて移動した。どうやら、ローナ達がすでにサオリさんに旅の話をしていてくれたらしい。そこへ兄達が私を捜してきたようだ。


「それで、お兄さん達はどうされます? 冒険者になるなら、今から登録しますよ。」


 サオリさんがそう言って話を切り出した。ちなみに、私は兄達に挟まれて座ってます。


「あぁ、俺は頼む。ミカはどうする?」


「そうですね、私もしておきましょうか。こちらでも同じ仕事が出来そうですしね。」


「何か商売を? それでしたら、種類によってギルドが変わりますね。」


「そうですか、何でも屋をやる予定です。」


「なんでもや?」


「情報を集めたり、人を捜したりが主ですね。」


 実佳兄さんの話をうけて、サオリさんはロイさんの方を見て視線で会話している。


「そうねぇ、一応は商業ギルドにも申請を出した方がいいわね。お店を構えるんでしょ? 冒険者ギルドにも似た様な依頼はたまにあると思うけど、それ専門にするならその方がいいわね。」


 どうやら、兄達は向こうでやっていた探偵業をこちらでもするみたいだ。すでに家も借りてあるとか手回しが良すぎる気がする。私も赤熊亭を出て兄と生活する事になった。


 あれよあれよという間に話が進んで、このままパーティーまで解散するのかと心配になった。


 それが顔にでていたのか流士兄が頭を撫でながら、ロイさんを指差して言った。


「俺たちは単独行動が主なんで、ミイコはこれまで通り世話になる。とくにそこのオネエ、俺の妹を頼む。」


「わかったわ。それにしてもお姉って、私は言葉はあれだけど男よ。それに誤解が無い様に言うけど、恋愛対象は女性よ。」


「「えぇ、そうだったの(か)?」」


 ロイさんの方を見て、思わず声に出てしまった。てっきり心まで女の人だと……。というか、ローナまで驚いてるし。


「君たちは……、女の子なのですから気をつけないとダメですよ。パクッと食べられますよ。」


「ミカは似た様なもんだから良くわかるんだな。みぃ、気をつけろよ。」


「ルシ……」


 いや、私はそういう対象には中々ならないと思うんだけど、だってこっちに来てから子供にしか見られてないし。

 それよりも流士兄、一言多いよ。実佳兄さんの顔が、怖い笑顔になってる。


「そうね、ミイコちゃんは特に気をつけた方がいいわよ。危機感が無いというか……ねぇ。ローナは後で覚えておきなさい。」


 ロイさんは私を可哀想な子を見る目で見たけど、ほらあの馬鹿せいらんとか変態を気をつけてたらいいんでしょ。


「「わかってないわね(ないですね)」」


 ため息をつかれた……。


「そうだ、ミヨシ君。ちょっとこっちにいいかしら?」


 ロイさんとサオリさんが実佳兄さんを呼んで外に出た。すぐに戻って来たけど何の用かな。


 今日は兄妹で話す事も多いでしょうと皆とはギルドで別れた。


 その後、赤熊亭に預けてた荷物を引き上げによったら、おかみさんが涙を浮かべて寂しがってくれた。おかみさんと親父さんにはお世話になったもんな。


 兄達が借りた家は、2階建てのフランで良く見かける石造りの家に庭がついているものだった。


「お金はどうしたの?」


「それは、大人の方法がいくらでもあるのですよ。」


 実佳兄さんの笑顔にその先を聞く事はできなかった。きっと、もう一人の被害者さんが何とかしてくれたんだろう。


 部屋の中は、一階はリビングや台所、お風呂があって、2階に4部屋も個室があった。


「とりあえず、ベッドと寝具だけは用意出来てますよ。あとは、明日にでもお店を回って買いましょう。」


 実佳兄さんが、2階を案内して荷解きを手伝ってくれている間に、流士兄がご飯を作ってくれていた。


「ひとりで頑張ったな。これからは俺らが居るんだから甘えろよ。」


 そう言って、私の好きな和風ハンバーグを出してくれた。味噌汁と麦ごはんと流士兄特製浅漬けもあって、なぜ味噌をすでに持っているのか、どこから手に入れたのかが気づかないほど嬉しかった。


 和風ハンバーグは、出汁と肉汁が絶妙に絡み合ってうまみが口一杯に広がる。う〜ん、実佳兄さんだけじゃなく流士兄にも来てもらってよかったかも。


「はは、俺も来てよかったろ。ミカは料理出来ないからな。」


「私は料理が出来ない訳ではないですよ、菓子類しか出来ないだけです。」


 実佳兄さんの言葉に、流士兄は苦笑を浮かべている。


 久しぶりに会った兄達に、安心したのか子供のようにご飯を食べ終わって、そのまま机につっぷして寝たようだった。


 気がつくと外が明るくなった自分の部屋でした。


兄達は例のあの人達です。

読んでいただきありがとうございました。


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